「遺言書を書きたいが、無効にならない作成方法を知りたい」
と思っている方は多いのではないでしょうか?
本記事では自筆証書遺言に必要なものやひな形も紹介するので、すぐに書き始めることができます。
法改正で変わったルールや注意点なども意識しながら、納得のいく遺言書を作成しましょう。
▼この記事でわかること
- 自筆証書遺言の法改正によって変更された内容がわかります
- 「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の特徴を比較できます
- 自筆証書遺言を書くときの必要書類や注意点がわかります
▼こんな方におすすめ
- 自筆証書遺言にするか公正証書遺言にするか迷っている方
- 遺言書のテンプレートや必要な書類が知りたい方
- 一人で遺言書を書けるか不安に思っている方
自筆証書遺言とは
「自筆証書遺言」とは、遺言者本人が本文や氏名、日付など全ての内容を直筆で作成する遺言書のことです。
費用や手間がかからないことから選択する人も多いですが、記載内容や訂正方法には厳格なルールがあり、ルールを知った上でルールに従って作成しなければなりません。
例えば誰かに代わりに書いてもらったり、パソコンで作成したりすると無効になってしまいます。
そこでこの章では、近年施行された自筆証書遺言に関する法改正や、他種類の遺言書との比較など、自筆証書遺言とはどんなものなのかを紹介します。
自筆証書遺言に関する法改正
自筆証書遺言に関する法律は、2019年1月、2020年7月にそれぞれ改正されています。
以前よりも利便性や安全性が増してより手軽に作成できるようになりました。
(1)財産目録についてのルール緩和
2019年に改正されたのは「財産目録」についてです。
「財産目録」とは、遺言者が所有している全相続財産を記載したもので、相続トラブルを防ぐために遺言書と併せて作成しておくと良いです。
以前の自筆証書遺言は財産目録も含めて全て直筆である必要があったため、作成に多くの時間と手間がかかっていましたが、法改正によって以下のようにルールが緩和されました。
【財産目録のルール緩和内容】
- 財産目録に限り、パソコンで作成しても良い
- 財産目録の代わりとして預貯金通帳のコピーや登記事項証明書を添付して良い
財産目録の内容をすべて直筆で記載するのは労力を要するため、この改正によって自筆証書遺言のハードルが大きく下がりました。
(2)法務局による自筆証書遺言書保管制度
2020年に新しく始まった「自筆証書遺言書保管制度」によって、自筆証書遺言を法務局で保管できるようになりました。
今までは遺言者本人が自筆証書遺言を自宅などで保管しなければならず、紛失したり改ざんされたりするリスクが高かったのですが、法務局で保管してもらうことで安全性が高められます。
また、法務局では遺言書の原本だけでなく画像データも保管されるため、遺言者の死後は相続人たちが全国の法務局から遺言書を確認できるなど利便性も向上しました。
【自筆証書遺言保管制度の注意点】
- 法務局への申請時、費用として3,900円かかる
- 保管されている遺言書を閲覧する場合は別途費用がかかる
- 法律上の要件(署名、日付、押印など)は確認してもらえるが、有効性までは見てもらえない。
自筆証書遺言と公正証書遺言の違いとは?
遺言書を残す方法として、多くの人は公正証書遺言もしくは自筆証書遺言を選んでいます。
ほかに秘密証書遺言もありますが、ほとんど利用されていません。
自筆証書遺言は、前述した通り遺言者本人が直筆で書く遺言書です。
公正証書遺言とは、公証人と2人以上の証人が立ち合って作成する遺言書のことで、遺言者本人が書くのではなく、本人が話した内容を公証人が代筆するのが特徴です。
自筆証書遺言と公正証書遺言について、費用や安全性など気になる点を比較した一覧表を見ていきましょう。
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 (自宅保管) |
自筆証書遺言 (法務局預かり制度利用) |
|
---|---|---|---|
費用 | 相場は2~3万円 | 無料 | 3,900円(申請時) |
検認 | 不要 | 必要 | 不要 |
安全性 | 〇 | × | 〇 |
手軽さ | × | 〇 | △ |
代筆 | 〇 | × | × |
自筆証書遺言の法務局預かり制度を利用することで、安全性が高まり検認が不要になります。
しかし、いずれの方法も遺言書の内容については自身で考える必要があるため、内容も含めて相談したい場合は弁護士へ依頼するのがおすすめです。
費用について
遺言書作成の費用は、基本的に自筆証書遺言の方が安く済みます。
自宅保管の自筆証書遺言は無料ですし、法務局預かり制度利用の自筆証書遺言でも申請時に3,900円を支払えば保管してもらえます。
ただし、預けたあとに閲覧請求をすると別途費用がかかるので注意しましょう。
公正証書遺言は、公証人手数料・遺言手数料・用紙代が必要となり、遺産の財産額に応じて手数料が定まります。
検認について
もう一つの大きな特徴が「検認の必要性」です。
検認とは、家庭裁判所が遺言書の形状や内容などを見て偽造・変造されていないか確かめることです。
自筆証書遺言書をすぐ裁判所に提出したとしても、検認日は後日となる上に、検認では遺言内容の有効性まで見てもらえるわけではありません。
なお、法務局に預けていた遺言書であれば検認不要となっています。
公正証書遺言は公証人が作成して役場で保管されるため、検認は不要です。
安全性について
遺言書を自宅で保管した場合、遺言書の中で不利な立場になっている相続人が、遺言書を探し出して書き換えたり破棄したりすることも考えられます。
一方、公正証書遺言と法務局に預けた自筆証書遺言は、偽造や破棄の心配がないので安心です。
遺言能力を巡る紛争リスクの回避について
高齢になって遺言書を書かれた場合、遺言書作成時には認知症等の影響で、遺言を有効に行うことができる能力(これを「遺言能力」といいます)がなかったのではないかという紛争に発展することが多いです。
公正証書遺言の場合は、公証人による一定のチェックが働くことが期待されているので、遺言能力を巡る紛争リスクをなるべく減らすことができます(ただし、公正証書遺言であっても遺言能力を欠くと判断されることもあります)。
手軽さについて
自筆証書遺言はいつでもどこでも作成できるため、手軽に作成したい方には向いています。
ただし、法務局に預ける場合は事前申請が必要なので注意しましょう。
公正証書遺言の場合、公証役場に出向く・必要書類をそろえる・公証人と事前に打ち合わせをするなど遺言書作成までに時間と手間が必要になります。
自筆証書遺言の作成方法
ここからは、実際に自筆証書遺言を書きたいと考えている方に向けて、事前に準備するものや遺言書を書く上での注意点などを紹介していきます。
自筆証書遺言の作成に必要なもの
自筆証書遺言を書く際に最低限必要なのは、紙・ペン・印鑑のみです。
使用する紙や筆記用具は特に指定されていないため、好きなものを使えます。
ただし長年保管することが前提となるため、耐久性のある紙を使用し、鉛筆など消せる素材で書くことは避けましょう。
印鑑は認印や指印でも法的には有効ですが、改ざん等を防止するため、実印を用いるのが望ましいです。
また遺言書には相続財産も記載するため、財産がわかる資料をすべて集めておきましょう。
【財産がわかる資料の例】
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自筆証書遺言に記載できること
次に、実際に自筆証書遺言にどんなことを書けば良いのか紹介します。
自筆証書遺言には、記載するべき内容が細かく決まっています。
まずは、法務省のホームページから自筆証書遺言のひな形を紹介します。
遺言書内に記載できる内容は、以下の通りです。
【自筆証書遺言に記載する主な内容】
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財産目録の作成
財産目録は前章で紹介した通り、全相続財産を記載する書類です。
財産目録の作成は必須ではありませんが、財産をしっかり示しておくと相続時のトラブル防止につながるため、極力作成するようにしましょう。
【財産目録作成の注意点】
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自筆証書遺言を書く際の注意点
ここでは、自筆証書遺言を書くときの注意点について紹介します。
法的に効力を持つだけでなく、極力トラブルを引き起こさないようなわかりやすい遺言書を目指しましょう。
必ず自筆で書く
まず、自筆証書遺言は必ず自筆で書くようにしましょう。
現在は財産目録のみパソコンで作成できますが、それ以外の部分はすべて遺言者本人が自筆で書く必要があります。
もし一部分でも自筆でなかった場合、遺言書全体が無効となるので注意しましょう。
加除訂正方法に気をつける
自筆証書遺言は全文を直筆で書くため、「間違えた箇所を訂正したい」という場面も出てくると思います。
しかしそんなとき、決して自分のやり方で修正してはいけません。
以下の法律で定められたルールに沿って、正しい方法で訂正しましょう。
【自筆証書遺言の加除訂正ルール】
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修正ペンで消す・ペンで塗りつぶすなど誤った加除訂正方法をとると遺言書全体が無効になってしまうため、必ず上記の訂正ルールは守りましょう。
あいまいな表現はしない
あいまいな表現で記載することは、自身の正しい意志が伝わらないだけでなく、相続人に負担をかけることにもつながります。
実際に「財産はAにまかせる」というあいまいな表現で書かれていたために、裁判で「まかせる」という文言の意味が争われた例もあります。
この判例では、さまざまな状況から「財産をAさんに遺贈する意図はなかった」という結論に至りました。
遺言書内では「取得」「相続」「遺贈」などできる限り法的に明確な表現を使いましょう。
印鑑を押す
役所の手続き等で印鑑レスが進んでいるところですが、自筆証書遺言は、「印を押さなければならない」(968条1項)とされており、印鑑の押していない自筆証書遺言は無効と判断されます。
印鑑の有無やその方式をめぐって有効無効が争われた裁判例もたくさんあります。
弁護士に遺言作成をサポートしてもらうメリット
前述したように、自筆証書遺言は書くべき内容が決まっていたり訂正方法にルールがあったりと、一人で作成するのは意外にも難易度が高いものです。
最後に、遺言書作成において弁護士のサポートを得るとどんなメリットがあるか見ていきましょう。
無効になるリスクを避けられる
遺言書作成において重視しなければならないのは法的効力です。
遺言書にはルールが多く、一カ所間違っていただけでも遺言書全体が無効となってしまうため、細心の注意を払って作成する必要があります。
遺言書は自身の遺志を伝えられる大切な書類だからこそ、弁護士に依頼して法的に効力のある遺言書を作成することをおすすめします。
遺言執行者を任せられる
遺言執行者とは、預貯金の解約手続きや不動産の名義人変更など、遺言内容を実行してくれる人のことです。
弁護士に遺言書作成の依頼をすると同時に遺言執行者になってもらうことで、自身の生前・死後にかけて相続の手続きが希望通りに、スムーズに行われやすくなります。
遺言内容を相談できる
とくに財産が多い場合や複雑な親族関係の場合、遺言内容が原因で争いに発展する可能性が高くなります。
弁護士に相談しながら遺言書を作成すれば、遺留分(法定相続人に最低限保障される遺産取得分)にも配慮して内容をアドバイスしてもらえるため、相続時の紛争を最小限に抑えられます。
親族関係やさまざまな事情を理解してもらった上で遺言内容を相談できる弁護士の存在は、精神的な支えにもなるでしょう。
まとめ
本記事では、自筆証書遺言を作成する方法や注意点などを紹介しました。
法改正によって自身で遺言書を作成するハードルは下がりましたが、一人で遺言書の内容を考えてミスすることなく作成するのは難易度の高い作業です。
豊富な法律知識を持った弁護士に依頼すれば、遺言内容のアドバイスとともに法的効力を持つ遺言書を作成できるだけではなく、相続後の手続きまで任せることができます。
遺言書作成でお悩みの方は、まず弁護士に相談してみましょう。