「店長になったので、残業代はなくなります」。
会社で管理職になったとたん、残業代が支払われなくなったという経験はありませんか?
管理職とはいっても権限はほとんどなく、給与も他の社員と比べあまり変わらないにいもかかわらず、残業代が支払われていないようなケースは、「名ばかり管理職」として違法の可能性があります。今回は、どんな人が「名ばかり管理職」に該当するのかチェックする方法、「名ばかり管理職」になってしまった時の対処方法などについて解説します。
▼この記事で分かること
- 「名ばかり管理職」の意味について詳しく説明します。
- 「名ばかり管理職」の見分け方について説明します。
- あなたが「名ばかり管理職」だった場合、どのように未払い残業代を請求するかお答えします。
▼こんな方にお勧め
- 管理職になって残業代がなくなり、給与が減って不満を感じている人
- 管理職としての職務、仕事に不満を感じている人
- そもそも「管理職」の意味や位置づけが分からないという人
「名ばかり管理職」ってどんな人?
「名ばかり管理職」と聞いて、もしやうちの上司?あるいは自分?と、思い当たるフシがある人もいるかもしれません。
とはいえ、実際に何をもって「名ばかり」になるなのか、正確に知っている人は少ないでしょう。まずは「名ばかり管理職」とは何なのか、詳しく解説します。
「管理職」と「管理監督者」の違い
「名ばかり管理職」とは、当該労働者の権限や待遇等の実態に反して、管理職らしい名称を付して労基法41条2号の「管理監督者」として扱い、労基法に従った残業代が支払われていない人のことです。
法律上は「管理職」を定義している規定はありません。
慣用的に、会社や官公庁、学校など、組織の中で部下を管理、監督する立場にある人に対して使われています。
管理職の範囲についても、組織によって定義の違いがあります。会社であれば、課長以上の職にある人を管理職とするケースが多いようですが、誰を管理職にするかは、それぞれの会社が独自の基準で決めています。
こうした会社が独自に定める「管理職」と、労基法の労働時間等に関する規定が適用除外となる「管理監督者」(労働基準法第41条2号)は異なります。
労働基準法第41条2号では、
「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」
と定められています。
これを略して「管理監督者」と呼ばれています。どういう人が「管理監督者」に該当するか、労基法に明記されているわけではありません。
そのため、「管理監督者」かどうかという判断は、過去の裁判例などと照らし合わせて行われることが多いです。
一般的には、「経営者と一体的な立場にある者」であり、経営者から重要な責任と権限を委ねられ、会社の経営に関わる重大な職務に携わっていること等が客観的に確認できれば「管理監督者」に該当することになります。「客観的」であることが重要ですので、会社が独自の基準で決めることはできません。
管理監督者の最大の特徴は、「労働基準法の労働時間等に関する規定が適用されない」という点です。
一般の労働者の場合、労働時間は「1日8時間、週40時間」までと労働基準法で決められていますが、管理監督者は、通常の労働時間の枠を超えて自分の裁量で仕事をすることが認められています。そのため、会社は管理監督者に対し、労働時間外の手当、すなわち残業代も支払う必要がありません。
実態として、会社の中で「管理職」の扱いになっている人のうち、本当に「管理監督者」に該当するのは上位の幹部に限られます。
「管理職」イコール「管理監督者」でないにもかかわらず、「管理職だから」と言って残業代を支払わないのが、「名ばかり管理職」なのです。
「管理監督者」の判断基準
次に「管理監督者」の判断基準を見ていきましょう、管理監督者として認められるのは、以下の基準をすべて満たしている場合です。
(1) 地位、職務内容、責任と権限からみて、経営者と一体的な立場にある
会社の基準で管理職とされていても、経営に関わるような仕事をしていなければ、管理監督者とは認められません。
(2)出退勤はじめとする労働時間について、自分自身で決める裁量権を持っている
一般の労働者と同じように会社に労働時間が管理されていて、自分で仕事をする時間を決められない管理職は、管理監督者に該当しません。
(3)一般の労働者と比べ、その地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられている
例えば、会社で管理職に昇進したけれど、十分な管理職手当が支給されておらず、給料は一般の労働者と変わらないといったケースは、管理監督者として認められません。これで残業代が支払われていなければ、名ばかり管理職だと考えられます。
「名ばかり管理職」の見分け方
管理監督者なのか、名ばかり管理職なのかの判別は、それぞれの職務内容や勤務実態、待遇などを踏まえて、個別に行う必要があります。「名ばかり管理職」の事例と、「名ばかり管理職」を見分けるためのチェックリストをまとめました。
チェーン店に多い?名ばかり管理職の事例
「名ばかり管理職」はどんな職場にも発生する可能性はありますが、小売り・飲食のチェーン店の店長めぐり、「名ばかり管理職」が指摘されるケースが過去に多くありました。その中の一つが、日本マクドナルドの直営店の店長による訴訟です。
【日本マクドナルド事件(2008年東京地裁判決)】 原告の男性は、日本マクドナルドが直営店の店長を管理監督者として扱い、残業代を支払っていないのは違法だとして、2年分の残業代の支払いを求めました。判決では、男性は店長としてアルバイトの採用や育成、勤務シフトの決定などの権限を持ち、店舗運営の重要な職責を負ってはいるが、その権限は店舗内に限られると指摘。経営者と一体的な立場とはいいがたく、賃金も管理監督者の待遇として十分ではないとして、管理監督者に当たるとは認められないと判断し、未払い残業代など約750万円の支払い会社に命じました。※うち約250万円は付加金 |
名ばかり管理職のチェックリスト
管理監督者として認められるための要件を踏まえ、「名ばかり管理職」のチェックリストを作成しました。以下のいずれかに該当する場合、あなたは名ばかり管理職の可能性あります。
(職務内容・責任・権限)
- 部下の採用、異動、人事評定などに関する責任と権限が実質的にない
- 自分の部署や店舗に関する意思決定はできるが、会社の経営方針には口出しできない
(勤務態様)
- 決まった時間に出退勤しなければならない、営業時間中は店舗に常駐しなければならないなど、労働時間に関する裁量がない
- 遅刻や早退などによって、減給、人事考課でのマイナス評価など不利益な取り扱いを受ける
(賃金)
- 残業代が支払われていないことを考慮すると、基本給・役職手当が不十分
- 1年間に支払われた賃金の総額が、同じ会社の一般社員の賃金総額と同程度かそれ以下
「名ばかり管理職」になったときの対処方法
もしもあなたが、名ばかり管理職に該当していた場合、会社に対して何ができるでしょう。本来なら支払われるべき残業代を請求する方法などについて説明します。
残業代は請求できる?
ここでは具体的な事例をもとに、残業代を請求できるかどうかを見ていきます。
いつも人手が足りなく、私は店とスタッフの管理業務をしつつ、他のスタッフと同様に調理や配膳の仕事もこなしています。店舗は24時間営業なので常時1日12時間以上、スタッフが急に休んだときなどは早朝や深夜も含め長時間店舗にいなければならいません。ですが会社からは「店長は管理職だから」と言われ、役職手当が3万円がつくだけで残業代は支払われていません。最近、本社の事務部門で働く後輩に聞いたら、年収もほとんど変わらないようで、納得がいきません。会社に対し、何か主張できることはないでしょうか。
あなたの場合、管理職とは言っても、店舗内の管理を任されているだけで、労働に見合う十分な手当も支給されていないようですから、「名ばかり管理職」である可能性は高いです。「名ばかり管理職」なら、本来受け取るべき残業代や深夜・休日手当を会社に対して請求することができます。
仮に、あなたが管理監督者に該当するとしても、会社が長時間にわたる過度な重労働を強いることは違法になる可能性があります。また管理監督者にも、会社は深夜手当はを支給する必要があります。
一度、あなたの労働環境の問題点を整理し、会社と話し合ってみたらいかがでしょうか。
弁護士に相談しよう
会社に対して残業代などを請求するためには、未払いになっている残業代や手当がいくらなのか把握し、一方で自分が名ばかり管理職であることを会社に認めてもらわなければなりません。
残業代は、労働基準法で決められている労働時間「1日8時間、週40時間」を超えた分に対し、同じく労働基準法で決められている割増率をかけて計算します。額はこれで把握できますが、実際に請求すると、請求額の分「残業をした」という証拠を集めることが必要となります。タイムカードや出勤簿、メールでの仕事関係者とのやり取りなどが証拠となります。
一方、名ばかり管理職をめぐっては、会社が管理監督者についての認識を誤っていただけならば、説明すれば残業代の支払いなど期待できるかもしれません。
しかし、労働者個人が会社に対し、管理監督者の判断基準にあてはまらないことを説明して正しい残業代支払いを求めることは相当困難です。また、管理監督者の要件を満たしていないことを承知の上、故意に残業代を免れようとしているのであれば、交渉で改善させるのは難しいかもしれません。
しかし、これまでの裁判では、名ばかり管理職の主張が認められ、会社に残業代の支払いを命じた事例が多くあります。名ばかり管理職だと思ったら1人で悩まず、労働問題に詳しい弁護士などに相談し、問題の解決を図るべきでしょう。残業代請求の時効は3年なので、対応を急ぐ必要もあります。
弁護士に相談すれば、複雑な残業代の計算や証拠集めのアドバイスを受けることができます。会社との交渉の窓口になってもらい、裁判になった際に依頼できてスムースです。
また、「名ばかり管理職」とは、労働者の命と健康を守るための割増賃金制度(働き過ぎ防止のためのブレーキ)が機能していない状態です。会社に適切な残業代を支払わせることが、過重労働の抑止=命と健康を守ることにつながる可能性があります。そういった観点からも早期に弁護士に相談をするべきです。
まとめ
これまで訴訟などを通じて「名ばかり管理職」が何度も社会問題化しきましたが、管理職であることを口実に労働者を長時間働かせ、残業代を支払わないケースは後を絶ちません。
自分が名ばかり管理職に該当している可能性があれば、泣き寝入りせず、待遇の改善を目指すべきです。また今後、名ばかり管理職にならないようにするため、自分の給与や処遇に目を光らせ、チェックしておくことも必要かもしれません。