長年、高齢の義理の親の介護などで貢献してきても「自分には相続権がないから」と諦めていませんか?
かつては諦めざるをえませんでしたが、民法改正によって、令和元年7月1日からは、相続権がない方でも貢献度に応じて金銭の支払いを請求することができる「特別寄与料制度」を活用できるようになりました。
本記事ではこの特別寄与料制度について詳しく解説します。
▼この記事でわかること
- 誰が特別寄与料を請求できるのかがわかります
- 特別寄与料を請求するための条件がわかります
- 特別寄与料を請求する手順、方法がわかります
▼こんな方におすすめ
- 長年、相続とは関係ないご親族を介護するなどして貢献してきた方
- 特別寄与料を請求できるのかお知りになりたい方
- 特別寄与料をめぐって相続人である親族()ともめている方
亡くなった夫の親を介護したのに、遺産なし?
「夫が亡くなったあとも、毎日一生懸命、義理の父(あるいは義理の母)の介護をしてきた。それなのに、遺産は全くもらえないの?」
はい、少なくとも以前はもらえませんでした。
夫の親を介護してきたとしても、夫の妻には相続権がありませんから、夫の親の遺産を相続することはできません。夫の妻のみならず、相続権をもたない方はすべて同様です。
ところで、「以前は」ということは、「今は」どうなんでしょうか。
法改正により、遺産をもらえる「可能性」がでてきた
これまでは、夫に先立たれたお嫁さんがどんなに義理の両親の介護を頑張っても、相続に際して遺産をもらうこと、遺産を相続した相続人に対して何らかの請求をすることは、法律では認められていませんでした。
しかし、民法改正によって状況は変わりました。
2019年7月1日以後に始まった相続については、相続権をもたない方でも、被相続人(お亡くなりになる方で、遺産を引き継がれる人)の財産の維持、増加に貢献した方は相続人に対して金銭の支払いを請求できるようになりました。この制度が「特別寄与料制度」です。
新たに法律の枠内に入れられた人とは?
特別寄与料を請求できる資格のある人は「被相続人の親族」です。
相続人は含まれません。相続人は、そもそも遺産を相続する立場なので、この枠組みには入らないのです。
したがって、夫の父を介護してきた夫の妻、の例で、夫の父の妻と夫の弟が生存しているというケースの場合、被相続人の親族とは
- 夫の父の妻(配偶者)→相続人
- 夫 →相続人
- 夫の弟 →相続人
- 夫の妻 →相続人でない
ということになりますが、相続人(被相続人の遺産を引き継ぐ人)は除外されますから、特別寄与料を請求できる資格のある人は「夫の妻」ということになります。
なお、夫の父から見た夫の妻を「1親等の姻族」といいます。
特別寄与料制度とは
先に「お金をもらえる・もらえない」の話が先行してしまいました。そもそも、「特別寄与料制度」とは何なのでしょうか。
まずは、特別寄与料制度がどんな考え方に基づく制度なのか、制度の対象となるのは誰か、特別寄与料を請求するための条件とは何かについて解説します。
特別寄与料制度の基本的な考え方
特別寄与料制度は、被相続人の遺産を相続できる相続人と、被相続人の財産の維持、増加に貢献してきたにもかかわらず被相続人の遺産を相続できない相続人ではない方との公平をはかるための制度です。
たとえば、夫の父を長年介護してきた妻のケースで考えてみましょう。
このケースの場合、夫の父が亡くなっても、夫の父の遺産を相続できるのは夫の父の配偶者である妻や子である夫などです。夫の妻は遺産を相続することはできません。
つまり、介護を負担していない方(夫の父の配偶者や夫)は夫の父の遺産を相続する一方で、介護を負担してきた方(夫の妻)は夫の父の遺産を相続できないという不公平な状態が生じるのです。
そのため、従来の法制度の下では、相続権をもつ夫の相続分(遺産の分け前)を増やすことで対応するというのが限界でした。
さらに、夫の父がお亡くなりになった時点で、夫もお亡くなりになっている場合は、夫の相続分を増やすということすらできませんでした。
こうした不公平な状態を是正するために設けられたのが特別寄与料制度というわけです。
特別寄与料制度は、相続権をもたない親族(上記事例では夫の妻)が、被相続人の遺産を相続する相続人(上記事例では夫の父の妻や夫)に対して金銭の支払いを請求できる制度です。
以下では、特別寄与料制度の対象となる人は誰か、どのような条件をクリアすれば請求できるのか、について解説していきます。
特別寄与料制度の対象は誰か
特別寄与料制度の対象となる人(以下、対象者といいます)は、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の「親族」です。
「親族」とは、
- 6親等内の血族
- 配偶者
- 3親等以内の姻族
のことをいいます。
血族には、自然的な血のつながりのある自然血族のほか、法的に血のつながりがあるとされる法定血族(養子縁組を組んだ場合)も含まれます。姻族とは、本人と他方配偶者の血族、本人の血族の配偶者をいいます。
家族関係にみる、特別寄与料の対象者
ここでは、具体的にイメージが湧くように、例を挙げて説明します。
(登場人物)
- 父A
- 母B
- 子C(配偶者Eと婚姻し子Fがいる。父A・母Bと同居)
- 子D(配偶者Gと婚姻し別居)おり、
ここで、父Aがお亡くなりになったというケース(以下、本ケースといいます)を考えます。
誰が特別寄与料制度の対象者になり得るのでしょうか。
まず、被相続人の相続人は対象者ではありません。
従って、本ケースの相続人である母(配偶者)B、子C、子Dは対象者ではありません。
一方、相続人ではない子Cの配偶者Eは(父Aから見た)1親等の姻族、子F(父Aから見た孫)は2親等の血族、子Fの配偶者Gは1親等の姻族で、いずれも「親族」ですから対象者になり得ます。
その他、たとえば、子Fの子(父Aから見たひ孫)は3親等の血族、父Aの兄弟姉妹(子Cから見た叔父・叔母)は2親等の血族、その配偶者は2親等の姻族、母B(父Aの配偶者)の父母(義理の父母)は1親等の姻族、兄弟姉妹は2親等の姻族で、いずれも「親族」ですから対象者になり得ます。
つまり、この例では「相続人である母B、子C、子D」以外の登場人物(E、F、G)は、全て寄与分の対象者となる」ということになります。
事実婚の相手は、特別寄与料の対象になる?
ところで、仮に上の例で、父Aに愛人Hがいて、生前に色々と父の世話を焼いていた、という場合、Hは特別寄与料制度の対象になるのでしょうか?
結論としては、Hは特別寄与料制度の対象とはなりません。
特別寄与料の制度では、「被相続人の親族ではない人」や親族であるものの「相続人」は対象者になることはできないからです。
「被相続人の親族ではない人」の例としては、たとえばこの例のように、被相続人と愛人関係にあった人、内縁関係・事実婚にあった人です。
長年、配偶者よりも被相続人に尽くし、特別寄与料を請求したいという方も中にはおられるでしょうが、被相続人の親族ではない以上、請求することはできません。
これらの方に対して被相続人の遺産を引き継ぐには、被相続人の生前に財産を贈与する方法や被相続人が遺言書を作成して、これらの方に財産を贈与する旨の記載を残しておく方法が考えられます。
相続放棄した人は、特別寄与料の対象者になる?
さらに上の例で、子Dが父Aにの死後、相続放棄したとします。
その場合、相続放棄した子Dは特別寄与料制度の対象者になるのでしょうか?
子Dは、特別寄与料制度の対象者にはなりません。
「相続放棄した人」、「相続人の欠格事由に当たる、あるいは廃除によって相続権を持たない人」は、特別寄与料を請求する資格を欠きます。特別寄与料の対象者となることはできません。
「特別の寄与」が認められる条件
これまで、特定の個人が特別寄与料「制度」の「対象になるかどうか」について見てきました。
しかし、制度の対象になるからと言って、即、特別寄与料を請求できるとは限りません。
特別寄与料をもらうためには、「特別寄与料制度の対象者であること」に加えて、「その対象者が『特別の寄与をした』という事実があること」が必要です。
では「特別の寄与」とは何でしょうか。
被相続人に対して「特別の寄与」をしたと認められるためには、少なくとも以下の二つが必要とされています。
無償で労務を提供したという事実
まず、被相続人に対して「無償で療養看護その他の労務の提供をした」ことが条件です。
「無償」であることが必要ですから、被相続人から労務の対価としてお金を受け取っていた場合は特別寄与料を請求することはできません。他方で、被相続人から何らかの経済的利益を受け取っていた場合でも、それが労務の対価とはいえない場合は「無償」と判断してよいです。
療養看護は「労務」の代表例で、療養看護のほか、被相続人の自営業を賃金を受け取らずに働いていたというような場合なども「労務」にあたります。
特別寄与料を相続人に請求する場合に備えて「労務」の裏付けとなる日記や領収書などの証拠を残しておくことが大切です。
労務によって、被相続人の財産が維持・増加したと認められること
次に、対象者の「療養看護その他の労務の提供」によって「被相続人の財産が維持された、あるいは増加した」という関係性(因果関係)が認められることが条件です。
対象者が被相続人と同居(あるいは被相続人の近くに居住)して容易に被相続人を療養看護できる状態にあり、最低でも1年以上療養介護を継続したことで、介護にかかる費用(たとえば、ヘルパー代など)を節約できたという場合は、対象者の療養看護によって被相続人の財産が維持された、と評価できるでしょう。
他方で、被相続人が施設などに入所していて、費用も被相続人が負担している状況下で、たとえ毎日被相続人と面会し、被相続人の身の回りの世話や日用品の費用(おむつ代など)を負担していたとしても、特別寄与者の療養看護によって被相続人の財産が維持・増加されたとは評価され難いです。
以上、「特別の寄与」と認められるためには、「①労務の提供」、「②被相続人の財産の維持・増加」、「①と②との間の因果関係」の各条件を満たし、かつ、特別寄与者の貢献に報いることが相当といえる程度の「顕著」な貢献があったと認められることが必要となりますから、特別寄与料を請求するハードルは決して低くはないといえます。
特別寄与料を認めてもらうためにすべきこと
次に、実際に特別寄与料を請求するための手順、方法について解説します。
特別寄与料を相続人に請求する
ご自身が特別寄与料を請求できる対象者にあたり、かつ、前述した条件をすべてクリアすると判断した場合は、相続人に対して特別寄与料を請求できます。
請求するといっても特別な方式はなく、相続人に対して「自分は被相続人に対して~だけのことをし(労務を提供し)、被相続人の財産の維持・増加に貢献したから、その分のお金を払って欲しい」などと伝えて話し合いをもちかけ、相続人と話し合いを進めればよいでしょう。
もめた場合は家庭裁判所に申し立てる
相続人と特別寄与料を請求したい人との間で話し合いができない、あるは話し合いをしても話がまとまらないという場合は、相手方相続人の住所地を管轄する家庭裁判所、あるいは申立人と相続人との合意で定めた家庭裁判所に対して「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てます。
家庭裁判所は、寄与の(労務を提供した)時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料を決めます。
調停を申し立てることができる人(申立人)は対象者、つまり、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の「親族」です。
申立書(裁判所のホームページからダウンロード可)を作成し、申立書1通及びその写し(相手方相続人の数分)、申立人と相手方相続人の戸籍謄本、被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(全部事項証明書)等を準備して家庭裁判所に提出します。
また、申立書には収入印紙(1,200円~)を貼付し、家庭裁判所が書類の郵送の際に使用する郵便切手代も準備する必要があります。申立書に必要な書類や収入印紙・郵便切手代の額については、あらかじめ家庭裁判所に対して問い合わせておくと安心です。
なお、話し合いの場合は請求の期限は設けられていませんが、調停の申立てについては、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったとき(通常、被相続人がお亡くなりになったのを知ったとき)から「6ヶ月」、又は相続開始のときから「1年」という期限が設けられていますので、注意が必要です。
弁護士に依頼する
相続人に対して特別寄与料を請求することをお考えの場合は、早い段階から弁護士に相談、依頼することも検討しましょう。
相続人に対して特別寄与料を請求するといっても、そもそもどのような形で証拠を残しておけばよいのか、具体的に相続人に対していくら請求できるのか(特別寄与料の計算方法)、どのようにして相続人に対して特別寄与料の請求を切り出せばよいか、など分からないことだらけでしょう。
また、いくら親族同士といっても、お金にかかわる問題だけに請求するだけの条件を満たしているのかどうか、請求額は適切かどうかなどをめぐってもめることも十分に予想されます。
ご自分で請求するとなると、特別寄与料制度について一から勉強しなければなりませんが、弁護士に依頼すれば、そうした手間や労力を費やす必要がなくなり、相続人や裁判所への対応による心理的負担からも解放されます。
まとめ
特別寄与料制度とは、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした「被相続人の親族」が、被相続人がお亡くなりになって以降、「被相続人の相続人」に対して貢献(寄与)度に応じた額の金銭の支払いを請求することができる、という制度です。
簡単に言えば「法律で定められた一定範囲内の親族が、その働きにより、亡くなった人の財産を生前に守ったり、増やしたりした場合、亡くなった人の相続人に対してお金を払ってもらうよう請求できる」という制度が「特別寄与料制度」です。
相続人ではない親族にとってはメリットのある制度ですが、半面、請求をきっかけに相続人との間でトラブルとなる可能性も秘めています。
特別寄与料制度を請求する側の方が、生前にできる対策はあまり多くありません。
一方で、財産を引き継ぐ側である被相続人の方の中には「〇〇さんにはこんなに良くしてもらったのだから、遺産で何らかの恩返しをしたい」「世話をしてくれた親族と自分の子供や配偶者の間で、自分の死後もめてほしくない」と考えられる方もいらっしゃるでしょう。
そうした場合は、被相続人自身が「遺産のうち△%を、お世話になった〇〇さんに渡してほしい」という趣旨の記載を遺言書の残しておくことで、トラブル回避につなげることも可能です。
お時間のある方は遺言書の作成を検討されてみてもよいでしょう。