成年後見制度とは│選任の手続きや後見人の職務・権限について解説

相続・遺言

この記事の監修

株式会社ココナラに在籍する弁護士が監修しています
株式会社ココナラ

高齢化の進行とともに、認知症の患者数は大幅に増加し、判断力が低下した高齢者の方を狙った犯罪なども増えています。
高齢の親がいる方や、ご自身の老後に備えた生前対策のため、成年後見制度への関心も高まっているようです。
そこで本コラムでは、成年後見制度の仕組み、利用の仕方を詳しく解説します。

▼この記事でわかること

  • 成年後見制度の仕組みが分かります
  • どんな場合に成年後見制度を利用を検討すべきか分かります
  • 成年後見制度を利用するための手続について知ることができます

▼こんな方におすすめ

  • 高齢の親が心配で、成年後見制度の利用を検討している方
  • 自分や家族の老後に備え、成年後見制度について知っておきたいと考えている方
  • 成年後見制度の利用方法を具体的に詳しく知りたいと考えている方

成年後見制度とは


成年後見制度とは、認知症や知的障がいなどにより判断能力が不十分と判断された方が不利益を被らないよう、選任された第三者が財産の管理等を支援する制度です。
具体的な成年後見制度の仕組み、どんな場合に利用を検討すべきかなどについて解説します。

成年後見制度の種類

成年後見制度には「法定後見」「任意後見」の二種類があります。
簡単にまとめると、すでに判断能力が低下しているケースで利用するのが「法定後見」、今後の判断能力の低下に備えるのが「任意後見」となります。
2つの制度の概要について解説します。

法定後見

障がい者や高齢者が、自分ひとりで物事を決めることが難しくなったとき、家庭裁判所によって、支援する人が選ばれる制度です。

法定後見の制度は、「成年後見」「保佐」「補助」に分けられており、当事者の判断能力に応じて、権限の範囲が異なります。

対象 権限など
後見 判断能力が全くない人 後見人には、原則としてすべての法律行為の代理権、取消権が与えられます
保佐 判断能力が著しく不十分な人 保佐人には、本人が選択した法律行為の代理権、取消権と、特定の行為ついての同意権、取消権が与えられます
補助 判断能力が不十分な人 補助人には、本人が選択した法律行為の代理権、同意見、取消権が与えられます

具体的には、重度の認知症や知的障害により、判断能力を欠くほどに、常に援助が必要な人を対象としているのが「後見」の制度です。

「保佐」は、中程度の認知症や知的障害により判断能力が著しく不十分で、「大きな買い物や重要な契約の締結を1人でするのは困難」といった人を対象とした制度です。

「補助」は、軽度の認知症患者や知的障がい等により、判断能力が不十分な者が対象になります。
日用品の購入等の日常生活に関する行為は一人で完結できますが、「大きな買い物や重要な契約の締結などに不安がある」ようなケースで、補助人がサポートします。

任意後見

任意後見も、法定後見と同様、判断能力が不十分な人を支援する制度ですが、「サポートしてもらう人を自ら選ぶ」という点が大きく違います。

任意後見制度では、本人に十分な判断能力があるうちに「任意後見人」となる人を決め、任意後見人に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておきます。
本人の判断能力が低下し、サポートが必要になった時に、任意後見契約の効力が発動します。
契約にもとづき、あらかじめ選んでおいた任意後見人が、財産管理などを本人に代わって行うことになります。

どんな場合に成年後見制度を検討すべき?

では実際に、どんな場合に成年後見制度を検討すべきなのでしょうか。
最高裁判所の調査などをもとに、具体的なケースについて説明します。

預貯金を管理したい

最高裁判所がまとめた「成年後見関係事件の概況
によると、「成年後見制度利用の動機」としてもっとも多いのが、預貯金等の管理・解約で、全体(3万7235件)の37.1%を占めます。

親が認知症で判断能力がなくなってしまったようなケースでは、同居している子どもであっても、本人の同意を得ず、勝手に預貯金を動かすことはできません。
ただの代理人では、預貯金の解約などはできないのです。
しかし、後見人などであれば金融機関の手続きを、本人に代わってすることが可能となります。

身上監護が必要

成年後見制度利用の動機として多いのが、身上監護です。

成年後見制度での身上監護とは、後見人などが、本人の生活や医療、介護に関する契約や手続きを行うことを意味します。
住まいの確保、生活環境の整備、治療や入院の手続き、施設に入所する契約などを本人が自力でできない場合、成年後見制度の利用が有効な選択肢となります。

介護保険を契約したい

成年後見制度利用の動機としては、介護保険を契約するためというケースも多くみられます。

介護保険に関する契約でも、本人の同意が必要です。
本人の判断能力が不十分な場合には、代理権をもつ後見人などによる対応が不可欠となります。
介護保険で施設への入所などを検討している場合は、あらかじめ成年後見制度の利用の準備をしておきましょう。

不動産を売却したい

成年後見制度利用の動機としては、不動産の処分を検討されている場合もあります。
不動産の売却も、後見人などであれば、本人に代わって手続きをすることが可能です。
親の病院への長期入院や施設入所に伴い、不動産を売却したいと考えているようなケースなどでも、成年後見制度の利用が有効です。

遺産分割協議に向けた準備

成年後見制度利用の動機には、相続手続きが関与しているケースもあります。

相続人の判断能力が十分ではない場合、遺産分割協議などで後見人がいると安心です。
後見人は相続人の代理人として、協議に参加することができます。
また口座の名義変更など相続に必要な手続きを、後見人に代理でしてもらうことも可能です。

後見人を選任できる範囲


次に「後見人」について詳しく解説します。
後見人などには、誰もがなれるというわけではありません。
後見人になれる方、なれない方は次の通りです。

後見人に選任できる方

法定後見の後見人・保佐人・補助人は、家庭裁判所が選任します。
誰を後見人にしたいか、裁判所に希望を伝えることは可能ですが、あくまでも最終的に決定するのは家庭裁判所になります。

後見人・保佐人・補助人になるために特別の資格は必要ありません。

多くの場合、子どもや親族が選任されますが、親族間でトラブルがあるケースなどでは、法律・福祉関係の専門家などの第三者が選ばれることもあります。

一方で任意後見においては、誰を選ぶかは本人の自由です。
信頼できる家族や知人のほか、法律の専門家として弁護士や司法書士を選ぶケースが多くなっています。

後見人に選任できない方

後見人・保佐人、補助人・任意後見人になれない人については、民法847条で「後見人の欠格事由」が定められています。

【後見人の欠格事由】

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人(過去に後見人を解任されたことがある人)
  • 破産者
  • 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族(被後見人に対し訴訟を起こした人とその配偶者・親族)
  • 行方の知れない者

ただし任意後見に関しては、「本人の意思」が尊重されるため、欠格事由に該当しても、後見人として認められる可能性はあります。

後見人の権限


次に、後見人になった人ができること、できないことについて解説します。
後見人としての役割や権限などを整理しました。

後見人の権限に含まれること

法定後見の後見人・保佐人・補助人、また任意後見人それぞれにおいて、後見人に権限が与えられていることについて解説します。

法定後見の後見人

後見の対象となる被後見人は、「判断能力が欠けているのが通常の状態」です。
後見人には、被後見人に代わって治療や介護、福祉サービスを受ける契約を包括的に締結し、財産を全面的に管理する権限(代理権)が付与されます。

加えて、被後見人が締結した契約を取り消す権限(取消権)も与えられています。
ただ取消権については、後見人が、日用品の購入など日常生活に関する行為を取り消すことは認められてません。

法定後見の保佐人

保佐の対象となる被保佐人は、基本的に「自分にできることは、自分で行う人」です。
しかし重要な行為に関しては、一定のサポートが必要だということで、保佐人には「同意権」という権限が付与されています。
具体的には、被保佐人が【民法第13条1項の行為】をしようとするとき、保佐人が、その行為に同意するかしないかの判断を行うというのが同意権の内容です。

【民法第13条1項の行為】

  1. 元本を領収し、又は利用すること
  2. 借財又は保証をすること
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
  4. 訴訟行為をすること
  5. 贈与、和解又は仲裁合意をすること
  6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること
  7. 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を章にすること
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること
  9. (一定の)期間を超える賃貸借をすること

つまり、被保佐人が上記民法第13条1項の行為をするときは、保佐人の同意が必要だということです。
被保佐人が、保佐人の同意なしに上記行為を行った場合、保佐人はその行為を取り消すことができます。

一方で保佐人には、原則、代理権が付与されていません。
家庭裁判所に申立て認められたときに限り、特定の法律行為についての代理権が与えられることになっています。

法定後見の補助人

補助の対象となる被補助人は、軽度の認知症や障害のある人が対象となるため、補助人の権限も限定されています。
被補助人がひとりで行うことに不安を感じるような事柄について、必要な代理権や同意権を選び、個別に補助人に付与する形になります。

任意後見人

任意後見人には、本人の生活や療養看護、財産の管理に関する事務のうち、任意後見契約で委任された範囲内で、代理権が与えられます。

任意後見人の権限は代理権のみで、同意権や取消権は与えられません。

後見人の権限に含まれないこと

成年後見制度においては、権限に含まれない行為もあります。
法定後見の後見人、保佐人、補助人、また任意後見人の権限に含まれていないのは、次のような事項です。

  • 食事や排泄の介助や清掃、送迎や付き添いなど事実行為としての介護
  • 身元保証人・身元引受人・入院保証人などになること
  • 手術や延命措置など医療行為に同意
  • 結婚、離婚、養子縁組、離縁など一身専属的な権利の代理行為

成年後見制度の手続き方法

最後に各制度を利用するため、必要な手続き方法について解説します。

法定後見の申立手続き

まずは法定後見を申し立てる際の手続きについて解説します。

(1)申立人、申立先の確認

法定後見を利用するためには、「申立」という手続きが必要になります。

法定後見の申立をすることができるのは次の人たちです。

  • 本人
  • 配偶者
  • 4親等内の親族(本人・配偶者の親、祖父母、曾祖父母、孫、ひ孫、兄弟姉妹、おじ、おば、甥姪など)
  • 成年後見人等(後見人・保佐人・補助人)
  • 任意後見人
  • 任意後見受任者(任意後見契約を受任した人)
  • 後見監督人等(後見人等の事務を監督する人)
  • 市区町村長
  • 検察官

申立先は、本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄している家庭裁判所となります。

(2)診断書の取得、必要書類の収集、申立書類の作成

申立に必要な主な書類は次の通りです。

  • 後見・保佐・補助 開始申立書
  • 申立事情説明書
  • 親族関係図
  • 本人の財産目録・相続目録・資料
  • 本人の収支予定表・資料
  • 後見人等候補者事情説明書
  • 親族の意見書
  • 本人の健康状態に関する資料(障害の程度が分かる療育手帳のコピーなど)
  • 本人の戸籍抄本・付票、住民票
  • 後見人等候補者の住民票または戸籍の付票

必要書類は、家庭裁判所のホームページまたは郵送で取得可能です。
ホームページには記載例なども掲載されています。

申立書類とは別に、「本人情報シート」「診断書」「本人が後見登記されていないことの証明書」などが必要です。
「本人情報シート」は、ケアマネジャーやケースワーカーなど、本人を日ごろから支援している福祉関係者に、作成を依頼します。
「診断書」は、専用の診断書・診断書付票の書式、福祉関係者に作成してもらった「本人情報シート」を主治医に渡し、記載してもらいます。
「後見登記されていないことの証明書」は、法務局に申請することで取得可能です。

(3)家庭裁判所での面接日の予約と申立

必要書類が揃ったら、家庭裁判所での面接日を予約します
家庭裁判所では、申立に至る事情を聴くため、申立人や後見人等候補者に対する面談を行っています。

面接の予約が完了したら、申立書類の所定の欄に面接日などを記載し、申立手数料、登記手数料の収入印紙、送達・送付費用のための所定の郵便切手を添えて、家庭裁判所に必要書類を提出します。

収入印紙、郵便切手の額は以下の通りです。

収入印紙 申立手数料800円、登記手数料2600円
送達・送付のための郵便切手 後見3270円分、保佐・補助4120円分

(4)審理

家庭裁判所では、提出されたものについて、必要な書類が揃っているか、必要事項がすべて記載されているか審査します。

その後、予約された日に申立人と後見人等候補との面接を実施し、状況に応じて、本人の親族への意向照会、本人調査なども行います。

また本人の判断能力がどの程度あるのかを医学的に判定するため「鑑定」も実施されます。
鑑定は、家庭裁判所が、医師に依頼する形で行われ、一般的に10万~20万円が掛かり、申立者の負担となります。

(5)審判・登記

調査や鑑定の終了後、家庭裁判所は、後見・保佐・補助の開始の審判をし、併せて後見人・保佐人・補助人を選任します。
選任されるのは、家庭裁判所が最も適任だと判断した人で、複数人が選任されるケースもあります。

申立から審判まで、審理に掛かる時間は概ね1ヶ月〜2ヶ月。
審判の内容は、申立人、本人、後見人等に書面で通知されます。
審判の内容に不服がある場合は、2週間以内に不服申立することが可能です。
ただ後見人・保佐人・補助人に誰を選任したかについては、不服申立てすることはできません。

審判の確定後、家庭裁判所が法務局に対し、審判内容を登記するよう依頼します。
登記後、法務局で登記事項証明書を取得できるようになります。

(6)成年後見人等に選任

審判後、後見人と、財産管理権の付与を受けた保佐人・補助人を対象に、職務説明会が行われます。
後見人と、財産管理権の付与を受けた保佐人・補助人は、本人の財務状況を調査した上で、財産目録と年間収支予定表を作成し、家庭裁判所に提出しなければなりません。
その後も、定期的に被後見人らの現状や問題などについて、家庭裁判所に定期的に報告することが求められます。

選任された後見人、保佐人、補助人の役目が終了するのは、本人が死亡したとき、あるいは本人の能力が回復したときになります。
病気などやむを得ない事情があるときは、家庭裁判所の許可を得て、後見人・保佐人・補助人を辞任することも可能です。

任意後見制度の手続き

つぎに任意後見制度を適用する際の手続きについて解説します。

(1)任意後見受任者・契約内容を決定

任意後見制度を利用するためには、将来的に判断能力が低下したときに任意後見人を依頼する「任意後見受任者」を決めておくことが必要です。

任意後見受任者が決まれば、本人と任意後見受任者との間で、任意後見契約の内容を協議します。
任意後見契約では、将来の財産の処分・管理方法などを自由に決められます。
ただ契約内容には、本人と任意後見受任者双方の合意が必要となるため、任意後見受任者が希望しない内容を契約に盛り込むことはできません。

(3)任意後見契約の締結および公正証書の作成

契約内容が決まったら、任意後見契約の締結のための公正証書を作成します。
公正役場を予約し、公正人に公正証書を作成してもらいます。

公正証書作成には次の書類が必要です。

本人
  • 発行後3ヶ月以内の印鑑登録証明書(または運転免許証等の顔写真付身分証明書)
  • 戸籍謄本
  • 住民票
任意後見受任者
  • 発行後発行後3ヶ月以内の印鑑登録証明書(または運転免許証等の顔写真付身分証明書)
  • 住民票

公証役場の手数料は、1契約につき1万1000円。
証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚を超えるときは、1枚ごとに250円が加算されます。
さらに法務局に納める印紙代2600円が必要です。

(4)公証人から法務局へ登記依頼

作成した契約書に、本人、任意後見受任者、公証人が署名・捺印し、任意後見契約成立です。
そして任意後見契約が成立後は、契約書に記載された内容の登記を、公証人が法務局に依頼します。
「本人に任意後見受任者がいること」「任意後見受任者に依頼している財産の処分・管理方法」などが、登記されることになります。
登記後は、「登記事項証明書」を取得し、内容を確認することが可能です。

(5)任意後見監督人選任の申立

任意後見契約は、本人に十分な判断能力があるうちは何の効力も発しません。

実際に本人の判断能力が低下し、任意後見制度を利用する必要性が生じたときには、「任意後見監督人の選任」の申立を、家庭裁判所に対して行うことになります。
申立を受け、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで、任意後見契約の効力が発動するという仕組みです。

任意後見監督人選任の申立をすることができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者となります。

申立に必要な書類は次の通りです。

  • 任意後見監督人選任申立書
  • 申立事情説明書
  • 任意後見受任者事情事情説明書
  • 親族関係図
  • 財産・相続財産目録
  • 収支予定表

そのほか、法定後見と同様、戸籍抄本や住民票、診断書や情報シートなどが必要となります。

必要な費用は、申立手数料の収入印紙800円分、 連絡用の郵便切手3195円分、 後見登記手数料の収入印紙1,400円分 、 鑑定費用などとなります。

(6)任意後見監督人の選任

申立てを受けた家庭裁判所は、家庭裁判所調査官らが、申立人や本人、任意後見受任者と直接会い、申立ての実情や本人の意見などを聴いたり、本人の判断能力について鑑定を行うなどしたりした上で,本人の財産の内容や生活する上で必要となる支援の内容に応じて、適切な任意後見監督人に選びます。

任意後見監督人の選任によって、任意後見契約は発効され、任意後見受任者は、任意後見人として、契約内容を遂行可能になります。
任意後見人は、任意後見監督人の監督を受け、本人のために行った事務の状況を任意後見監督人に報告することが求められます。

まとめ


高齢化がますます進む中、成年後見制度も今後さらに重要度を増すことが予想されます。
ただ制度を上手に使い、効果的に支援を受けるには、法律に関する一定の知識も必要で、難しいと感じている方も少なくないでしょう。
成年後見制度の利用を検討するならば、財産管理や相続などの経験が豊富な弁護士に相談してみることをおすすめします。

この記事の監修

株式会社ココナラに在籍する弁護士が監修しています
株式会社ココナラ
タイトルとURLをコピーしました