エスクローサービスとは?決済の仕組みや資金決済法による規制について解説

企業法務

この記事の監修

福岡県 / 福岡市博多区
弁護士法人リベルタ総合法律事務所 福岡事務所
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安全な売買契約を実現するため、フリマアプリやネットオークションなどで広く使用されているエスクローサービス。

金銭のやりとりに関わる仕組みであるため、サービスの仕組みや法的な位置づけを適切に理解して運用しなければ、利用者とのトラブルや法的な罰則が発生する懸念があります。

そこで今回の記事では、エスクローサービスの仕組み、エスクローサービスの法的な位置づけ、法規制や義務などを紹介します。
エスクローサービスの導入を検討するために、ぜひ参考にしてください。

▼この記事でわかること

  • エスクローサービスの仕組みがわかります
  • エスクローサービスの法的な位置づけがわかります
  • 資金移動業にかかる規制や義務がわかります

▼こんな方におすすめ

  • エスクローサービスの仕組みを知りたい方
  • エスクローサービスの導入を検討している方
  • エスクローサービスの法規制が気になっている方

エスクローサービスとは


エスクローとは、商取引の間に第3者が介入し決済にいたるまでの安全取引を担保する仕組みです。
エスクローサービス業者は取引の販売者と購入者の間に介入して、代金の受け取りと支払いを代行します。
CtoCのECサイトなどでよく利用される身近なサービスで、メルカリなどのフリマアプリや、Yahoo!オークションなどのネットオークションなどで活用されています。

販売者と購入者の間に事業者が入り、代金の受け取りや支払いを代行することによって、利用者は「支払いが行われない」や「支払ったのに商品が届かない」といったトラブルを防止することができます。
このように利用者の安全な取引をサポートできるのが、エスクローサービスのメリットです。
一方で、金銭のやり取りが発生するサービスであるため、運営者側には法律による規制が発生することが懸念されます。

エスクローサービスの仕組み

具体的に購入者と販売者のやり取りを例に、エスクローサービスの仕組みを説明します。

(1)購入者がエスクローサービス業者に代金を支払う

商品の購入者が、商品の代金をエスクローサービスの事業者へ支払います。

一般的な売買契約の場合、商品の購入者は販売者に対して代金を支払う義務が発生します。
一方でエスクローサービスを利用した場合、購入者はエスクローサービスの事業者へ代金を支払うことで支払い義務が解消されます。

(2)エスクローサービス事業者が販売者へ支払い通知を送る

購入者からの支払いを受領したエスクローサービス事業者は、支払いが適切に行われたことを販売者へ通知します。

(3)販売者が商品を発送する

エスクローサービス事業者から支払い通知を受領した販売者は、購入者へ商品を発送します。

(4)購入者がエスクローサービス事業者へ受取通知を送る

販売者が発送した商品が適切に配達されたら、購入者は受取を完了したことをエスクローサービス事業者へ連絡します。

(5)エスクローサービス事業者が販売者に商品代金を支払う

受取完了通知を受け取ったエスクローサービス事業者は、販売者へ対し支払いを行います。

エスクローサービスの資金決済法による規制は?


売買代金の決済に関わるサービスの場合、資金決済法に影響を受ける可能性があります。
資金決済法とは、銀行以外の「資金移動業」について規定する法律です。
資金移動業に該当するサービスには、さまざまな規制や義務が適用されます。

エスクローサービスも売買代金の支払いや資金の移動を行うため、資金移動業に該当することが考えられますが、現状では多くのエスクローサービスは資金移動業に該当しないと考えられています。

しかし、今後の動向次第では資金決済法の法規制の対象となる可能性も考えられます。
そこで、資金決済法におけるエスクローサービスの位置づけを確認しておきます。

エスクローは「収納代行サービス」

エスクローサービスは資金決済法においては「収納代行サービス」の一つとして位置付けられています。
「収納代行サービス」が資金決済法でどのように認識されているか、過去のワーキンググループの報告書の概要をもとに紹介します。
法律上の考え方を認識しておくことで、今後資金決済法の法規制の対象となる可能性についての理解に役立ちます。

金融庁の「平成21年1月14日付金融審議会金融分科会第二部会報告書」の概要

  • 平成21年に資金決済法制定に向けて資金決済に関する制度整備についての金融庁金融審議会の金融部会という会議が開催された。
  • その中で、当時は銀行業にのみ認められていた為替取引を銀行以外にも認め、制度整備を図ることが適当とする意見がまとめられた。
  • 為替取引を認める事業が検討された結果、収納代行サービスについては「為替取引に該当しない、支払人に二重支払の危険はない、利用者の利便性を低下させる等から制度整備は必要がない」との異論が出され、意見が分かれ共通した意見がまとめられることがなかった。
  • この結果、収納代行サービスに対しての規制は設けられないこととなった。
  • 必ずしも資金移動業に該当しないことが明確になったわけではなかったが、少なくとも直ちに規制対象となることはないため、実務上、収納代行サービスは資金移動業には該当しないと考えられることとなった。

このように、資金決済法制定時にはエスクローサービスが含まれる「収納代行サービス」全体が資金移動業に該当しないという判断がなされています。

なお、この部会では収納代行サービスとはコンビニなどで公共料金を支払うサービスや宅配便配達時に商品の料金を運送業者に支払う代金引換サービスなどが想定されており、エスクローサービスについての議論はされていませんでした。

ただし、該当しなかった事業については「性急に制度整備を図ることなく、将来の課題とすることが適当と考えられる」とまとめられており、新たなサービスの出現や利用状況などに合わせて適宜検討を行うこととされています。

収納代行の一部は改正資金決済法の規制対象に

2020年に改正された資金決済法により、個人間の収納代行サービスのひとつである「割り勘アプリ」が資金移動業として資金決済法の規制対象になりました。
同じく個人間の収納代行サービス形式であるエスクローサービスについては、ここでも規制対象に含まれませんでした。
そのため、現時点ではエスクローサービスに関わる資金決済法による規制や義務は存在しません。

ただし、収納代行サービス形式であるエスクローサービスでは、収納代行サービス業者が単に資金移動の依頼を受けているのではなく、売主から代金の受領権限が与えられているため、買主がエスクローサービス業者に代金を支払った時点で、売主と買主の決済が完了し買主の支払義務が消滅するという建付けで、資金移動業に該当しないとされております。

そのため、実質的に見て収納代行サービスではなく、資金移動業であると判断されるリスクもありますのでお気を付けください。

また、2020年の改正でエスクローサービスが規制対象とならなかったからといって、今後もならないとは限りません。
資金決済法の規制対象となる主な目的は利用者保護のためです。
今後、エスクローサービスの利用に際して利用者に対する被害が発生したり、現状の仕組みと異なる新たなサービスが出現したりした場合には、今回規制対象となった割り勘アプリのようにエスクローサービスも規制対象となる可能性があります。

資金決済法による資金移動業の規制


最後に、エスクローサービスには現時点で該当していませんが、今後該当する可能性がある「資金移動業」について解説します。
資金決済法における「資金移動業」とは「銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る)を業として営むこと」とされています。
為替取引とは「現金を直接受け渡しすることなく売買代金の支払いや資金の移動を行うこと」を示し、銀行振込や口座振替も含まれます。
また「少額の取引として政令で定めるもの」とは、100万円に相当する額以下とされています。

資金移動業における規制や義務

資金決済法の「資金移動業」に該当すると、様々な規制や義務が適用されます。
資金移動業者に適用される主な規制や義務は以下のようなものがあります。

参入規制(登録制)

資金移動業を行うためには資金移動業者として内閣総理大臣の登録が必要です。

登録するためには、業務を確実に遂行するための財産があることや、業務を確実に遂行し法律の規定を遵守すうために必要な体制が整えられていること、過去5年間に出資法などの法律に違反し罰せられていないことなどの多くの要件を満たしていることが求められます。

利用者保護のための義務

利用者の保護を図るため「銀行等が行う為替取引との誤認を防止するための説明」や「手数料その他の資金移動業に係る契約の内容についての情報の提供」などの措置を講じる必要があります。

履行保証金の供託義務

資金移動業者は「送金者から受け取ったものの、支払いをまだ行っていない金額」以上の金額を履行保証金として保全する必要があります。

情報の安全管理を行う義務

業務に係る個人情報などの漏洩やき損の防止などのために適切なセキュリティ対策を行うことが求められます。

まとめ


本記事ではエスクローサービスの仕組み、法的な位置づけ、法規制や義務などをまとめました。
現時点ではエスクローサービスは資金決済法による法規制や義務が発生する資金移動業に該当していません。
しかし、対象事業は適宜見直しを行う方針とされており、将来的に新たな規制や義務への対応が必要となることも考えられます。

トラブルの無い運営を行うためには、エスクローサービスの導入後も法規制の動向を気にしておくことが大切です。
今回紹介したポイントを参考にして、エスクローサービスの仕組みや関連する法律の情報を理解しておくようにしましょう。

また、自社のビジネスが違法とならないよう、資金決済法に詳しい弁護士に相談しながら、ビジネスを構築・推進していくことも重要となります。

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