「年俸」でも残業代はもらえるの?あなたの給与が「年俸制」になったときチェックすべきこと

労働・雇用

この記事の監修

福岡県 / 福岡市博多区
弁護士法人リベルタ総合法律事務所 福岡事務所
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「年俸制」と聞いてまずイメージするのは、プロスポーツ選手や外資系企業の役員の給料ではないでしょうか。
こうした人たちは大抵、億を超えるような多額の年収を手にしていて、一般の労働者とは違う世界の話に思えますが、最近は普通のサラリーマンの給与にも「年俸制」が採用されてるケースが増えてきているそうです。

実は「年俸制」は、労働関係の法令で制度が定められているわけではなく、会社がそれぞれルールを決めて運用を行っています。
しかし会社がルールを決めるからといって、無制限に残業をさせたり、長時間労働を強いたりするようなことがあれば違法行為となります。
今回は「年俸制」で損をしないため、詳しい仕組みやチェックするべきことを解説します。

▼この記事で分かること

  • 年俸制で「年俸」がどのように決められるのか解説します。
  • 年俸制の場合、残業や休日・深夜労働の扱いがどうなるのかお答えします。
  • 年俸制の運用に当たり、会社が守っていなければ違法となる事柄について解説します。

▼こんな方にお勧め

  • 会社から「年俸制を導入する」と言われたが、仕組みがよく分からないという人
  • 既に年俸制を適用されているが、以前と比べて収入が減ったと悩んでいる人
  • 既に年俸制を適用されているが、残業代や諸手当がもらえず不満に思っている人

年俸制で給与はどう変わる?

日本ではまだ、年俸制が一般的に採用されるようになってから日が浅く、法律でも明確な基準などは設けられていません。
まずは年俸制の仕組みがどのようになっているか、年俸制と月給制の違いなどについて説明します。

「年俸」の決め方

従来型の月給制は、月当たりの基本給が決まっていて、それに残業代や諸手当、会社の業績に応じたボーナスが加えられるのが一般的ですが、年俸制では、ボーナスなどを含む給与総額が1年単位であらかじめ決定されます。
企業のグローバル化や「成果主義」の導入に伴い、年俸制を採用する会社は増えてきております。

それでは「年俸」は、どのように決められるのでしょうか。
基本的に年俸額は、会社と労働者の当事者間で自由に決めることができます。
従来型の月給制では「年次が上がれば給料が上がる」という「年功制」がベースになっていますが、年俸制では前年の実績・成果を踏まえて年俸額を決めるケースが多いです。

個人の実績・成果をどのように反映させるかのルール、具体的に年俸額をいくらにするかの計算式は、会社によって違います。
年俸を更改するごとに、社員と面接するなどして年俸額を提示し、社員から了承を得るといった方式を取っている会社も多くあります。

どんな方法で年俸制を運用するかは基本的に会社の自由なのですが、年俸に関するルールや計算式を「賃金規定」で定めることは、法律で義務付けられています。
つまり、きちんとした手続きを踏まず、年俸制が導入されている場合には、違法となる可能性もあります。

年俸制でも支払いは「毎月」

ところで、「年俸」というからには、給与は年1回の支払いとなるのでしょうか。それは違います。
なぜなら、労働基準法には「賃金支払いの5原則」というものが定められていて、これは年俸制も例外にはならないからです。

【賃金支払の5原則】

  1. 通貨払いの原則
  2. 直接払いの原則
  3. 全額払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

賃金支払の5原則に基づき、年俸制でも月給制と同様、給与は毎月決まった日に、通貨または預貯金口座への振込の形で労働者に直接、全額支払わなければなりません。
「年俸額を10回に分けて支払う」「不定期に会社の都合で支払う」といったことは違法となります。

年俸制の代表的な支払方法は、「年俸額を12分の1を毎月決まった日に支払う」、または「年俸額の1部をボーナスとして支給し、残りの12分の1を毎月決まった日に支払う」です。
ボーナスを設定する場合は例えば、年俸額を17に分け、17分の1を毎月払い、17分の2を夏のボーナス、17分の3を冬のボーナスにそれぞれ充てるといった方法が考えられます。

年俸制にも「残業代」はある!

年俸制は実際の労働時間とは関係なく、労働者の実績や成果によって賃金を決める仕組みなので、「残業代はどうなるの?」という疑問を持つ方も多いと思います。ここでは、年俸制における残業の取り扱いについて解説します。

「1日8時間、週40時間」を超えれば残業

年俸制の運用は基本的に自由で、年俸額の決め方や計算方法などは会社によって異なるというのは、これまで説明してきた通りです。
しかし一方で年俸制であっても、労働基準法をはじめとする労働法規を守ることは必要となります。

労働基準法は、労働時間を「1日8時間、週40時間(業種によっては週44時間)」までと定めています。これを「法定労働時間」といいます。
会社が、法定労働時間を超えて労働者を働かせた場合は、「割増賃金」すなわち残業代の支払い義務が生じます。
年俸制であっても、1日8時間以上、または週40時間以上働いていれば、会社は残業代を支払わなければならないと法律で決まっているということです。

さらに、残業代となる割増賃金の割増率は「1時間当たりの通常の賃金の1.25倍以上」と、労働基準法で決められています。
そのほか、休日勤務は「1時間当たりの通常の賃金の1.35倍以上」、深夜業務は「1時間当たりの通常の賃金の1.25倍以上」、深夜の残業は「1時間当たりの通常の賃金の1.5倍以上」など割増率が細かく定められています。
年俸制でも、労働者が残業、休日・深夜労働をした場合には、これらの割増率に応じた割増手当が支払われることになります。

残業代、ちゃんと支払われてる?チェックポイント

「年俸制だから、残業代は月々支払われる額に含まれている」と思っても、追加で残業代として支払われるべきケースがあります。
チェックすべき点はどこでしょうか?以下で解説します。

「固定残業時間制」かどうか

年俸制における残業代をチェックする上で、注意しなければならない点が三つあります。

一つ目は、「固定残業時間制」が適用されているかどうかです。

「固定残業時間制」は、一定期間の残業時間を「10時間」「20時間」などと固定し、その分の残業代を支払う仕組みです。
年俸制の給与に、固定残業時間制が適用されている場合は、年俸の中にあらかじめ残業代が含まれている形になるため、予め年俸を決定する際に計算上含まれている残業時間の範囲内での残業に対して、年俸に更にプラスする形で残業代を支払われることはありません。

例えば、Aさんの年俸は400万円ですが、年間の固定残業時間が360時間(月30時間)とされています。
そのため、Aさんは、年間360時間(月30時間)以内の残業に対しては、400万円にプラスして残業代を支払われることはありません。
しかしAさんが固定残業時間の360時間を超えて働いた場合はどうでしょう。会社は、その分の残業代を精算して、Aさんに支払わなければなりません。

年俸制で、常に残業をしているにも拘らず、決まった金額しか払われていない場合は、固定残業時間制になっているのかどうか、まず確認しましょう。
もし固定残業時間制であれば、年俸の中に含まれている年間の固定残業時間は何時間か、チェックしてみましょう。

「管理監督者」かどうか

二つ目は、年俸制の対象となっている人が、会社で「管理監督者」の地位にあるケースです。

「管理監督者」とは、経営者と一体的な立場にある人のことで、例えば「部長」「工場長」といった一定部門を統括する責任者のうち、職務権限、勤務態様、待遇の点で管理監督者と扱うことが相当である者がこれに当たります。管理監督者について労働基準法は、残業代を支払う必要はないとしています。
年俸制でも、通常であれば会社は管理監督者に残業代を支払う義務はありません。
(ただし、深夜の残業などは管理監督者であっても深夜割増手当等を支払う必要があります。)

ただ「あなたは部長になったから残業代は支払わない」と会社側から言われたとして、実は大した権限もなく、待遇も一般の社員と変わらないような場合には、「管理監督者」として認められません。
「管理監督者」としての実態がないのに、会社が残業代を支払わないのは違法の可能性があります。

「裁量労働制」かどうか

三つ目は、年俸制の対象となっている人が、裁量労働制で働いているケースです。

「裁量労働制」とは、企業と労働者間で定められた時間を働いたものとみなして賃金を支払う制度となります。

実際の労働時間ではなく、みなし労働時間を設定して労働時間を管理しますので、労働基準法の労働時間の規制がそのまま及ばず、法定労働時間の8時間を超えて働いたとしても、会社は残業代を支払う必要がないとされることがあります。

もっとも、契約時のみなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超える契約では、原則として、超過した時間に対しての割増賃金が必要となりますので、仮に、1日の労働時間を10時間とみなす裁量労働制が採用されている場合、原則として、法定労働時間を超える2時間分の時間外労働の残業代の支払いが必要となります。
ただ、例えば2時間分の残業代を含めて賃金が設定されている場合には、残業代の支払いは必要ないことになります。

また、裁量労働制の対象とされる業務は限定されているだけなく、一定の事項について労使協定や労使委員会による決議が求められておりますので、裁量労働制が導入されていても、有効ではない場合があり、その場合、会社は残業代を支払う必要が出てきます。

年俸制が「違法」になるのは?

年俸制は本来、仕事の成果を公平に賃金に反映することで、労働者個人の能力やモチベーションを高めるなどのメリットが期待できる給与制度ですが、正しく運用されていないケースが多いのが実情のようです。
ここでは年俸制が違法になるケースとその対処法についてまとめました。

「年俸制で契約したので残業代は払わない」と言われたら

ありがちな誤解として、「年俸制だから必ず残業代はなし」というものがあります。以下の質問を見てみましょう。

私は社歴3年のIT系ベンチャー企業社員です。
入社当時から給与は年俸制で、年度初めに年俸額は更改されていますが、今年度は前年に比べて減額になり、何を根拠に額が計算されているかも分からないし、納得いかない気持ちです。
何よりも毎日夜遅くまで仕事をしているのですが、残業代がまったく出ていないことに不満があります。
人事に聞いてみると「あなたの場合、年間の業績評価に対する給与として年俸で契約しているので、残業をしたからといって会社には残業代を払う義務はない」と言われました。
会社が言っていることは正しいのでしょうか。

「業績評価に対する給与として年俸で契約しているから、残業代を払う必要がない」という考え方は間違いです。
労働基準法に定められている通り、「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて働いた分は、年俸制でも残業代を支払う義務があり、未払い残業代があれば請求することが可能です。

また労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する会社に対し、就業規則の作成を義務付けていて、その中に賃金に関する規定を設けなければならないとしています。
年俸制の場合も、年俸額の決定方法、計算方法、支払方法、締切日、支払い時期、昇給について賃金規定で定め、労働基準監督署に届けなければなりません。

したがって、年俸額の改定基準や手続きについて明確な基準がなく、会社が一方的に年俸の減額を決定するようなケースは違法となる可能性がありますので、会社側と納得がいく形で合意が得られるように、交渉されるのが良いかと思います。

年俸制についての相談は弁護士に

年俸制で「未払い残業がある」「不当に年俸額を減額された」といったトラブルを抱えた場合、労働問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

未払い残業代を請求するには、まず未払いとなっている残業代がいくらなのか確定させなければなりません。
固定残業時間制の場合は、年俸額のうち、通常の賃金に当たるのいくらで、固定残業代に当たるのがいくらなのかチェックしましょう。
その上で、実際に残業した時間に対し、未払いの残業代がいくらになっているのか計算します。

ただ未払い残業代の計算には、実際に仕事をした時間を細かく把握し、それぞれに割増率を乗じるなど複雑な作業が必要となります。
さらに会社に請求するためには、「残業をした」という証拠を集めなければならないため、弁護士はじめ労働問題に詳しい人のアドバイスがは必須です。

まとめ

年俸制 まとめ

年俸制をめぐっては最近、労働者が未払い残業代を求め、裁判所が会社側に支払いを命じる例が増えております。
それだけ会社が間違った認識で、年俸制を運用しているケースが多いということでしょう。
年俸制で納得がいかないことがあれば、一人で悩まず、まずは弁護士に相談してみましょう。

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