年俸制はどんな業種・職種でも導入可能!制度のメリット、運用上の注意点など解説

労働・雇用

この記事の監修

福岡県 / 福岡市博多区
弁護士法人リベルタ総合法律事務所 福岡事務所
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近年、「年俸制」を導入する会社が増えています。
しかし一方で、そもそも「年俸制」ってどういう仕組みになっているの?誰にでも導入できるの?と、疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、年俸制の仕組みやメリット、導入した場合の注意点などについて解説します。

▼この記事でわかること

  • 「年俸制」導入の意義、メリットなどが分かります
  • 「年俸制」を導入するための基礎知識が得られます
  • 「年俸制」を運用する上で注意するべき点が分かります

▼こんな方におすすめ

  • 自社の給与制度改革を検討されている方
  • 現在、または将来的に、自社で「年俸制」を導入したいと考えている方
  • 「年俸制」をめぐるトラブルで悩んでいる方

年俸制の仕組みとは?

「年俸制」とは、賃金の全部、または相当部分を年単位で決定する給与制度です。
日本ではまだ、賃金を月単位で支払う「月給制」が主流ですが、一般社員にも年俸制を適用するような会社も増えてきています。
まずは、年俸制とはどんな制度なのか、基本的な仕組みについて解説します。

年俸制はどんな業種・職種でも適用可能

実は年俸制には、法令で定められた明確な導入の基準はありません。
労働基準法などの規定をきちんと守って制度設計をすれば、どのような業種、職種でも基本的に適用は可能です。

日本の会社では、年齢が上がれば給与も上がる「年功序列」から、本人の能力や努力を評価する「成果主義」への転換を機に、年俸制を導入するケースが多いといいます。
また人手不足の会社などでは、ボーナスなどを含めた年俸額で賃金を表示する方が、月給額よりも高額なため、年俸制を採用する例もあるそうです。

年俸制の導入の仕方も会社によって違います。
全社員に対し適用するケースから、「管理職だけ」「特定の職種のみ」といった導入の仕方まで、会社がそれぞれ決めることができます。
パートやアルバイトであっても、年俸制を導入すること可能です。
ただ、労働時間が短いパートやアルバイトの場合、実際に働いた時間数分を支給する「時給制」などの方が、年俸制よりも適しているというのが実情でしょう。

年俸額の決定方法、支払い方法は?

それでは、年俸額の決定や支払いの仕方はどうなっているのでしょうか。
年俸額の決定方法・計算方法は、就業規則や雇用契約で明示さえすれば、基本的に会社側と社員の当事者間で自由に決めることが可能です。

ただその際、下記のような法律の規定や、国が定める最低賃金に違反してはなりません。

『使用者は、労働者の国籍や信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。』(労働基準法3条)
『使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。』(労働基準法4条)

年俸額の支払い方法も、「年俸なのだから年1回支払えばいい」というのは間違いです。
労働基準法24条で賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないことが定められていて、年俸制もこの規定の例外にはなりません。
月給制と同様に、給料日を定めて毎月支払うことが必要です。

就業規則で賃金に関する規定を設ける必要がある

常時10人以上の労働者を使用する会社には、労働基準法で「就業規則」の作成が義務付けられています。
さらに、その就業規則には、賃金に関する規定を設けなければなりません。
したがって年俸制の場合も、就業規則に以下のことについて明記する必要があります。

  • 年俸額の決定方法・計算方法
  • 年俸額の計算方法
  • 支払方法
  • 締切日
  • 昇給
  • 臨時の手当

これは社員を採用するときも同様です。
採用する社員に年俸制を適用する場合、年俸額の決定方法・計算方法などをはじめとする年俸制に関する事項を、書面で明示しなければなりません。

年俸制を導入するメリット・デメリットとは?


年俸制導入にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
会社側・社員側それぞれについてまとめました。

会社にとってのメリット・デメリット

会社にとってのメリットは、1年間に支払われる給与の額が決まっているため、中長期の計画が立てやすい点です。
さらに成果に応じて年俸額を決定すれば、社歴の長いベテラン社員と若手社員の給与差も、実態に応じて是正することが可能ですし、社員が月給制の会社へ転職しようとした場合に月給が下がる傾向にあるため、社員の離職防止も期待出来ます。

デメリットは、社員が期待に反して働かなかった場合や、会社の業績が急激に悪化したとしても、年内の賃金額の変更が難しいことです。

また、社員の給与を下げる場合に、年俸制だと減給額の幅が大きくなる傾向にあり、従業員のモチベーションに大きな影響を与える可能性があるため、給与を下げづらくなるリスクもあります。
年俸額を決定する際には、慎重な検討が必要でしょう。

社員にとってのメリット・デメリット

社員にとっての年棒制のメリットは、会社の業績にかかわらずその年の給与額が確定することです。
月給が高くなり年収も安定することで、生活設計がし易くなります。
また、成果主義になっていれば「頑張れば給料が上がる」ことが期待できます。

デメリットは、業務上で大きな成果を上げても直近の賞与の金額は変わらず、1年間は給与アップがあまり期待できないことです。

また業務上で成果を上げられなかった、大きなミスをした場合、次の更改で年俸を減額されるリスクがあります。

年俸制の導入で注意すべき点

最近では年俸制をめぐり未払い残業代が訴訟などで争われるケースも増えているそうです。
こうした残業代の問題などをはじめ、年俸制の導入に当たり、注意すべき点についてまとめました。

残業代の扱い

月給制でも年俸制でも同様に、労働基準法は労働時間の上限を「1日8時間、週40時間まで」と定めています。
この時間を超えて社員を労働させる場合、会社は原則として賃金を1.25倍に割増した残業代を支払わなければなりません。

みなし残業として年俸に含まれることが多い

年俸制の場合、一定時間分の残業代を「みなし残業代」として年俸に含めて支給しているケースが多いです。
その場合も同様に、みなし残業に含まれている時間を超えた場合、年俸とは別に超過分の残業代を支払わなければなりません。

例えば、年俸額に月30時間分のみなし残業代が含まれて支払われている社員が、月40時間の残業をした場合、会社は、超過の10時間分の残業代を支払う必要があるということです。
労働時間に見合う残業代が支払われていなければ、違法となる可能性があります。

また、年俸額のうち「基本給」の部分と「みなし残業代」の部分を明確に区分し、それについて会社側と社員の間で合意がなされている必要があります。
年俸額を「基本給」と「みなし残業代」にはっきり分けることができないと、裁判などで残業代を支給していると認められない恐れもあります。

深夜労働、休日出勤は割増賃金を支給する

残業代のほかにも、労働基準法では深夜時間帯(午後10時から翌午前5時)と法定休日に社員を労働させた場合、会社に割増賃金を支払うよう義務付けています。
割増率も労働基準法で定められていて、深夜時間帯に残業をすれば1.5、休日の割増率は1.35です。

年俸制でも深夜や休日に労働すれば、割増賃金を法律に定められた通り、支給しなければなりません。
したがって年俸制を導入しても、労働時間に応じた割増賃金を計算するため、社員の勤怠管理は必要となります。

賞与の扱い

年俸制では、主に次のような賃金の支払い方があります。

  • 年俸額を均等に12分割し毎月支払う
  • 年俸を均等に14分割、または16分割して、14分の1または16分の1を毎月の支払いとし、14分の2または16分の4を賞与として支払う
  • 年俸額を12分割し毎月支払い、業績などに応じて賞与を別建てで支給する

労働基準法では、賞与について以下のように定めています。

『賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。』(労働基準法第24条2項)
『法第24条第2項 但書の規定による臨時に支払われる賃金、賞与に準ずるものは次に掲げるものとする。
一  一箇月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当
二  一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
三  一箇月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当』
(労働基準法施行規則第8条)

年俸制における賞与の支払い方については「年俸額の14分の2,または16分の4」と、あらかじめ額が定められていることになり、労働基準法施行規則第8条各号に該当しませんので、労働基準法上の賞与には位置づけられません。

労働基準法上の賞与であれば、「業績に応じて支給しない場合もある」などと就業規則で定めておけば、支給しなくても法的に問題になりません。
一方で年俸制の(2)のような場合は、就業規則で支給が定められていることになるので、仮に業績が悪くなっても、支払い義務があることに注意が必要です。

まとめ

年俸制は、会社の実情に合わせ、比較的自由に導入することが可能な仕組みになっています。
しかし導入に当たっては、公平なルール、基準づくりのほか、残業代の管理など注意が必要なことは少なくありません。
労働問題に詳しい弁護士などのアドバイスも受けながら、トラブルが発生しないような仕組みづくりを慎重に行いましょう。

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