「夫からのDVがひどく、今すぐ逃げたい」
「別居中の夫が付きまといや嫌がらせをしてくる」
あなたはこのような状況でお悩みではありませんか?
接近禁止命令は、パートナーや配偶者からのDVなどで悩む方を守る制度です。
本記事では、接近禁止命令の申立てから発令までの流れや、申立て時に注意すべき
ポイントなどを紹介しています。
一日でも早く安心できる環境を手に入れるため、正しい知識をつけて一歩踏み出しましょう。
▼この記事でわかること
- 接近禁止命令を申し立てるための条件がわかります
- 接近禁止命令で禁止できる行為と禁止できない行為がわかります
- 接近禁止命令が発令されるまでの具体的な流れがわかります
▼こんな方におすすめ
- 束縛の激しいDV夫の行動に困っている方
- 夫からの暴力を避けるため、物理的に距離をとりたい方
- 同棲中の彼から暴力をふるわれ、別れることも拒否されている方
接近禁止命令とは
接近禁止命令とは、「DV防止法(偶者からの暴力防止や被害者保護に関する法律)」で定められている保護命令のひとつです。
接近禁止命令が発令されると、暴力や脅迫をしてくる相手の接近を禁止できるので、DVに悩んでいる方は利用することを推奨します。
まずこの章では「接近禁止命令」とはどんな命令なのか理解を深めましょう。
接近禁止命令を申し立てるための要件
接近禁止命令はDVに悩む被害者が申し立てるべきものですが、それにはいくつか要件があります。
まず、接近禁止命令を申立てられるのは被害者本人のみで、本人の代わりに友達や親族が申し立てることはできません。
ただし弁護士が代理人として申し立てることは可能ですので、自分一人での手続きが不安な方は弁護士に相談しましょう。
その上で、以下の3つの条件をすべて満たすことが接近禁止命令の申し立て要件です。
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上記の条件を一つでも満たさない場合は、接近禁止命令を申し立てることができません。
例えば「交際相手から激しいDVを受けているが同棲はしていない」「結婚生活中にDVを受けていたが、すでに離婚して別居している」という場合は要件に当てはまりません。
その場合、警察に相談して刑事事件として解決を試みる流れとなるでしょう。
接近禁止命令で禁止できる行為
ここでは、接近禁止命令で禁止できる具体的な行為を紹介します。
【接近禁止命令で禁止できる行為】
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接近禁止命令は、文字通り物理的な接近を禁止できます。
命令が発令されると加害者は被害者の生活環境に近づけなくなるため、付きまといや待ち伏せの恐怖と戦っている方にとっては有効だといえるでしょう。
接近禁止命令では禁止できない行為
一方、接近禁止命令だけでは禁止できない行為もあるので要注意です。
前述したように接近禁止命令は「物理的な接近」に対する制限なので、その他の行為に関しては禁止されていないのです。
【接近禁止命令で禁止できない行為例】
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接近禁止以外の保護命令
加害者のDVから子供や家族を守りたいという場合は、必要に応じていくつかの保護命令をあわせて申立てることをおすすめします。
ただし以下で紹介する(2)~(4)の保護命令は、接近禁止命令が既に発令されている・もしくは接近禁止命令と同時に申し立てることが前提のため、単独での申立てはできないので注意しましょう。
(1)退去命令
命令の内容 | 申立人と暮らしている住居を退去した上で、家の周辺を徘徊することを禁止する |
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効力期間 | 2カ月間 |
(2)電話等禁止命令
禁止できる行為 |
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効力期間 | 6カ月間(接近禁止命令と同期間) |
(3)子への接近禁止命令
禁止できる行為 | 申立人と同居している子供へのつきまといや、学校など生活環境周辺の徘徊 |
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効力期間 | 6カ月間(接近禁止命令と同期間) |
(4)親族等への接近禁止命令
禁止できる行為 | 親族や密接な関係の人物へのつきまといや生活環境周辺の徘徊 |
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効力期間 | 6カ月間(接近禁止命令と同期間) |
接近禁止命令違反による罰則
では、もし加害者が接近禁止命令に違反した場合はどうなるのでしょうか。
接近禁止命令は法的効力を持つため、違反すると刑事罰が科せられます。
【接近禁止命令違反時の罰則】
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(DV防止法29条) |
例えば、自宅周辺で待ち伏せしていた加害者が「話し合いたい」などと話しかけてきた場合、110番通報すれば接近禁止命令違反で現行犯逮捕される可能性があります。
接近禁止命令が発令されたからといって、加害者を拘束したり見張りをつけたりはできませんが、懲役や多額の罰金などの刑事罰によって、つきまといや待ち伏せを抑制する効果が期待できるのです。
接近禁止命令が出されるまでの流れ
それでは、接近禁止命令を出してもらいたいときはどうすれば良いのでしょうか。
接近禁止命令は、書類を提出すればすぐ発令されるわけではなく、申し立てをした上で裁判所に足を運び、事情を話さなければなりません。
本章で全体の流れを把握しておき、いざという時に余裕を持って手続きを行えるようにしておきましょう。
(1)専門機関への相談
まずは、DV被害に関して専門機関へ相談する必要があります。
なぜなら、接近禁止命令の申立て時に裁判所から相談実績を確認されるからです。
相談方法はいくつかあるため、自分のいずれかを選んで相談しましょう。
【専門機関への相談方法】
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(2)接近禁止命令の申立て
次に、地方裁判所に接近禁止命令を申し立てます。
接近禁止命令の申立てに必要な書類と費用は以下の通りです。
必要書類 |
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費用 |
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特に、DV被害の証拠は接近禁止命令が発令されるかを左右する重要書類のため、有効になりやすい証拠を集めることが大切です。
被害の経緯や内容を詳細に記した「陳述書」もあわせて提出すると良いでしょう。
申立ての時点で弁護士に依頼すれば、上記手続きは代理で対応してくれます。
有効な証拠の集め方・陳述書の書き方がわからない方や、できるだけ早く手続きを進めたい方は、弁護士への依頼を検討しましょう。
(3)申立人の面接
申立て手続きが完了すると、基本的には申立て当日もしくは近い日程で申し立てた本人と裁判所側の面接が行われます。
接近禁止命令は緊急性のあるDV被害者を守るための保護命令なので、優先的に日程が組まれる傾向にあります。
面接では、加害者の危険性を主張するため、どれだけ酷い暴力を受けているか被害内容や経緯についてできるだけ詳しく伝えることを意識しましょう。
(4)相手の審尋
申立人の面接が終わると、裁判所が相手(加害者)に出頭を求め、申立人の面接からおよそ1週間〜10日後に加害者側の審尋が行われます。
相手側にも暴力や脅迫についての真偽を問い、口頭弁論の機会を与えるのです。
ただしDVによる危害が急を要するものだと判断された場合は、審尋を行わずすぐに接近禁止命令が発令されるケースもあります。
(5)接近禁止命令の発令
接近禁止命令の発令は、基本的には口頭弁論や審尋の中で直接言い渡されます。
もし加害者が出頭しなかった場合は、接近禁止命令が発令されたことが記載された「決定書」が相手方に送られ、たとえ受け取りを拒否したとしても命令は有効となります。
接近禁止命令に関する注意点
ここでは、接近禁止命令の注意すべきポイントを紹介します。
接近禁止命令が発令されないケースや命令を延長したい場合の手続きなど、有事の際に慌てず対応するためにもここで確認しておきましょう。
接近禁止命令が発令されない場合がある
接近禁止命令は、申し立てれば必ず発令されるものではありません。
以下に、命令が発令されない可能性があるケースを紹介します。
客観的な証拠がないもしくは不十分
接近禁止命令は相手の行動範囲を法的に制限するものなので、発令の妥当性は提出された証拠によって厳格に判断されます。
医師の診断書やケガの写真、脅迫行為の音声データや動画、経緯や被害内容が非常に細かく書かれた陳述書などを提出することで発令される可能性が高まるでしょう。
DVの証拠が過去のものしかない
また、接近禁止命令には「緊急性があるかどうか」も重要です。
過去の証拠ばかりで現在の証拠が確認できない場合、今まさにDV被害に苦しんでいる状況が確認できないため、緊急性が低いと見なされて発令されないケースもあります。
被害が精神的DV(モラハラなど)のみ
現時点では、生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとはいえないような精神的DV(モラハラ)は接近禁止命令の対象外です。
発令に時間が掛かってしまう場合もある
接近禁止命令は、基本的にはDV被害者を守るため優先的に発令される傾向にあります。
ただし、DVによるケガが軽症だった場合などは緊急性が低いと見なされ、命令の発令に時間がかかる場合もあります。
法的に必ず何日以内に発令されるという決まりはありませんので、自分の身を守るためにもできるだけ早い段階で申し立てるようにしましょう。
接近禁止命令を延長するには再度の申立てが必要
接近禁止命令の有効期間は、命令の効力が生じた日から「6ヶ月間」が基本です。
そのため、6ヶ月経過後も継続して発令してもらいたい場合は、延長の申立てが必要です。
ただし「相手がこわいから」という理由だけでは延長を申し立てることはできません。
例えば「接近禁止命令が終わったら会いに行く」「覚えておけよ」と脅迫されたなど、再び暴力の恐れがあると見なされる場合にのみ延長が認められます。
また、延長の場合は手続きが簡易化されると思いがちですが、完全に新しい案件として扱われるため、もう一度最初から申立て手続きを行う必要があります。
費用や必要書類も前回と同様なので、延長の申立てにかかる期間を逆算した上で準備を進めておくことが大切です。
相手の行動を完全には制限できない
「接近禁止命令が発令されたからもう安心だ」と警戒心を解いてしまうのは大変危険です。
なぜなら、接近禁止命令が出ても相手の行動はコントロールできないからです。
接近禁止命令が出されたことで逆上し、懲役や罰金を覚悟の上で目の前に現れる可能性も否定できませんので、十分に警戒した上で申立てを行いましょう。
具体的には、以下のような対策がおすすめです。
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接近禁止命令により被害者に近づくことはできなくなりますが、どこにいるのかを相手が把握できない状況にしておくとより安全です。
全くゆかりのない地域の賃貸アパートやDVシェルターに新住居を確保しておきましょう。
さらに、相手が住所を調べられないように住民票の交付や閲覧を制限すると更に安心です。
万が一加害者が目の前に現れた場合、事前に警察に相談しておけば、通報後すぐに現行犯逮捕される可能性が高まるため、積極的に頼りましょう。
偶然遭遇した場合は罪に問えない
接近禁止命令は、相手が故意に近づいてきた場合しか罪に問えないという特徴があります。
つまり、たまたま会ってしまったという状況は違反にならない可能性があるのです。
相手が偶然を装っている場合も想定し、相手が出没しそうな場所や自分が前から通っている場所は極力避けるなど、遭遇しないための努力は忘れないようにしましょう。
接近禁止命令を取り消す方法
最後に、接近禁止命令を取り消したい場合について説明します。
万が一、相手との和解などで状況が変わり、接近禁止命令を解きたいと思った場合は、申立人からの申請であれば問題なく取り消すことができます。
ただし、相手側から接近禁止命令を取り消すには以下の2つの条件をどちらも満たしている必要があります。
【相手側から接近禁止命令を取り消す条件】
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、接近禁止命令を申し立てるための要件や申立ての流れ、違反した場合の罰則、注意すべきポイントなどを解説しました。
接近禁止命令が出されれば加害者の物理的接触を阻止できるため、DV被害に悩んでいる方には一日でも早く発令してもらいたいものです。
しかし、接近禁止命令が出されるまでには申立て手続きや裁判所との面接等が必要で「一人で全て対応するのは難しい」と思われる方もいるでしょう。
そんな時は、申立の代理人として許可されている「弁護士」に依頼するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、申立て手続きや書類作成、有力な証拠集めのアドバイスまであらゆるサポートを受けられるため、心身の負担軽減と時間短縮が期待できます。
DV被害でお悩みの方は、ぜひ一度弁護士への相談を検討してみてください。