税制適格ストックオプションとは│必要な要件や導入の流れについて解説

企業法務

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株式会社ココナラ

新株予約権の一種であるストックオプションのなかで、税制適格ストックオプションは、付与対象者や発行企業にもメリットをもたらすことが期待できます。
さらに令和元年7月に施行された中小企業強靱化法により、税制適格ストックオプションの付与対象者が一定の社外人材にまで拡大されました。
優れた人材を採用したいと考えている事業者にとって、ぜひ知っておきたい制度といえます。
しかし税制適格ストックオプションにより、具体的にどのようなメリットがあるのか、また、税制適格となるためにどのような要件があるか、どのような手順で導入を進めるのか、といったことを正確に理解している方は少ないとのではないでしょうか。

そこで今回は、税制適格ストックオプション導入のメリット・デメリットや税制適格要件、導入の流れについて、改正点なども踏まえながら紹介します。
税制適格ストックオプションの導入を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

▼この記事でわかること

  • 税制適格ストックオプションの概要
  • 税制適格ストックオプションのメリット・デメリット
  • 税制適格ストックオプション導入の流れ

▼こんな方におすすめ

  • ストックオプションの導入を検討している中小企業の経営者
  • 社員のモチベーションアップの方法を考えている方
  • 将来的に上場を目指している方

税制適格ストックオプションとは


そもそもストックオプションとは新株予約権の一種で、株式会社の役員や従業員が、自社株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利のことをいいます。
ストックオプションは有償ストックオプションと無償ストックオプションに分けられ、無償ストックオプションのうち後述する税制適格要件を満たしたものが税制適格ストックオプションに該当します。
税制適格ストックオプションに該当する場合、付与対象者は税制上の優遇措置が受けられます。

税制適格ストックオプションにかかる税金の計算方法

税制適格ストックオプションでは、利益が生じた際の課税が売却時点まで繰り延べられるという税制上の優遇措置が付与されることになります。
権利行使時には課税がなされず、株式譲渡時に税金を計算することとなります。
株式譲渡時には、下記の計算式により所得金額を求めます。

【収入金額(譲渡価格)】-(【取得費】+【譲渡費用(手数料など)】)= 譲渡所得

上記の「取得費」については、権利行使時の時価ではなく、株式取得にあたり実際に負担した価額で計算します。
算出された譲渡所得金額に対して20%(所得税15%、住民税5%)及び復興特別所得税を合わせた税率により課税されます。

その他のストックオプションとの違い

先述の通り、ストックオプションには有償ストックオプション、また税制適格要件を満たさない税制非適格ストックオプションなどの種類があります。
それらと税制適格ストックオプションの違いについて解説いたします。

有償ストックオプション

有償ストックオプションとは、役員・従業員がストックオプションの発行価額を支払うことで購入し、あらかじめ定められた条件を満たした際に役員・従業員が行使価額を支払い権利行使することで株式を取得することができる、というものです。
無償ストックオプションが労働の対価(報酬)として付与されるのに対して、有償ストックオプションは役員・従業員がストックオプションを購入する必要があり、金融商品と同じような性質を持っています。
権利行使時には、最大約55%の税率により課される給与所得ではなく、最大約20%の税率の譲渡所得として課税されることになります。

税制非適格ストックオプション

税制非適格ストックオプションは、文字通り、税制適格要件を満たしていないストックオプションであり、税制上の優遇措置が受けられません。
具体的には、権利行使時において算出される利益部分が給与所得として課税され、その後、株式売却時に利益部分が譲渡所得として課税されます。
株式売却により現金(利益)を手に入れる前に課税されることとなるため、手に入れた株式の値上がりを待たず、権利行使後すぐに株式を売却して、税金の支払いのための資金を確保しなければならなくなるケースも考えられます。

税制適格ストックオプションのメリット


次に、税制適格ストックオプションのメリットを確認していきます。

税制の優遇措置が受けられる

税制適格ストックオプションのメリットの1点目は、税制の優遇措置が受けられることです。
権利行使時に非課税となる点で、付与対象者にとって税制上のメリットがあります。

権利付与された従業員のリスクが少ない

税制適格ストックオプションのメリットの2点目は、無償発行であるため権利付与された従業員のリスクが少ないということです。
ストックオプション全般に共通していることですが、自身の成果によって会社の株価上昇に寄与できれば、その分、多額の利益を手に入れることができます。
その中でも、税制適格ストックオプションについては、無償発行である分、株価上昇分が自身の利益に直結しやすいというメリットがあります。

優秀な人材をリクルートしやすくなる

税制適格ストックオプションのメリットの3点目は、外部の優秀な人材をリクルートしやすくなるということです。
後述しますが、税制改正により、社外高度人材に対しても税制適格ストック・オプションを付与することができることになりました。
これにより、上場を目指しており、ストックオプションも付与されるとなれば、優秀な人材をリクルートしやすくなることが期待できます。

税制適格ストックオプションのデメリット

次に税制適格ストックオプションのデメリットについても確認していきます。

利用するための要件が厳しい

税制適格ストックオプションは無償かつ税制の優遇がある分、税制適格要件が厳しく設定されています。
また、税制適格要件を満たさず、税制非適格ストックオプションとなった場合は、付与対象者は所得税と住民税で最大で55%の累進課税を課されてしまいます。

ストックオプション付与対象者と非対象者の差が生じる

転職してきた社員や新入社員などストックオプションを付与されていない社員が増えてきた場合、社内にストックオプションの付与対象者と非対象者が在籍すると、業務に対する温度差が出てしまうこともあり得ます。
とくに税制適格ストックオプションの場合には、税金の面で優遇されてということもあり、ストックオプションを持つ人と持たない人の意識の差がより大きく生じる可能性があります。
また、ストックオプションの付与を熱望しない社員に付与した場合には、インセンティブという要素をうまく利用できないということも懸念されます。

モチベーション向上や離職率低減に繋がるとは限らない

思うように会社の業績が伸びないと、株価の上昇にも期待できず「ストックオプションがあっても意味がない」と社員のインセンティブにならない可能性もあります。
またストックオプションを重視している社員の場合、権利行使をきっかけに退職してしまう懸念もあります。
こうしたことから、税制適格ストックオプションの導入=社員のモチベーション向上や離職率の低減に必ずしも繋がる、というわけではないことを覚えておきましょう。

税制適格要件


税制適格ストックオプションとするためには、租税特別措置法第29条の2に定める税制適格要件を満たす必要があります。
ここでは以下の7点の要件について説明します。

  1. 無償発行
  2. 付与対象者
  3. 権利行使価額
  4. 権利行使期間
  5. 譲渡制限
  6. 保管委託
  7. 法定調書の提出

無償発行

企業の役員や従業員などに対し、労働などの対価として税制適格条件を満たした新株予約権を無償で付与する必要があります。
また、発行したストックオプションは、譲渡が禁止されていなければなりません。

付与対象者

税制適格要件を満たすためには、ストックオプションの付与対象者が以下の者である必要があります。

自社やその子会社の役職員

税制適格ストックオプションの付与対象者が、発行会社・その子会社の取締役や執行役、使用人(従業員)であることが必要です。
監査役、外注先、法人向け発行は対象外となりますので、注意してください。
また上記以外の役員であっても、発行済みの株式のうち3分の1以上を保有している場合、付与対象者には含まれません。

株主

付与対象者が大口株主やその親族・配偶者などにあてはまらないことも条件のひとつです。
「大口株主」とは、

  • 上場会社の場合:発行済株式の1/10を超えて株式を保有する株主
  • 未公開会社の場合:発行済株式の1/3を超えて株式を保有する株主

のことをいいます。

社外高度人材

中小企業強靱化法の施行により、エンジニアやプログラマ、弁護士などの国家資格を有する者などの社外高度人材も、付与対象者に含まれることとなりました。
(発行会社が一定の要件を満たす認定対象企業であることが前提となります)

【税制適格ストックオプションの対象となる社外高度人材】

  1. 国家資格を保有+3年以上の実務経験
  2. 博士の学位を保有+3年以上の実務経験
  3. 高度専門職の在留資格をもって在留+3年以上の実務経験
  4. 上場企業で役員の経験が3年以上
  5. 将来成長発展が期待される分野の先端的な人材育成事業に選定され従事していた者
  6. 過去10年間に、製品または役務の開発に2年以上携わった一定の者

権利行使価額

権利行使価額に関して、以下の2種類の要件が存在します。

権利行使価額の限度額

税制適格ストックオプションを行使して株式を取得する際、行使価額の合計額が年間1,200万円以内でなければなりません。
この場合の行使価額とは、あくまで税制適格ストックオプションを発行した際に設定された行使価額であり、行使するタイミングの株価ではありません。

権利行使価額の最低価額

税制適格ストックオプションの行使価額が、発行時の時価以上である必要があります。
例えば、発行時の株価が1株あたり500円であれば、ストックオプション行使価額は1株あたり500円以上で設定する必要があります。

権利行使期間

権利行使可能な期間は、付与決議日から2年後〜10年後の8年間のみ行使可能です。
付与決議後、すぐに行使可能というわけではない点に注意が必要です。

譲渡制限

割当契約書等に新株予約権の譲渡を禁止する旨定めておく必要があります。

保管委託

税制適格ストックオプションを行使して取得した株式は、証券会社等に管理保管を委託する必要があります。

法定調書の提出

税制適格ストックオプションを発行した翌年1月末までに、管轄税務署に法定調書を提出します。
顧問税理士と連携しながらストックオプションを発行していれば、特段問題になることはありませんが、逆に顧問税理士が知らないということがあると、法定調書の処理が漏れてしまう危険性が出てしまいます。

税制適格ストックオプション導入の流れ


ここからは、実際に税制適格ストックオプションを導入する際の流れを確認していきます。

募集事項の決定と通知

税制適格ストックオプションを導入する際は、まず新株予約権についての一定の募集事項を決定しなければなりません。
募集事項を決定する機関は、会社法上の公開会社と非公開会社で異なります。
会社法上の公開会社は上場会社と全く同じ意味ではないため、注意が必要です。

公開会社の場合

公開会社とは、譲渡制限のない株式を一株でも発行している会社を言います。
​​公開会社は取締役会設置が義務付けられており、新株予約権の募集事項の決定は、原則として取締役会の決議により行われます。

非公開会社の場合

非公開会社とは、定款で全ての株式に対して譲渡制限を付けている会社を言います。
非公開会社が新株予約権の募集事項を決定する場合、原則として株主総会の特別決議が必要です 。

総額引受方式による手続

通常、新株予約権の発行手続きを進める際は、募集事項の決定後に新株予約権の申込み・割当てという手続きを踏むことになります。
しかし税制適格ストックオプションの場合、あらかじめ付与対象者が決まっている場合が多く、申込みと割当ての手続きについては省略されることが多いです。
一般的には、総額引受方式による手続きが行われます。

新株予約権原簿の作成と新株予約権の登記

新株予約権は登記事項とされているため、税制適格ストックオプションを発行したら遅滞なく新株予約権原簿を作成する必要があります。
新株予約権原簿には、新株予約権を取得した者の氏名と住所、新株予約権証券についての内容・数量などを記載します。
また、新株予約権は登記事項とされているため、割当日から2週間以内に一定の事項について変更登記の申請を行う必要があります。

まとめ


税制適格ストックオプションの付与対象者にとっては、税制適格ストックオプションは、税制非適格ストックオプションと異なり権利行使時に税金がかからないというメリットがあります。
税制非適格ストックオプションの場合には、権利行使時には現金を得られないなか、給与所得として税金が課されてしまうため、税金を支払うために権利行使後にすぐ売却しなければならないという方も多くいます。

会社側にとっての税制適格ストックオプションの導入の効果として、社員が株価を押し上げるために頑張るため、会社全体の士気向上が期待できます。
しかし、税制適格ストックオプションを行使して株式を売却したら会社を辞めてしまうという可能性やストックオプションを持つ人と持たない人との温度差による軋轢が生まれる可能性なども考慮しなければなりません。
税制適格ストックオプションの導入にあたっては、導入によるメリット・デメリットを十分に検討した上で、設計を進めるようにしましょう。

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