「みなし残業代」って何?「働かされ放題」にならないため理解するべきこと

労働・雇用

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株式会社ココナラに在籍する弁護士が監修しています
株式会社ココナラ

「みなし残業代」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「みなし残業代」とは一般的には「固定残業代」と同じ意味で使われます。つまり、実際に働いたか働いていないかに拘らず、一定の時間、残業があったものとみなして支払われる残業代が「みなし残業代」です。

ところで、これを読まれている方の中には「みなし残業代に含まれているから」などと言われて、長時間労働を残業代なしで強いられているようなことはないでしょうか。そんな「定額働かされ放題」のような状況を避けるためにも、「みなし残業」について理解すべきことを解説します。

▼この記事で分かること

  • 「みなし残業代」とはなにか、わかります。
  • 「固定残業代制度」の仕組みが分かります。
  • 「固定残業代制度」で違法となるケースについてお答えします。

▼こんな方におすすめ

  • 長時間働いても残業代がもらえず不満を感じている人
  • 「みなし残業代」について疑問や疑念を抱いている人
  • 自分の給与制度に「固定残業代制度みなし残業」が採用されている人

「みなし残業代」とは

「みなし残業代」は、一般的には「固定残業代」とほぼ同じ意味で使われます。
ここでは、みなし残業代、つまり固定残業代を支える「固定残業代制度」について解説します。

みなし残業代=固定残業代

みなし残業代とはなにか、というお話をする前に、そもそも残業時間や残業代の計算というのはどのように行われているのでしょうか。
労働基準法は、1日の労働時間を「8時間まで」と決めていて、8時間を超えて働いた場合は、超えた時間分の割増賃金(残業代)を支払うよう会社に義務付けています。

通常の給与制度であれば、タイムカードなどで出退勤を管理し、8時間を超えて働いた残業時間を1日ごとカウントします。月給制の会社なら、1カ月分の残業時間に応じた残業代を給料日に支払うというのが一般的でしょう。

これに対しみなし残業代の根拠となる固定残業代制度は、一定期間の残業時間を「40時間」などと固定し、その分の残業代を支払う仕組みになっています。この固定された残業時間に対応する残業代固定残業代であり、「みなし残業代」とも呼ばれます。
なお、固定残業代制度での残業代支給にあたっては、基本給と固定残業代(=みなし残業代)部分は、明確に分けられて表示されなければいけません。

固定残業代制度は、会社からすれば、残業代の計算が楽になります。また、採用の段階で固定残業代制度として給料を提示すれば、残業代を含めた金額を年収として提示できることから、給与面での条件をより良く見せることができるというメリットがあります。(ただし年収を提示する際、「●●時間分の残業代を含む」などと内訳を記載する必要はあります。)。労働者にとっても「頑張って早く仕事を終わらせよう」というインセンティブになります。適切に運用されていれば労使にメリットのある制度です。

固定残業代制度は、労働基準法などの労働法に根拠となる規定はありませんが、判例などで認められており、どんな業種においても導入は可能です。ただし、導入に当たっては以下のことが必要となります。

  • 労働契約や就業規則に「固定残業時間制」に関する規定を明記し、労働者への周知を徹底する
  • 基本給と固定残業代の区別、固定残業時間を明示する
    • 例えば、月給が25万円の場合、「基本給20万円+固定残業代5万円(20時間相当の残業代)」などのように内訳を明らかにする必要があります。
  • 実際の労働時間が、固定残業時間を超えた場合、超過分の残業代を支払う
    • 例えば固定残業時間が「月20時間」とされている人が、実際には月30時間働いていた場合、10時間分の残業代を払わなければならないということです。

「みなし残業代」に加えて、はみ出た分の残業代は請求できる?

通常の給与制度なら、実際に残業をした時間分の残業代が支払われていなければ、未払い残業代を請求することが可能ですが、「みなし残業代」として月々支払われている場合は、どんなに働いても残業代はそれ以上もらえないのでしょうか。

違法?な固定残業代制

前項で説明しましたが、固定残業代制を導入するに当たって会社は、みなし残業の時間と金額を労働者に対して明らかにしなければなりません。実際の労働時間が、みなし残業の時間を超えた場合には、超過分の残業代を支払うことも必要です。

みなし残業の時間と金額を労働者に明示していない場合、または、みなし残業の時間を超えて労働者を働かせているのに、超過分の残業代を支払っていない場合は、違法となる可能性があります。

例えば、固定残業時間制で働いているBさんは、毎月25万円の給与の支給を受けています。実際の残業時間は、月によって30時間だったり、40時間だったりしますが、月の給与支給額は変わっていません。おかしいと思って調べていると、そもそも25万円の給与の内訳は、基本給が20万円、固定残業代が5万円で、みなし残業の時間は月20時間となっていました。

Bさんの状況は、違法である可能性があります。Bさんは、みなし残業に設定されている20時間を超えて働いていた分の残業代を請求できる可能性があります。

固定残業時間制での残業代の請求に関しては、Bさんのような超過分の未払いだけではなく、固定残業代が「基本給と判別できない」ことを理由に、会社に残業代の支払いを命じた判例もあります。

【テックジャパン事件(最高裁平成24年3月8日判決)】
人材派遣会社に勤務する派遣労働者が、残業代の支払いを請求しましたが、会社は派遣労働者に基本給41万円を支払っており、「労働時間が180時間以内の場合は、基本給に残業代が含まれている」と反論しました。実際、会社は派遣労働者と「月間総労働時間が180時間以内の場合、残業代を支払わない」との契約を交わしていたのです。しかし判決では、基本給と固定残業代の判別がつかず、残業代が支払われたとすることはできないため会社に対し残業代の支払いを命じました。

給与制度をチェックしよう

みなし残業代が支払われているものの、本当に正しい残業代が支払われているかどうか疑問を持たれた際に、チェックすべきポイントをお伝えします。

それって本当に正しい残業代?

毎日朝早くから夜遅くまで働いているのに残業代が支給されていません。
会社に問い合わせたところ「あなたは基本給と一緒に、月々の残業分についてみなし残業代が支払われているので、残業代はすでに支払い済みです」と言われました。会社の言っていることは事実なのでしょうか。どんなに働いても、みなし残業代以上の残業代は請求できないのでしょうか。

みなし残業代については、会社が間違った認識の下に運用しているケースが少なくありません。あなたの残業代が本当に正しく支払われているか確認するためには、以下のことをチェックしてください。

 

1)あなたに適用されている給与制度は固定残業代制度なのか
固定残業代制はすべての職種に適用可能ですが、適用にあたっては就業規則や雇用契約書の中でそのことが明らかにされていなければなりません。就業規則やご自身の雇用契約書の中に、固定残業代制度とする旨、明示されているかどうか確認してみましょう。

 

2)固定残業代制度の残業時間は何時間に設定されているか
固定残業代制度では、想定している残業時間があります。未払い残業代があるかどうか知るには、まず固定残業時間が何時間になっているのか確認しましょう。規定された労働時間以上に働いている場合は、未払い残業代を請求できる可能性があります。

納得できないときは弁護士に相談

自分の給与制度は、給与明細で確認できる部分もありますが、明細に書かれている手当の意味合いなど、1人では理解できないこともあります。自分に適用されている固定残業代制についても、労使交渉や就業規則をみれば、ある程度分かるのかもしれませんが、労働法規に詳しくなければ、理解できないことも多いでしょう。

「おかしい」と感じたならば、会社に問い合わせることもできますが、会社側が制度を適正に運用していない場合は、正しい回答は期待できないでしょう。自分1人で解決しようとせず、労働問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

自分の給与制度をチェックした上で、超過残業代や休日、夜間手当の未払いの可能性があると分かれば請求するべきです。請求する際も弁護士に相談すれば、残業や休日・夜間労働をした証拠の収集、会社との交渉を依頼できて安心です。

まとめ

みなし残業代 まとめ

「みなし残業代」の根拠となる固定残業代は本来、人事管理の効率化や自由な働き方を実現するもので、会社にとっても労働者にとってもメリットの大きい仕組みです。ですが実際には、固定残業時間として想定された時間以上の残業をしても、本来支払われるべき残業代が支払われないままになっているケースが多くなっています。「定額働かされ放題」にならないよう自衛のためにも、自分の「みなし残業代」がどんな制度に基づいて、何時間で設定されているのかなどチェックしてみてはいかがでしょうか。

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