仕事中、事故に巻き込まれケガをしてしまった。長期間にわたる重労働で病気を発症してしまったー。
そんな時に頼りになるのが「労災保険」です。
本コラムでは、労災保険の仕組み、補償対象となる業務災害、通勤災害の認定基準、給付の種類や支給額などについて解説します。
▼この記事でわかること
- 適用となる労働者の範囲など、労災保険の基本的な仕組みがわかります
- どのようなケースが労災に認定されるかわかります
- 労災保険の給付にはどんな種類があり、支給額はどのくらいか解説します
▼こんな方におすすめ
- 業務上のケガ、または病気について、労災を申請するかどうか悩んでいる方
- どのようなケースが業務災害、通勤災害として認められるか知りたい方
- 万が一に備えて、労災保険に関する基礎知識を身に付けておきたい方
労災保険とは?どんな仕組み?
危険性の高い業務に従事している人はもちろん、それ以外の労働者でも、業務上あるいは通勤途中に不測の事態に陥り、ケガを負ってしまったり、病気を患ってしまう可能性はあります。
そんな時、労働者の生活を補償するのが労災保険ですが、「あまりよく知らない」という方も多いのではないでしょうか。
まずは労災保険の基本的な仕組みについて説明します。
労災保険の適用事業
労災保険は正式には「労働者災害補償保険」といい、政府が管理し会社が加入する保険です。
業務上の理由、または通勤による労働者の負傷・疾病・障害・死亡などの労災(労働災害)に対し、必要な保険給付を行います。
労災保険制度では、労働者を1人でも使用していると「適用事業」となり、労災保険への加入が義務付けられます。
基本的には業種や規模を問わず、労働者を1人でも雇用していれば、労災保険に強制加入させられるという仕組みです。
一部例外もあり、国会公務員と地方公務員の一部は適用除外、使用労働者数が常時5人未満の農林水産の事業は任意加入となります。
労災保険の適用労働者
労災保険の対象となる適用労働者は、「労災保険の適用事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と労災保険法で定められています。
適用事業に使用されている労働者であれば、雇用形態に関係なく、アルバイト・パート・臨時雇い・外国人労働者・派遣労働者などもすべて適用労働者になります。
一方、使用関係がない場合は、適用労働者になりません。
具体的には、請負や委任で仕事をしている人、経営者や共同経営者、自営業者などです。
これらの人は、原則として労災保険の対象から除外されます。
労災保険の保険料
労災保険は会社が加入する保険なので、保険料も事業主が全額負担します。
事業主が支払う保険料の算出方法は、【労働者の賃金の総額】✕【保険料率】です。
保険料率は、それぞれ業種によって決められています。
労災保険の補償対象となるケースは?
労災保険の補償対象は、「業務災害」と「通勤災害」の2種類に分けられ、それぞれ認定基準があります。
どんなケースが「業務災害」「通勤災害」と認められるのか、具体的に説明しましょう。
業務災害
業務災害とは、業務上の負傷、疾病、障害又は死亡を意味します。
業務災害に該当するかどうかは、一般的に業務遂行性の有無と業務起因性の有無で判断されます。
業務遂行性というのは、「労働者が事業主の支配下にある状態」をいいます。
業務起因性というのは、業務と死傷病等との間に一定の因果関係(相当因果関係といわれます。)があることといいます。
ケースによって考え方も様々ですので、以下では例としてケガと疾病の考え方についてご説明します。
ケガについて
- 定時時間内や残業時間内に、職場の施設内で業務に従事している際のケガ
定時時間内や残業時間内に、職場の施設内で業務をしているなかで負傷した場合、当然、事業主の支配下にあるといえるため、業務遂行性が認められる結果、基本的に業務災害と認められます。
ただ、「業務を逸脱する私的行為」「第三者からの暴行」などによって負傷した場合、業務とケガとの因果関係がないとされ、業務災害と認めらない可能性もあります。 - 休憩中や就業時間前後に職場の施設内にいる際のケガ
休憩中や就業時間前後でも、職場の施設内にいる限り、「事業主の支配下にある」ことになるので、業務遂行性が認められる結果、業務に従事していなくても業務災害となります。
ただこの場合も、私的な行為による負傷は業務とケガとの因果関係がないとされ、業務災害とは認められない可能性があります。 - 出張や社用などで外出し、業務に従事している
職場の施設外で事業主の管理下にいなくても、事業主の命令を受けて仕事をしているのならば、「事業主の支配下にある」ことになり、業務遂行性が認められます。
疾病について
一方、疾病については、業務起因性の判断が難しい場合があります。
なぜなら、疾病の原因が私生活にあるのか、業務にあるのか明確でない場合がほとんどだからです。
ただ、例えば、工事現場で有害物質にさらされる環境にあるようなケースでは、次の要件を満たしていれば業務災害として認められる可能性が高いです。
- 職場に有害因子が存在している
「有害因子」とは具体的に、化学物質や病原体、身体に過度の負担がかかる作業などを指します。 - 健康障害を起こし得るほどの強い有害因子にさらされたと認められる
- 発症の経過および病状が医学的にみても業務災害として妥当である
通勤災害
通勤災害とは、労働者が通勤により被った傷病などのことをいいます。
通勤災害と認められる移動は、次の通りです。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居の移動
これらの移動を「合理的な経路および方法」で行っていた場合のみ、通勤災害は認められます。
移動の経路を逸脱したり、移動を中断したりした時は、やむを得ない事情がない限り、基本的に「通勤」ではなくなります。
例えば会社帰りに居酒屋に寄って、そこからの帰宅途中に事故に遭ったようなケースは、通勤災害に該当しない可能性が高いです。
労災保険で受け取れる給付金や年金
業務災害、通勤災害が認められた場合、どのような補償があり、給付額はどのくらいになるのでしょうか。
業務災害の場合「補償給付」、通勤災害の場合は「給付」という名称になりますが、支給要件や補償内容は同じです。
おもな労災保険給付金の種類について、紹介します。
療養(補償)給付
療養(補償)給付とは、労働災害による傷病が治るまでの療養に対する給付です。
療養の範囲は、診察・処置・手術・薬剤などの支給・居宅看護などで、必要と認められれば通院にかかった交通費も給付対象になります。
休業(補償)給付
休業(補償)給付とは、労働災害による傷病で、労働することができず、賃金を受けられないときの給付です。
休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額が支給されます。
給付基礎日額とは、災害が発生した日以前3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った平均賃金をいいます。
障害(補償)給付
障害(補償)給付には、障害(補償)年金と、障害(補償)一時金が含まれます。
障害(補償)年金は、業務災害、通勤災害による傷病が治った後に、障害等級第1級から第7級までに相当する障害が残ったときの補償です。
障害の程度に応じ、給付基礎日額の131日〜313日分が年金として支給されます。
障害(補償)一時金は、残った障害の等級が8級から14級と、比較的軽い人が対象の一時金です。
一時金の額は、障害の程度に応じ、給付基礎日額の56日〜503日相当分となっています。
介護(補償)給付
介護(補償)給付とは、障害(補償)年金、または傷病(補償)年金の受給者のうち、障害等級1級か2級で、介護を受けている人を対象とした給付です。
傷病(補償)年金
労働災害による傷病が、療養開始から1年6カ月を経過しても傷病が治っていない、または障害の程度が傷病等級に該当する場合の補償です。
障害の程度に応じ、給付基礎日額の245日〜313日分の年金が支給されます。
遺族(補償)年金
遺族(補償)年金とは、労働災害で死亡したときに遺族に対して支給される年金です。
支給額は、遺族の数などに応じて、給付基礎日額の153日〜245日分となります。
業務災害、通勤災害で死亡した人の葬祭に際しては、「葬祭料」も支給されます。
支給額は31万5000円に給付基礎日額+30日分の金額となります。
労災保険の給付を受けるには?手続きの方法
最後に、保険給付を受けるための手続きについて説明します。
- 被災した労働者またはその遺族が、所定の保険給付請求証明書に必要事項を記載
- 会社に事業主証明を求める
- 必要書類を貼付したうえで、事業者の所在地を所管する労働基準監督署に提出
保険給付請求証明書は、給付の種類によって様式が違います。
労働基準監督署で入手、あるいは厚生労働省のホームーページからダウンロードすることが可能です。
証明書の提出に当たっては、請求内容に間違いがないか、会社の証明が必要になります。
労働基準監督署は、提出された証明書の内容に基づき、業務災害や通勤災害に該当するか判断をし、その結果により給付、不給付を決定します。
労災が認められない場合などの対処法
業務災害や通勤災害が認められず不給付になった場合など、労働基準監督署の決定に不服がある場合は、都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求をすることができます。
さらに、審査官の審査結果に不服がある場合は、厚生労働省に設置されている労働保険審査会に再審査請求、あるいは裁判所に対し行政訴訟を起こすことも可能です。
労災の手続きに悩んだら、弁護士に相談を!
保険給付の手続きで悩んだら、弁護士に相談するのも選択肢のひとつです。
請求にあたって、会社が証明を出してくれないケースなどでは、弁護士に交渉を依頼することができます。
請求する前の段階であっても、労災認定がスムーズにいくように、業務災害や通勤災害を証明する証拠を集めてもらうことも可能です。
まとめ
最近では、仕事の強いストレスによる精神障害が、業務上の災害として認められるようなケースも増加しています。
労災はどんな業種にでも起こり得る、より身近な問題になりつつあります。
これから安心して働いていくためにも、労災保険について基礎知識を頭に留め、いざというときに対応できるようにしておくことをおすすめします。