内部告発のリスクとは? 改正公益通報者保護法の対象範囲について解説

企業法務

この記事の監修

福岡県 / 福岡市博多区
弁護士法人リベルタ総合法律事務所 福岡事務所
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組織の犯罪行為や法令違反を外部に公表することを内部告発といいます。
企業倫理上、正当な行為ではありますが、告発者は組織から嫌がらせや報復などの不利益を被る恐れがあります。
そして、そのような不利益から告発者を保護するための法律として「公益通報者保護法」が制定されています。
しかし、保護されるためには法律で定められた手順で告発しなければなりません。

そこでこの記事では、内部告発を検討している方のために、内部告発によって受ける可能性がある不利益、適切な内部告発の方法、なるべく組織に特定されないように告発を行う方法などについて解説します。
不利益を受けるリスクを減らしたうえで内部告発を行うため、ぜひ参考にしてください。

▼この記事でわかること

  • 内部告発により受ける恐れがある不利益がわかります
  • 法的に保護される告発の手順がわかります
  • なるべく個人を特定されないように告発する方法がわかります

▼こんな方におすすめ

  • 組織が不正をしているため内部告発を検討している方
  • 内部告発したいが報復が怖くて躊躇している方
  • 会社に特定されないように告発する方法を知りたい方

内部告発とは


一般的に内部告発とは組織が犯罪行為や、行政指導の対象となる等の法令違反等を行っていることを、上司や報道機関等の外部に知らせる行為です。
これにより、組織が行う不正行為や違法行為が是正され、製品の品質改善や、労働問題の解消につながる場合があります。
例えば、下記のような場合に、内部告発が用いられる場合があります。

  • リコール隠し
  • 食品偽装
  • 品質データの改ざん
  • 工事のデータの改ざん
  • 免許の不正取得
  • 労働問題

内部告発をした労働者の不利益


内部告発で、組織外の第三者に対して、組織内の不正行為の事実が外部へ開示された場合、組織側からみると、情報漏洩や組織の批判・誹謗中傷行為になり得ます。
そのような場合には、組織内の規程等に基づき、懲戒処分の対象となったり、降格処分等の対象になることも考えられます。

そこでここでは、内部告発をした労働者が、受ける可能性がある不利益を紹介します。

報復人事

報復人事とは、報復を目的として人事異動を行うことです。
配置転換や昇降格などの人事異動は、おもに人材育成、適材適所、不正防止、雇用維持などを目的に行われます。
しかし、そのような正当な理由がなく、逆恨みや嫌がらせのため行われる人事異動のことを、報復人事といいます。
今までの業務と関係がない部署へ異動させられ、雑務のみを任されるなどが報復人事の例です。

懲戒処分

内部告発は、組織内部の情報を外部に開示するという性質上、以下のような理由で、懲戒処分の対象になる場合があります。

(1)企業の機密情報の漏洩

承諾を受けずに組織の秘密を、使用したり外部に開示することは、多くの場合、秘密保持義務に違反した情報漏洩に当たります。

(2)会社の批判や誹謗中傷

労働者は使用者である会社へ不当な損害を与えないようにする義務を負っています。
そのため、組織に批判的な内容を公表した場合には、名誉や信用を毀損する行為としてみなされます。

内部告発を行う行為は、これらの義務に違反するため「減給」や「出席停止」などの懲戒処分の対象となり得ます。

解雇または退職勧奨

懲戒処分の重い処分として解雇を命じられる場合もあります。
ただし、相当な理由がない場合に解雇すると違法となります。
そのため、解雇を命じるのではなく、自主的に退職するよう追い込まれる場合もあります。

パワハラ・人間関係の悪化

これまでに紹介したような、処分や行為をされないまでも、告発したことで組織の人間から恨みを買い、暴言を浴びせられる、無視される、社内で孤立させるなどの嫌がらせを受けてしまう可能性もあります。

内部告発者を守る「公益通報者保護法」


内部告発によって労働者が前述のような不利益を受けるリスクがあることから、不正行為や違法行為を見つけたとしても、告発に消極的になってしまう可能性があります。
そこで内部告発者を保護する目的で、2006年に「公益通報者保護法」が制定されました。
「公益通報者保護法」に定められた手段で内部告発を行った場合は、法的に不利益から保護されます。
以下では、法的に保護されるための要件、そして、どのような点で不利益がなくなるのかを説明します。

「公益通報」と認定されるための要件

すべての内部告発が法律で保護されるわけではありません。
保護されるためには「公益通報」として認定される必要があります。
公益通報者保護法第2条でその要件が定められており、大きく分けると次の4つに分けられます。

  • 通報者が誰であるか
  • 通報内容がどのようなものか
  • 通報先がどこか
  • 通報目的に不正な目的がないこと

以下では、それらの要件を具体的に説明します。

通報者

公益通報の通報者として認められるのは、次のような人たちです。

告発先組織の労働者 正社員だけでなく、パート、アルバイト、派遣労働者も含まれます。 また、公務員も、労働者として認められます。
退職後1年以内の労働者 退職後の労働者も通報者として認められます。派遣労働者の場合は、派遣終了後1年以内の場合も含まれます。令和4年の改正により対象として追加されました。
取引先の労働者 告発を行う1年前までに、取引を行っていた人も通報者として認められます。なお、以下のような契約をしている場合に取引先となります。

  • 請負契約
  • 継続的な物品納入契約
  • 継続的な役務提供契約(清掃業者など)
  • 顧問契約(コンサルティング会社など)
役員 労働者だけでなく、役員も通報者として認められます。役員とは、法人の経営に従事する者で、取締役、監査役などが含まれます。また、取引先の役員も対象となります。令和4年の改正により対象として追加されました。

通報する内容

公益通報とされるためには、「対象となる法律」に違反している事実である必要があります。
対象となる法律は、消費者庁の「通報対象となる法律一覧」のページで確認できます。
2024年10月23日現在では、501本の法律が対象となっています。
対象となっていない法律の場合は、法令に違反している事実があっても、公益通報とは見なされません。

通報先

公益通報にあたる通報先には、次の3つが定められています。

通報対象の組織 通報対象の組織自体に通報を行います。組織内に設置されている担当部署や通報用の窓口(ホットライン)などが通報先となります。しかし、組織全体で不正をしている場合には、通報が意味をなさない可能性があります。
行政機関 行政機関も通報先として認められます。ただし、行政機関ならどこでもよいわけではありません。通報対象の事実について、行政指導や行政処分を行う権限を持っている行政機関である必要があります。通報先がわからない場合は、消費者庁の公益通報の通報先・相談先 行政機関検索のページで検索することができます。
マスコミ、一般市民 外部の第3者も通報先となる場合があります。ただし、誰でも良いわけでなく、公益通報者保護法では次のように定められています。「通報対象事実の発生もしくは被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」これに該当する報道機関や消費者団体、事業者団体、労働組合などが通報先として認められます。また、競争上の地位などを害する恐れがあるため、ライバル企業などは除かれます。

不正の目的で通報していない

公益通報と認められるためには、「不正の目的」でないことが必要となります(法第2条第1項)。
不正の目的にあたる内容は、具体的には以下のようなことです。

  • 通報を手段として金品をゆする
  • 対象者の信用を失わせる等の損害を加える

なお「不正の目的」でないことを証明するためには、通報の主目的が上記のようなものでないと認められれば十分です。
交渉を有利に進めるため、事業者に反感を抱いているなどの理由だけでは、「不正の目的」があるとまではいえません。

内部告発の保護対象

公益通報者保護法で定められた手順で告発を行い、公益通報として認定された場合は、法的に保護対象となります。
具体的には、公益通報を行ったことを理由とした次のような不利益が、無効とされます。

  • 降格、減給、給与上の差別、訓告など
  • 解雇や派遣契約解除
  • 自宅待機命令、雑務に専念させるなど
  • その他の不利益な扱い(退職の強要、損害賠償請求の制限、退職金の不支給・減額など)

内部告発の進め方


ここからは、実際に内部告発を行う場合の準備や検討すべき内容を説明します。
不利益を被る可能性がある内部告発は、なるべく会社に特定されないように進められると安心です。

内部告発の証拠資料を用意する

まず、内部告発の根拠となる資料を用意する必要があります。
前述したとおり公益通報として認められるのは「通報対象となる法律」に違反している事実です。
その事実の裏付けとなるものが証拠として有効です。
次のようなものが証拠として考えられます。

  • 違反の事実が書かれているメールなど
  • 改ざんされたデータや資料
  • 違法行為がわかる画像や動画、音声データ

告発先を決定する

続いて、内部告発をどこに行うかを検討します。
前述した通り、①組織内のホットラインなど②行政機関③マスコミなど、の3つが公益通報の通報先として認められます。
このうち、最も社会的な影響が大きいのは「③マスコミなど」ですが、最初の告発先は「①組織内のホットラインなど」に相談するのが適当です。
もし、告発内容が間違いであった場合や公益通報として認められなかった場合に、組織や通報者自身が受けるダメージが少ないためです。
マスコミなどに告発した場合に、告発内容が間違いであったり公益通報として認められなかった場合には、名誉棄損などの理由で、通報者自身が大きな代償を受ける可能性があります。
告発は、社会的な影響が小さい組織内の告発先から進めていくとよいでしょう。

告発を行う

証拠が集まり、告発先を決定したら、実際の告発を行います。
告発方法は、特に定められておりません。
電話、メール、文書などで告発を行います。
行政機関の場合は、相談窓口を設けている場合がありますので、活用するのもよい方法です。

内部告発の際に個人の特定を防ぐための対策


公益通報者保護法により保護されるとしても、できれば会社に個人を特定されないように告発したいと考える人も多いと思います。
前提として周囲には相談せずに告発した方が、安全性が高められます。
そのほか、以下のような点に注意して告発すると、会社にばれる可能性を少なくすることができます。
ただし、匿名通報の場合、詳細な情報を確認できず、十分な調査ができないおそれがありますので、法令に違反している具体的事実を明確で客観的に示すことが重要となります。

メールで内部告発する場合

社内のメールアドレスを使用すると、送信者がだれかすぐに明らかになります。
そのため、個人で作成するなどしたメールアドレスを使用します。
できれば、告発用に新規のメールアドレスを取得して使用したほうが安全です。
またメールのヘッダーなどから、送信元の情報を把握することが容易です。
そのためネットカフェなど、場所が特定されても問題ない場所から送信したほうがよいでしょう。

郵便で内部告発する場合

郵便を使うと発送元を示さず、告発することができます。
しかし、使用する封筒、消印に表示された郵便局名などからある程度の場所が特定される恐れがあります。
また、特徴的な筆跡によって、個人が特定される場合もあります。
そのため、パソコンなどで作成し、家から離れた郵便局から発送するのが安全です。

まとめ


本記事では内部告発で受ける不利益や、法的に保護されるための告発方法などをまとめました。
内部告発自体は、組織の内部情報を外部に漏洩する行為や誹謗中傷などにあたる場合があり、報復として不利益を受ける可能性があります。
そのため、そのような不利益から保護するための「公益通報者保護法」という法律が制定されています。
しかし、保護されるためには、法律で求められる要件を満たして、適切に告発を行わなければなりません。
内部告発を行ったことで不利益を受けることがないように、今回紹介したポイントを参考にして、法律に則った告発の仕組みを理解しておくようにしましょう。

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