【ひな形付】離婚協議書の法的効力とは?公正証書にするべき?作成方法・手順について解説

離婚・男女問題

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弁護士法人若井綜合法律事務所
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離婚の方法でもっとも多いのは、話し合いによって離婚条件を決める「協議離婚」です。
手間や費用の負担が少ない反面、条件を正確に決め書面に残しておかなければ、養育費の未払いなどトラブルを招いてしまう可能性もあります。
このような将来的なトラブルを防止するために、協議離婚で話がまとまった際は「離婚協議書」を作成するのが一般的です。

この記事では、離婚協議書の法的効力やひな形付きの作成方法を解説します。
より法的効力の強い公正証書についても紹介しますので、離婚をお考えの方はぜひご覧ください。

▼この記事でわかること

  • 離婚協議書の基礎知識や法的効力がわかります
  • 離婚協議書の作成方法や書くべき内容をひな形付きで紹介します
  • 離婚協議書を公正証書にする必要性や手順を解説します

▼こんな方におすすめ

  • 離婚を進める手順で悩んでいる方
  • 離婚協議書の書き方を知りたい方
  • 離婚協議書を公正証書にする方法を知りたい方

離婚協議書とは?法的効力はある?


離婚協議書とは、離婚に関する約束をまとめた契約書です。
夫婦が話し合って離婚する「協議離婚」が成立した際に作成されます。
主な内容は以下の通りです。

  • 財産分与
  • 慰謝料
  • 親権
  • 養育費
  • 面会交流
  • 年金分割

離婚協議書の作成義務はありませんが、できれば離婚をする前に取り決めた方が良いでしょう。
離婚をした後だと、慰謝料や養育費を支払う側は話し合いに応じない可能性があるからです。
また、慰謝料や財産分与、年金分割の請求には期限があります。
財産分与及び年金分割は離婚成立後から2年間、慰謝料は3年間です。
期限を過ぎると、相手が協議に応じない限り請求できません。
離婚後のトラブルを避けるには、事前に離婚協議書を作成し、約束事を決めた方が良いでしょう。

離婚協議書の必要性

離婚協議書があれば離婚後の話し合いが不要になるだけでなく、裁判の証拠資料にもなります。
離婚協議書は契約書ですから、お金の支払いや約束事に対する効力を発揮します。
相手の慰謝料の支払いが滞れば、離婚協議書を証拠資料として裁判を起こすことも可能です。

ただし、私的な契約であるため、相手の財産を強制的に回収する「強制執行」はできません。
強制執行には、民事執行法第22条にもとづく「債務名義」が必須です。
債務名義には、「執行証書」と呼ばれる公正証書が含まれます。
万一の強制執行を視野に入れるのであれば、公正証書で離婚協議書を作りましょう。

公正証書による作成がおすすめ

公正証書で作成した離婚協議書は、法的効力を持つ「執行証書」扱いされます。
強制執行を執行するための要件を満たすには、強制執行に同意する「強制執行認諾文言」付きの公正証書が必要です。
執行証書になる離婚協議書があると、仮に元配偶者が金銭の支払いを滞っても、裁判を行わずに給料や預金を差し押さえられます。
裁判の訴訟費用や手間が生じないため、離婚協議書は公正証書による作成がおすすめです。

【ひな形付】離婚協議書の書き方・記載事項


実際に離婚協議書を作成する際は、夫婦で話し合って内容を決めましょう。
内容に規定はなく、夫婦ごとに記載すべき項目は変わります。
加えて、離婚協議書にも法律上決められた書式はありません。
自分たちで自由に構成して良いため、Webサイトや本のひな形を参考にして作成できます。
不安な場合は、弁護士への相談や作成依頼を検討しましょう。
ここでは、一般的な項目をまとめたひな形をもとに、具体的な記載内容を解説します。

表題および離婚の合意

冒頭に、離婚協議書の表題を書きます。
そのまま「離婚協議書」とするのが一般的ですが、離婚協議に関する内容とわかるタイトルであれば問題ありません。
次に、双方が離婚に合意している旨を記し、「離婚届の提出日・提出期限」や「夫婦のどちらが提出するか」を取り決めます。

(離婚の合意)
夫●●●●(以下、「甲」)と妻●●●●(以下、「乙」)は、協議離婚することに合意し、下記の通り離婚協議書を取り交わした。

乙は各自署名捺印した離婚届を令和○○年○○月○○日までに、○○市役所に提出するものとする。

夫婦によっては、離婚原因を明記する場合があります。
協議離婚に離婚原因は問われないため基本的に不要ですが、「子どもや再婚相手に説明する際に示したい」といった理由により記載します。
当然ながら、離婚理由を記す場合も双方の同意が必要です。

親権者の決定

未成年の子どもがいる場合、離婚時は子どもの親権を決定する義務があります。
親権者は、子どもの監護・教育、財産管理を行う義務と権利を持ちます。
子ども1人ひとりについて、「どちらが親権者なのか」や「不当な監護・財産管理を行った場合の規定」を明示しましょう。

(親権者及び監護権者)

甲乙間に生まれた未成年の子である長男▲▲▲(平成○○年○月○日生、以下「丙」)、次男△△△(平成○○年○月○日生,以下「丁」)の親権者を乙と定め、同人において監護養育する。

なお、親権者を話し合いで決められない場合、協議離婚はできません。
その場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停内容に沿って「調停調書」を作成してもらう必要があります。

養育費の内訳や支払い期間

親権者を決定したら、養育費の詳細を取り決めましょう。
養育費とは、子どもが育つために必要な生活費・教育費・医療費などの全般の費用です。
養育費の金額は、夫婦同士で自由に決められます。
目安を知りたい場合は、最高裁判所が掲載する算定表を参考にしてみてください。
ただし、あくまで参考にとどめ、夫婦の収入を考慮し子供をきちんと養育できる金額を決めましょう。

(養育費)

甲は乙に対し丙の養育費として令和○年○月から令和○年○月まで、毎月末日限り、金○○万円を、丁の養育費として令和○○年○月から丁が20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り金○万円を、戊の養育費として令和○○年○月から戊が20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り金○万円の合計金○○万円を乙の指定する口座へ振込送金の方法により支払う。

養育費は、離婚後にトラブルが起きやすい部分です。
実際、厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、養育費を継続的に受け取っている母子世帯はわずか24.3%に留まります。
一方の「養育費を1度も受け取ったことがない」母子世帯は、調査時点で56.0%に達しました。
公正証書でしっかりと養育費を取り決め、未払い時の強制執行手続きに備えることが重要です。

子供との面会交流

面会交流とは、親権者ではない親と子どもの交流を意味します。
面談や文通などの交流について、「交流の頻度や日時」「1回あたりの時間」「日常的な連絡の可否」といった内容を決定します。

(面会交流)

乙は,甲が子と,月1回,面会交流することを認め,その日時,場所,方法等については,子の福祉に配慮し,甲乙間で別途協議して定める。

原則として、親権者は面会交流を拒否できません。
離婚後の交流において問題行動があれば、家庭裁判所に制限や停止の申し立てが可能です。問題行動の具体例には、「子どもや親権者に暴言・暴力をふるう」「面会交流の条件や面会交流の基本的なルールを破る」などの行為が挙げられます。
なお、面会交流の基本的なルールは、裁判所の「面会交流のしおり」を参考にしてみてください。

財産分与の詳細

財産分与とは、夫婦が婚姻中に築いた財産を公平に分ける作業です。
財産ごとの夫婦の貢献度や、お互いの経済的事情を考慮して分配します。
主な財産は、預貯金、株式、住宅、車、退職金、保険金です。
車や住宅といったモノの場合、売却して現金化してから分配するケースもあります。
分配内容が決まったら、「財産分与の対象・金額」「支払い回数・期限」などの項目を記しましょう。

(財産分与)

甲は乙に対し、財産分与として金○○万円を令和○○年○月○日までに乙の指定する口座へ振込送金の方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。

ちなみに、財産の名義は財産分与には関係ありません。
たとえば、夫名義の不動産であっても、一般的には妻が協力して取得した共有財産と判断されます。
反対に、相続財産や結婚前から所有している財産といった「特有財産」は、財産分与の対象外です。

厚生年金の年金分割

厚生年金の加入者は、年金分割の項目も設けましょう。
年金分割とは、将来の年金受給額が高い方が低い方に厚生年金の受給額を分割する制度です。
話し合って分割割合(最大50%)を決める「合意分割制度」と、専業主婦(夫)へ50%分割する「3号分割制度」があります。
3号分割制度の適用は相手の合意が不要なため、専業主婦(夫)は基本的にこちらを選択します。
どちらも、分割対象は婚姻期間中に納めた分の厚生年金です。
詳しい要件は、日本年金機構の案内をご覧ください。

(年金分割)

甲(第1号改定者)及び乙(第2号改定者)は厚生労働大臣に対し、厚生年金分割の対象期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とする旨合意し、乙は、離婚届提出後2箇月以内に厚生労働大臣に対し、合意内容を記載した公正証書の謄本を提出して当該請求を行うこととする。

甲(昭和○○年○月○日生)(基礎年金番号 ○○-○○○○○)
乙(昭和○○年○月○日生)(基礎年金番号 ○○-○○○○○)

年金分割の請求期限は離婚成立から2年間ですので、離婚後はすみやかに請求しましょう。
なお、自営業者などが加入する「国民年金」は、年金分割の対象外です。

慰謝料の有無や金額

慰謝料がある場合、「どちらが支払うか」「慰謝料の金額」「支払い期限」を明記します。
誤解されやすい部分ですが、離婚時の慰謝料は必ず発生するわけではありません。
相手の不法行為に精神的苦痛を感じた場合のみ、慰謝料を請求できます。
不法行為とは、暴力・モラハラ・不貞といった行動です。
また、慰謝料がない場合でも、慰謝料が存在しない旨を記すと後々のトラブル予防になります。

(慰謝料)

甲は、乙に対し、慰謝料として金○○○万円の支払義務があることを認め、これを○○回に分割して、令和○○年○月から令和○○年○月まで、毎月末日限り金○万円を乙の指定する金融機関の預貯金口座に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。

分割支払いであれば、次のように同じ条項内に「ペナルティを課す事由」と「ペナルティの内容」を定めましょう。

3 甲について、下記の事由が生じた場合は、乙の通知催告を要さず、甲は、当然に期限の利益を失い、乙に対して、既払金を控除した残金及びこれに対する期限の利益を喪失した翌日から支払い済みまで年3分の割合による遅延損害金を直ちに支払う。

(1) 分割金の支払いを1回でも怠ったとき。
(2) 他の債務につき、強制執行、競売、執行保全処分を受け、或いは公租公課の滞納処分を受けたとき
(3) 破産、民事再生手続開始の申立てがあったとき。
(4) 手形交換所の取引停止処分を受けたとき。
(5) 乙の責めに帰することができない事由によって、所在が不明となったとき。

離婚の慰謝料相場は、一般的には100万〜300万円といわれています。
金額に関する法律上の定めはなく、相手が合意すればいくらでも請求可能です。
反対に、相手が合意しなければ離婚協議書作成は進みませんので、必要に応じて弁護士に相談しましょう。

清算条項

清算条項とは、離婚協議書に記した内容以外は一切請求しないとする項目です。
離婚成立後、新たに慰謝料を請求したりトラブルを蒸し返したりするのを防ぐために記載します。

(清算条項)

甲及び乙は,本件離婚に関し,本協議書に定めるもののほか,何らの債権債務のないことを相互に確認する。

シンプルな項目ですが、明記することで離婚成立後の金銭的な請求を予防できます。

公正証書

離婚協議書を公正証書にする場合、忘れてはならないのが「公正証書作成の同意」項目です。

(公正証書)
甲及び乙は、本合意につき、強制執行認諾約款付公正証書を作成することを承諾した。

加えて、公正証書作成の同意だけでなく、「養育費の未払い時の強制執行を受け入れる」といった条件と合意も表す「強制執行認諾文言」を必ず設けましょう。

(公正証書)
甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。

これまでは公正証書を作成しても、相手の口座情報などがわからないと強制執行できないといった問題がありました。
しかし、2022年5月1日に民事執行法が改正され、現在は「第三者からの情報取得手続」制度を利用できます。
口座や勤務先などの情報を第三者機関が提供してくれるため、強制執行を実施しやすくなりました。

離婚協議書を公正証書にする手順と流れ


離婚協議書を公正証書にする場合、夫婦のみでは作成できません。
最寄りの公証役場に行き、公証人に作成してもらう必要があります。
具体的な手順を解説しますので、ご確認ください。

必要書類の準備

公証役場に行く前に、以下の書類を準備しましょう。

  • 離婚協議書の原案
  • 身分証明書(運転免許証やパスポート)
  • 印鑑証明書と実印
  • 戸籍謄本
  • 不動産の固定資産税評価額がわかる書類(納税通知書など)
  • 年金手帳

その他、協議内容によって追加書類が必要になる場合もあります。
事前に、最寄りの公証役場に必要書類を問い合わせるとスムーズです。

公正証書の原案作成

多くの公証役場は、事前相談を受け付けています。
公証役場の窓口または電話で相談し、離婚協議書の原案をもとにして公正証書に盛り込みたい内容を決めましょう。
ただし、公証役場は1から100まで全ての協議内容を決めてくれるわけではありません。
公証人は中立な立場を保つため、どちらかに有利になるようなアドバイスはできないからです。
相談前にある程度、自分たちで協議内容や条件を整理しておくことが大切です。
公正証書の原案が固まったら、公正証書の作成日時を予約します。

公証役場で公正証書を作成

予約した日時に公証役場に行き、正式な公正証書を作成します。
公正証書を作成するのは、公証人です。
公証人が作成した公正証書を確認し、問題なければ署名・押印して完了します。
公正証書の原本は公証役場が管理しますので、元夫婦は原本と同じ効力を持つ「正本」を1通ずつ保管します。

公正証書の作成費用

公正証書の作成には、公証人手数料令第9条で定められた手数料がかかります。
手数料は、「目的の価額」によって算出します。
離婚における目的の価額は、財産分与や慰謝料、養育費などの金額です。
なお、「財産分与と慰謝料」と「養育費」はそれぞれ算出します。
たとえば、目的の価額が1,000万円であれば、手数料は2万3,000円です。
詳しい手数料一覧は、日本公証人連合会の手数料案内をご覧ください。

離婚協議書に関するよくある疑問


最後に、離婚協議書に関するよくある疑問2つに回答します。

離婚協議書はいつ作る?

離婚協議書を作成するおすすめのタイミングは、離婚成立前です。
離婚成立後ですと、養育費や慰謝料を支払う側は離婚協議書を作成するメリットがあまりありません。
私的契約とはいえ、裁判の証拠資料となり自分に不利に働くかもしれないからです。
公正証書にする場合は強制執行が可能になり、なおさらメリットが薄いでしょう。
音信不通になり話し合い自体が不可能になるケースもあるので、離婚届の提出前がもっともスムーズです。

離婚協議書の押印後に内容変更できる?

離婚協議書に押印した後、内容を変えるのは困難です。
お互いの合意があれば可能ですが、相手が拒否すれば変更できません。
相手に不利になるような修正提案であれば、さらに難しいでしょう。
例外となるのが、養育費の変更です。
病気や失業、子どもの進学など、養育費の変更に値する事情があれば家庭裁判所に「養育費請求調停」を申し立てられます。
養育費以外の変更は難しいので、押印前に細部の項目まで慎重に確認することが大事です。

まとめ


多くの夫婦は、話し合いで離婚する「協議離婚」に該当します。
協議離婚であっても、離婚協議書を作成しておくと将来的なトラブルを回避しやすいです。
公正証書で作成した離婚協議書は、財産を差し押さえる強制執行が可能です。
公正証書は公証役場で作成しますが、内容に関するアドバイスは受けられません。
離婚協議書の作成に不安がある方は、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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