明渡請求とは、借主を強制的に退去させるための法的手段のひとつです。
家賃の未払いなどのトラブルが生じたときのため、貸主は知識をつけておくとよいでしょう。
貸主は明渡請求を行うには、法的手続きに則り、適切な手順を踏む必要があります。
そこで本記事では、明渡請求とはどのようなものなのか、また具体的な進め方や注意点などを解説します。
▼この記事でわかること
- 明渡請求とはどのような法的手段なのかがわかります
- 明渡請求の具体的な進め方がわかります
- 明渡請求を行う際に注意すべきことがわかります
▼こんな方におすすめ
- 明渡請求を検討している賃貸物件の貸主
- 家賃滞納や不法占拠が発生した時に適切な対応を知りたい方
- 将来的に賃貸物件を経営・管理しようと考えている方
建物明渡請求とは?
「建物明渡請求」とは、該当する賃貸物件から強制的に立ち退きさせることをいいます。
明渡請求を行うことで、借主を部屋から強制退去させることができ、また滞納家賃も併せて請求することで、滞納分の賃料も回収できることがあります。
明渡請求に至る要因は、おもに家賃滞納
明渡請求に至るおもな要因は、借主による家賃滞納です。
一般的に賃貸借契約書には賃料に関する内容のほか、解約時や退去時の取り決め、禁止行為、滞納時の対処法などが記載されており、借主は合意の上で契約締結を行います。
しかし収入減や、病気・ケガなど、借主のあらゆる事情によって家賃滞納が発生するケースもあります。
口頭や文書の通知で家賃滞納が解決すれば問題ありませんが、複数回催促しても音沙汰なく、何ヶ月も家賃を滞納されてしまうケースも残念ながら見受けられます。
それでも督促だけをしていても、場合家賃の滞納額が膨れ上がってしまい、回収不能になることもあります。
大家さんとしては、このような賃借人に部屋を貸し続けるよりも、退去してもらったうえできちんと家賃を支払ってくれる入居者に部屋を貸す方が良いでしょう。
そのため、このような状況が続く場合には、催促だけでは留まらずに裁判所に訴訟を提起して明渡請求をする必要が出てきます。
不法占拠が要因となるケースもある
明渡請求に至る要因として、不法占拠も挙げられます。
不法占拠とは、貸主と契約関係やその他の占有権原がないにもかかわらず、建物を無断で占拠していることをいいます。
例えば、貸主と賃貸借契約を結んでいた借主が、無断で第三者にその賃貸物件を貸していた事例が代表的でしょう。
また、貸主と借主の間で賃貸借契約が解除されているにもかかわらず、その物件に居座り続けた場合も不法占拠に該当します。
こんなときは明渡請求を検討しましょう
明渡請求をすべきか否か、法律的な知識がなければ判断も難しいのではないでしょうか。
こちらでは明渡請求をするべき状況について紹介するので、検討材料としてご参考ください。
長期間家賃を滞納されている
長期間家賃を滞納されている場合は、明渡請求を検討しましょう。
賃貸契約の解除には「信頼関係破壊の法理」というものがあります。
信頼関係破壊の法理とは、契約違反があったとしても、貸主・借主の信頼関係が破壊されたといえない場合には解除は認められないとする理論で、現在では広く認められている理論です。
裁判例の傾向では、1、2ヶ月の家賃滞納で明渡請求を行ったとしても、今後の家賃が支払われる可能性が低いと言えるような事情がない場合には、借主と貸主の信頼関係が損なわれているとは認められにくいです。
少なくとも3ヶ月以上の滞納期間があり、催促しているのに賃料の支払いが無い、という場合には、信頼関係は破壊されていて、解除が認められる傾向にあります。
貸主は、毎月家賃支払いの有無や、督促の日時や内容の記録を残しておく事をおすすめします。
借主とのトラブルが発生している
貸主と借主の間でトラブルが発生しているケースも明渡請求を検討すべき状況のひとつです。
例えば次のようなことが挙げられます。
- 他の住人から騒音問題を指摘され、何度注意しても改善しない
- ペット不可の物件でペットを飼っており、何度注意しても改善しない
軽微なトラブルであれば信頼関係の破綻まではいきませんが、重大な賃貸借契約違反をした場合、信頼関係が損なわれたとして、明渡請求の対象になります。
騒音であれば、どの程度の騒音なのか、それがどれくらい続いているのか、賃貸借契約にはどのように規定されているのか、貸主や管理人が注意した際にどのような対応だったか等を考慮して信頼関係が破壊されているといえる程度かということが判断されます。
このような迷惑行為による解除の場合には、迷惑行為の程度や頻度を記録化しておくことが重要ですので、携帯電話のアプリなどでもいいので騒音の内容や大きさ(デシベル計アプリなどで記録)を記録化しておきましょう。
ペットの無断飼育の場合には、どのようなペットか、そのペットが住宅に対して悪影響を及ぼす程度(傷をつけたり、悪臭がしたり等)、賃貸借契約にはどのように規定されているのか、貸主や管理人が注意した際にどのような対応だったか等を考慮して信頼関係が破壊されているといえる程度かということが判断されます。
迷惑行為全般に言えることですが、意外に解除のハードルは高いので、粘り強く注意を行ったのに、どうしても迷惑行為をやめてもらえなかったという状況を立証できるように、注意や相手方の対応についてはきちんと記録しておきましょう。
明渡請求の流れ
では、具体的にどのような流れで建物明渡請求が実行されるでしょうか。
まずは該当する賃貸物件の現況を調査するところから始まり、最終的には法的効力を持った強制執行へと進んでいきます。
それぞれの項目の詳細を見ていきましょう。
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賃貸物件の現況を調査
まずは該当する賃貸物件の現況と、借主の現在の状況を調査します。
ここでは「家賃滞納が起こっている要因を把握する」のがポイントで、借主の家賃未払いの背景によって、家賃未払いについて指摘、交渉を行える可能性があります。
例えば、一次的な失職などで再就職先が決まっているなどの事情がある場合には、交渉が有効でしょう。
また、現況調査をすることで、部屋からの異臭や、ポストの管理不具合などの外的要素を発見できることもあります。
万一、孤独死や行方不明などの場合には、早期に事態を把握して対処することが重要です。
家賃支払い通知を送付する
次の段階は「家賃支払い通知」を借主宛に送付します。
家賃支払い通知には物件名と部屋番号、契約者名(借主名)、不足分の家賃、振込み口座などを記載します。
家賃支払い通知を送付するだけではなく確実に借主とコンタクトを取るため、電話連絡も同時に行うことをおすすめします。
催告状・内容証明郵便の送付
家賃支払いを求める通知送付後、一定期間借主から何の音沙汰もない場合、次のステップとして催告状や内容証明郵便の送付を行います。
催告状は家賃支払い通知よりもさらに強い意志の現れとなり、内容証明郵便も書面の内容や受領したことを証明する機能があり、法的手段を取らなければならなくなった場合に有効です。
このタイミングで「期日までに滞納家賃を支払わなかった場合には契約解除する」旨を記載しておきましょう。
こうしておけば、期日までに支払いがない場合には契約を解除することができます。
連帯保証人への連絡
最近は保証会社の利用も増えてきましたが、賃貸借契約の際、連帯保証人に保証してもらっている場合があります。
連帯保証人は、家賃滞納時に借主と同等の未払家賃の支払い義務を負っています。
よって、借主と音信不通状態であれば、連帯保証人に家賃の支払い請求を行うことができます。
占有移転禁止の仮処分にて保全手続
借主が家賃滞納による明け渡しを避けるため、別の占有者に物件を占有させることを阻止するための保全手続が占有移転禁止の仮処分です。
これは必ず行う手続きではありませんが、悪質な賃借人の場合には、せっかく裁判で勝訴しても、勝訴した後に占有を移転されてしまうと、新たな占有者に対してはそのままでは明渡しの強制執行ができないため、この手続きを行っておいた方がいい場合があります。
部屋に第三者が出入りしている場合や、悪質な賃借人で第三者に部屋を貸してしまうなどの恐れがある場合には占有が移転してしまう可能性が考えられるため、このような先手を打っておくとよいでしょう。
明渡請求訴訟
交渉が上手く進まなかったり、契約解除したにもかかわらず、借主が建物から出ていかず居住を続けている場合は、ついに明渡請求訴訟を行うことになります。
一応の目安として、未払賃料が3ヶ月分に達した場合には、迅速に訴訟を提起することをお勧めします。
訴訟の提起から判決確定までは単純な事例でも2ヶ月~6ヶ月程度の時間を要するため、早く提起しておかなくては明け渡しの実現がどんどん遅くなってしまうからです。
明渡請求訴訟の判決には強制力があるので、判決が確定すれば必ず借主は建物を明け渡さなければいけません。
強制執行
明け渡し訴訟を行い貸主が勝訴した場合、借主に有無を言わせず強制的に明け渡すことが可能な強制執行を申し立てていくことになります。
未払賃料の支払い請求も同時に起こして勝訴していれば、その強制執行をして借主の所有物や銀行預金を差押えて、賃料に充てることも認められます。
強制執行を行うためには、少なくとも以下のような書類を揃える必要があります。
- 執行文付き債務名義の正本
- 確定証明書
- 債務名義正本の送達証明書
明け渡しにおける注意点
明け渡しの交渉・訴訟には、いずれも大変な労力が必要です。
希望通りの結果へ導くために、注意点をふまえて明け渡しを行うことが望ましいです。
自力救済はしない
貸主の方は借主が退去しないからといって、勝手に借主の部屋に立ち入ったり、荷物を運び出したり、鍵を交換したりすることは認められません。
このような行動は、借主がいくら契約違反をしたといっても、賃貸借契約に特約が記載されていたとしても、公序良俗違反や場合によっては器物損壊、住居侵入等の犯罪となる可能性があります。
明け渡しが認められないケースもある
明け渡しは、借主側の過失であれば必ず認められるものではありません。
家賃の滞納期間が短い場合や、借主に支払いの意思があったり、一時的に失業中である場合、もしくは貸主側に落ち度がある場合は、信頼関係が破壊されていないとして解除自体が認められず、強制退去ができないケースもあります。
スムーズな解決は弁護士への依頼がベスト
確実に明渡請求を進めるためには、弁護士に依頼した方が確実です。
もし自力で解決しようとすると借主との関係が険悪になったり、借主が破産し滞納分の家賃を回収することが困難になる可能性があります。
弁護士に依頼すれば、確実な知識のもとでより貸主にリスクの低い方法を提案してくれます。
まとめ
本記事では明け渡しとは何か、また明渡請求までの流れ、注意点をご紹介しました。
家賃滞納に頭を悩ませている貸主は多いですが、明渡請求訴訟ともなれば労力だけではなく大きな費用もかかります。
自力で解決すると貸主様に不利な状況になってしまう可能性も含め、明け渡しを検討されている貸主様は安全な方法として弁護士への相談をおすすめします。