事業再生とは?私的整理・法的整理についての解説や手続の流れ

企業法務

この記事の監修

東京都 / 千代田区
甲本・佐藤法律会計事務所
事務所HP

もし経営する会社の資金繰りが厳しくなったら、できる限り会社や従業員を守るため検討すべきなのは事業再生です。
事業再生は、会社を清算せずに立て直したい場合に有効な方法です。

ただし事業再生の方法は複数あるため、会社の現状や目的を冷静に見極めてベストな方法を選ぶ必要があります。
事業再生を成功させるためにも、まずは本記事で基本的な知識をつけましょう。

▼この記事でわかること

  • 事業再生を選ぶべきケースがわかります
  • 法的整理と私的整理の特徴とメリット・デメリットがわかります
  • 事業再生の具体的な手続の流れがわかります

▼こんな方におすすめ

  • 会社が倒産しそうだがどんな方法を使っても立て直したい方
  • ブランド価値のある会社を守りたい方
  • できるだけ周りに知られずに事業再生したい方

事業再生とは


会社が倒産しそうな状況になったとき、事業の見直しなどによって破産を回避する手続を「事業再生」といいます。
資金繰りが厳しくなった企業がとる手段として一般的に想像しやすいのは「法人破産」ですが、法人破産は事業を終わらせること(=清算)による債務整理で、事業再生とは目的が反対です。

事業再生は、事業を存続させるために債務整理する、前向きなプロセスなのです。

また、事業再生と似た言葉に「企業再生」がありますが、明確な意味の違いはありません。
ただし一般的に「事業再生」は「事業」を切り出して再生させ、「企業」は再生しないで破産や特別清算で消滅させる場合が多く含まれますので、あえて使い分けられることもあります。

事業再生を行う判断基準


まずは、事業再生を行うべき企業の判断基準について紹介します。
事業再生を行うことで状況が好転しなければ意味がないため、会社の現状をふまえて事業再生がベストな選択なのかについて冷静に判断する必要があります。

負債がなくなれば資金繰りが正常化できるか

事業再生を選ぶ基準で最も大切なのは、負債がなくなった後に資金繰りができるかどうかです。
現状が赤字の場合は、負債がなくなってもまた資金繰りに苦しむことが予想されるため、まずはキャッシュフローを改善し、現金収入を黒字にする必要があります。
また債務整理を行った場合は金融機関からの融資が見込めないため、資金を提供してくれるスポンサーを探すことも検討しましょう。

再生できる事業・再生価値のある事業があるか

事業再生を行う上では、収益性の高い黒字事業があるかも大切な基準です。
不採算事業の廃止やリストラなどで改革を行ったとしても、現存する事業で採算がとれないのであれば、会社が存続することはできないからです。

また、事業再生の場合はとくに「市場性」を強く見られる傾向にあります。
社会的意義・信頼がある事業やブランド価値のある事業は、事業再生によって存続する価値があると見なされ、債権者や取引先の協力も得やすいでしょう。

債権者の協力が得られるか

事業再生を実現するためには、債権者の協力を一定数得る必要があります。
特に、裁判所を介さない私的整理では全債権者に同意してもらわなければなりません。
債権者としても、破産されるより少しでもお金を多く取り返せる方が良いため、事業再生に協力してもらえる可能性は十分にあります。
債権者からの協力を得るためには、説得力のある「事業再生計画書」を作成することが大切です。

事業再生の種類


ここからは、事業再生の種類について解説していきます。
事業再生には、大きく分けて「法的整理」と「私的整理」があります。
法的整理は裁判所主導のもとで行われる方法で、私的整理は裁判所が介入せず債権者との話し合いで行われる方法です。

どちらを選択するかは自由ですが、まずは事業への影響の少ない私的整理から検討し、不成立だった場合は法的整理に移るのが一般的です。
また法的整理・私的整理の中にも多くの種類があるため、経験豊富な弁護士にどの手続で事業再生するのが良いか判断してもらうのがおすすめです。

以下では、私的整理と法的整理それぞれについて選択できる手段やメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

私的整理

私的整理は、債権者(主に金融機関)に対して支払いスケジュールの変更や債務のカットなどを交渉することによって企業の再建を図る方法です。
裁判所は介入しないため、基本的には当事者同士の話し合いとなります。

【私的整理のメリット・デメリット】

メリット
  • 迅速かつ柔軟に手続を進められる
  • 外部の第三者(取引先など)に知られずに済む
  • 債権者を選んで債務整理できる
  • 予納金がかからない
  • 経営権を失わないまま事業を継続できる
デメリット
  • 対象債権者全員の同意が必要
  • 法的整理に比べて手続が不透明

私的整理は手続の早さや柔軟さ、費用の安さ、秘密性などメリットが多い一方で、裁判所が介入しないことによる手続の不透明性が問題視されていました。
そこで、平成13年に「私的整理に関するガイドライン及び同Q&A」(私的整理ガイドライン)が作成され、第三者的立場の機関が仲介する私的整理も増えました。
以下では、債権者との直接交渉ではなく、第三者的立場として透明性を確保しつつ私的整理をサポートしてくれる機関を紹介します。

サポート機関(1)事業再生ADR

事業再生ADRとは「準則型私的整理」と呼ばれる私的整理の手続の一種です。
経済産業大臣の認定を受けた第三者が仲介者となり、ルールやガイドラインのもとで公平に手続を行い、再建計画案が成立するようサポートしてくれます。
専門性の高い弁護士や会計士が「手続実施者」という裁判所の代わりのような中立的な立場を取る仕組みのため、申立代理人側と手続実施者側の両方で専門家費用が掛かり、手続コストが高くなりますので、一般的に大企業向けの制度とされています。

2021年に成立した改正産業競争力強化法では、事業再生ADRで債権者全員の合意が得られない場合でも、金額ベースで債権者の5分の3以上の合意があれば裁判所が債権の調査・確定手続を省いて簡易再生手続の開始を決定できるという制度が盛り込まれました。
これにより、事業再生ADRが不成立でも相当程度の債権者との合意があれば裁判所の簡易再生手続で短期的に再生計画を成立させることが可能になりました。

サポート機関(2)中小企業再生支援協議会(中小企業活性化協議会)

中小企業再生支援協議会(令和4年4月1日に「中小企業活性化協議会」に改組)とは、中小企業の再生支援を目的として各都道府県に設置されている公的機関です。
中小企業から相談を受けると協議会で専門チームが組まれ、中立的な立場から調査を行った上で再生計画案の作成支援や債権者との調整など一連の流れを仲介するとともに、そのための専門家費用に対する補助をしてくれます。
令和4年4月15日からは「中小企業の事業再生等に関するガイドライン(中小企業版私的整理ガイドライン)」に基づき、「第三者支援専門家」という簡便な機関を活用した、より小規模な中小企業の再生を支援する制度が作られました。

サポート機関(3)地域経済活性化支援機構(REVIC)

地域経済活性化支援機構とは、地域経済の活性化を目的とした公的な再生ファンドです。
支援によって地域経済の活性化が期待できるような中小企業を対象に、債権買取りや出資も行ってくれます。

サポート機関(4)企業再生ファンド

企業再生ファンドとは個人・企業から集めた資金を使う投資ファンドの一つです。
経営に行き詰まった企業の株を購入し、不採算事業を売却するなどでコスト削減を図り、企業の再建後に株式を売却して投資資金を回収する仕組みです。
基本的には、再生の価値が高いと判断された企業が対象となります。

サポート機関(5)特定調停

特定調停は、裁判所が債務者と債権者を仲介する調停手続です。
中小企業の事業再生を目的に、日弁連が2013年12月に策定したのが「金融円滑化法終了への対応策としての特定調停スキーム利用の手引」です。これに「経営者保証に関するガイドライン」に基づく保証債務整理を統合する形で、2020年2月、日弁連は、(1)事業者の債務整理とした「事業者の事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」を公表しました。
特定調停スキームは、中小企業が弁護士などの専門家のサポートによって事業の再生計画案を策定し、裁判所の特定調停を通じて公正中立性を担保しながら債務整理を行う手続です。中小企業の債務整理に特有の、経営者の保証債務整理との一体処理が可能な点が特徴です。

法的整理

法的整理は、裁判所の管理の下で法的手続を通して企業の再生を目指す方法です。

【法的整理のメリットとデメリット】

メリット
  • 債権者の過半数の同意があれば、残りの債権者にも法的に債権カットを強制できる
  • 裁判所主導なので、手続に透明性・公平性がある
  • 手続終了までの見通しが立てやすい
デメリット
  • 金融債権者だけでなく仕入先や下請け業者などの取引債権者の債権も一律にカットしてしまうため、事業継続が難しくなる危険がある
  • 手続に費用と時間がかかる
  • 取引先に知られるため、不信感を抱かれる可能性がある

法的整理はすべての手続が裁判所の管理下で行われるため、不正や予想外のトラブルが起こりづらく、安心感があるのが特徴です。
一方、裁判所を介すると事業再生を行ったことが公になるため、取引先から倒産のマイナスイメージを持たれて不信感を抱かれるリスクがあります。
以下では法的整理の種類について、解説します。

民事再生

民事再生は「民事再生法」に基づいて行われる法的整理です。
債権者の同意が得られれば、最大10年までの返済期間延長や債務総額の大幅カットが実現できる可能性があります。
また、債務者自身の努力によって事業の安定を図ることを目的としているため、現在の経営陣のまま事業を続けられるのも大きな特徴です。

会社更生

会社更生は「会社更生法」に基づいて行われる法的整理で、内容は民事再生に似ています。
ただし最大15年までの返済期間延長が可能なほか、手続開始とともに経営陣や株主が権限を失うという特徴があります。
更生管財人主導のもとで担保権にも制限を加えながら手続が進められるため、民事再生より抜本的な再建が可能だと言えます。
また、会社更生できるのは株式会社に限定されており、手続が大がかりで多額の費用が必要なことから上場企業のような大規模な会社が対象になるでしょう。

事業再生の流れ


ここからは、実際に事業再生を行うときの流れを説明していきます。
具体的な再生手続は法的整理と私的整理で流れが異なるので注意しましょう。

(1)債務の弁済が困難な状態に陥った原因を調査

まずは、会社がなぜ債務の弁済が困難な状態に陥ってしまったのかを調べ、現状を明確に把握しましょう。
最善の再生方法を決めるため、会社の財務状況も詳細に調査する必要があります。

(2)再生手続の決定

現状調査後は、具体的にどの手続を使って会社を立て直すかを決定します。
前述したように、事業再生には前述のとおり「法的整理」「私的整理」のそれぞれに様々な手続があり、より良い手続選択のためにも弁護士に相談して適切なアドバイスをもらうのがおすすめです。

(3)事業再生計画書の作成

再生手続を選択した後は、弁済計画を示した「事業再生計画書」を作成します。
この計画書は後に交渉でも使用する重要書類ですから、特に財務面の内容をよく練って具体的に作成する必要があります。

(4)資金確保

次に、事業再生のための資金を確保しなければなりません。
自主再建であれば本業のキャッシュフローから事業再生のための資金を確保しますが、本業のキャッシュフローが足りない場合は、資金提供してくれるスポンサーを探します。
スポンサー探しは個別交渉の他にフィナンシャルアドバイザー(FA)と呼ばれるM&A仲介会社を通じて募集する方法もあります。
有力なスポンサーを得ると、資金面の余力が得られるだけでなく取引先からの信用も得られるため、再生手続を円滑に進めることが可能になります。

(5)再生手続の準備・実行

ここからは再生手続に入りますが、法的整理と私的整理では流れが異なるため、それぞれ分けて説明します。

法的整理の場合

法的整理(民事再生の場合)の大まかな流れは以下の通りです。

  1. 再生手続の開始決定申立て
  2. 保全処分の決定(弁済の禁止)
  3. 監督委員の選任
  4. 債権者への説明会実施
  5. 再生手続開始の決定
  6. 再生計画案の提出
  7. 再生計画の認可
  8. 計画に従って弁済及び事業継続

法的整理の場合は、裁判所に申立てをして法的手続にのっとって進めていきます。
そのため、再生手続開始申立書、事業計画書、債権者一覧表、資金繰り実績・予定表など多くの書類を提出する必要があり、その分負担も大きくなる傾向にあります。
経験豊富な弁護士に相談することで、事務的なサポートをはじめとして、債権者への説明や説得力のある再生計画案の作成などをサポートしてもらえます。

私的整理の場合

債権者との個別交渉による純粋私的整理の場合、手続の流れに決まりはありません。
支払い期限の延長や債務カットなどを個別に交渉することが全てです。

ただし「事業再生ADR」や「中小企業活性化協議会」などの第三者機関を通じて準則型の私的整理を行う場合は、申立代理人を通じて利用する第三者機関に相談後、第三者機関の専門家による支援や助言を受けながら再生計画案を作成し、債権者との調整を進めることになります。

いずれにしても私的整理は全債権者から同意を得る必要があるため、債権者全員から同意が得られない場合は法的整理の手続に移ることになります。

まとめ


いかがでしたでしょうか。
本記事では、事業再生の判断基準や種類、手続の流れなどを紹介しました。

事業再生には「法的整理」と「私的整理」があり、その中でもさまざまな手段が存在することがおわかり頂けたと思います。
どの方法を選ぶか迷いますが、会社の財務状況や将来像などを考えながら冷静な判断が必要な一方で、会社を救うためスピーディーな決断も重要です。

そのため、なるべく早いタイミングで弁護士に相談して最善の方法をアドバイスしてもらうことをおすすめします。
弁護士は事業再生に関する助言だけでなく、煩雑な法的整理の手続や債権者との交渉も代行してくれるため、心身の負担軽減が期待できます。
事業再生について検討を始めた方は、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。

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