貞操権侵害で慰謝料を請求する方法│気をつけるべきポイント、請求の流れとは

離婚・男女問題

この記事の監修

東京都 / 豊島区
弁護士法人若井綜合法律事務所
事務所HP

「独身だと聞いて付き合っていた人が既婚者だった」
「婚約し、結婚指輪も買っていたのに騙されていた」

このように既婚者の男性に騙され交際してしまった女性は、非常に大きなショックを抱えているかと思います。
事実上の不倫状態であるため、誰にも相談できず一人で悩んでしまうかもしれません。
しかし、既婚者の男性に騙されていた場合、「貞操権の侵害」で相手に慰謝料を請求できる可能性があります。
この記事では、貞操権の侵害で慰謝料を請求できるケース・できないケースを解説します。
慰謝料を請求する際の気をつけるべきポイントや流れも紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

▼この記事でわかること

  • 貞操権の侵害で慰謝料を請求できるケース・できないケースがわかります
  • 相手に騙されたと発覚した時点で集めるべき証拠を紹介します
  • 慰謝料請求の流れやしてはいけない行動を解説します

▼こんな方におすすめ

  • 結婚を考えていた相手に騙されていたので慰謝料を請求したい
  • 婚活アプリやマッチングアプリから交際に発展した男性が既婚者だった
  • 自分の事情が貞操権の侵害にあたるか知りたい

貞操権とは


貞操権とは、性的関係を持つ相手を自分の自由な意思によって決める権利です。
貞操権を直接的に明示する法律はありませんが、「不法行為による損害賠償」を定めた民法第709条と「財産以外の損害の賠償」を記す第710条にもとづき慰謝料を請求できると解釈されています。
したがって、独身のふりをしていた既婚男性に騙されて性的関係を持った女性は、貞操権を侵害されたと言えます。
社会通念上、相手が既婚者だと知っていたら交際しないため、「自分の意思で性的関係を持つ権利を奪われた状態」と判断できるためです。

貞操権侵害で慰謝料を請求できるケース


「相手に騙されて性的関係を持ったので貞操権を侵害された」と思っても、全てのケースで慰謝料を請求できるわけではありません。
貞操権侵害で慰謝料を請求できるケースは、以下のいずれかに当てはまる場合に限られます。

  • 相手が既婚者である事実を隠していた
  • 相手が結婚の意思がないのに婚約した
  • 相手が結婚の意思がないのに結婚をほのめかした

いずれも、結婚を前提として肉体関係を持っていたかが焦点となります。
相手に騙され、結婚を期待できる状況で性交渉に及んだ場合、貞操権の侵害に当たると判断される可能性が高いです。

貞操権侵害に基づく慰謝料の相場

貞操権侵害による慰謝料は、50万円~300万円が相場とされています。
実際の金額は個別のケースによって大きく変動するため、あくまで目安として考えましょう。
個別の事情を考慮して金額が決まるため、貞操権侵害による慰謝料相場は広い傾向にあります。

慰謝料の金額に影響する要素

以下の要素を満たすほど、貞操権侵害に基づく慰謝料は高額になりやすいです。

  • 男性の不法行為の悪質性
  • 男性に騙されて交際していた期間の長さ
  • 男性が交際解消時に不誠実な対応をした
  • 男性が性的関係を強制した
  • 女性が妊娠・出産・中絶させられた
  • 女性が未成年、または判断力が低いと見なされる年齢
  • 類似事案の過去の判例

男性の不法行為の悪質性を判断する材料のひとつが、具体的に結婚を期待させる行動の有無です。
たとえば、女性を騙すために「結婚指輪を買った」「婚約者として友人に紹介した」といった明確な行動を起こしている場合、悪質性が高いとされます。

貞操権侵害で慰謝料を請求できないケース


貞操権侵害で相手を訴えても、慰謝料の請求が認められないケースもあります。
次の項目のいずれかに当てはまる方は、貞操権侵害で慰謝料を請求できない可能性があります。

  • 性的関係を結んでいない
  • 相手が既婚者だと知りながら交際した
  • 結婚の話を一切されていない
  • 既婚者だと発覚した後も交際を続けた

「結婚を全く考えていない関係だった」と判断されると、貞操権の侵害は成立しません。
そもそも性的関係がない場合も同様です。
また、既婚者だと発覚した後も交際を続けた場合、女性は不倫(不貞行為)を認識している状態になります。
女性にも不倫に対する責任が生まれるため、貞操権侵害による慰謝料請求は難しくなるでしょう。

貞操権侵害で慰謝料請求する際のポイント


貞操権侵害で慰謝料を請求できるケースに当てはまる方は、「すぐに相手と交渉しよう」とお思いかもしれません。
しかし、焦って慰謝料を請求すると、自分に不利な行動をしてしまう恐れがあります。
貞操権侵害で慰謝料請求する前に気をつけたいポイントから確認しましょう。

相手の正確な氏名と住所を把握する

まずは相手の正確な氏名と住所を把握しましょう。
慰謝料を請求する際、内容証明郵便の送付先として必要になります。
裁判を提起する場合も、訴状に相手の氏名や住所を記載しなくてはいけません。
「相手が嘘をついていた」あるいは「名前と連絡先しか知らない」といった事情がある方は、弁護士に依頼しましょう。
弁護士照会制度により、相手の携帯電話番号から身元を突き止められる可能性があります。

有効な証拠を集める

貞操権侵害の事実を証明するためには、以下の有効な証拠が必要です。

  • LINEやメール、婚活アプリのメッセージで独身だと偽っている文面
  • 相手が婚活アプリやマッチングアプリに登録していたとわかる画像
  • 画像やホテルの領収書など、性的関係があったとわかる資料
  • 婚姻旅行の写真や婚約指輪

上記のように、「結婚を意識した交際」「性的関係の事実」「相手の嘘」を証明できる資料を集めましょう。

すぐに交際をやめる

相手に騙されていたと発覚したら、すぐに交際をやめましょう。
前項でお伝えした通り、不倫状態であると知りながら交際を続けると、慰謝料を請求できなくなる恐れがあるからです。
本来は被害者であるはずなのに、不倫に対する責任が生まれてしまいます。
相手に貞操権侵害の責任を取らせるためにも、既婚者と知った後は即座に別れることが大切です。

相手の妻に連絡しない

相手に騙された怒りから、相手の妻に連絡しようと考える方もいるかもしれません。
しかし、相手の妻に連絡してしまうと、逆に慰謝料を請求されてしまうリスクが生じます。
相手の妻からすれば、あなたは「自分の夫と不貞行為をした女性」です。
いくら騙されていたと主張しても、相手の妻が信じてくれるとは限りません。
万一、慰謝料を請求された場合、「故意」と「過失」による不貞行為のどちらにも該当しないと証明する必要があります。
どちらか一方でも該当すると判断され慰謝料を請求されたら、支払わなくてはいけません。
非常にリスクの高い行為ですので、相手の妻への連絡は避けましょう。

相手を脅迫しない

騙されていた相手への脅迫も、絶対にしてはいけません。
「お金を払わなければ職場にばらす」「妻や子供にばらす」などの脅しは、相手の名誉に対する「害悪の告知」に当たります。
相手から脅迫罪や名誉毀損で訴えられる可能性があるため、どれほどひどい相手でも報復行為に走りたくなる気持ちを堪えましょう。
相手の不誠実な対応をつらく感じる場合は、直接交渉せずに弁護士などの代理人を立てる方法をおすすめします。

時効を意識する

重要なポイントですが、貞操権の侵害には下記2つの時効があります。

  • 相手に騙されていたと発覚してから3年
  • 貞操権侵害の事実から20年

相手に騙されていたと気づいたら、上記期間を過ぎないうちに慰謝料を請求しましょう。

貞操権侵害の慰謝料を請求する基本的な流れ


貞操権侵害の慰謝料を請求する際は、相手の対応によって大きく以下3つの順番で進めます。

  1. 相手と交渉する
  2. 内容証明郵便の送付
  3. 訴訟(裁判)を提起する

流れについて、具体的に説明します。

1.相手と交渉する

話し合いが可能な状況であれば、集めた証拠をもとに相手と交渉しましょう。
直接の話し合い、あるいは代理人に交渉を任せ、慰謝料の金額を決定します。
交渉により合意できた場合、慰謝料の金額や支払い方法・期限を示談書などの書面にまとめます。
「脅されて支払った」「返金して欲しい」といった後々のトラブルを防ぐためにも、書面は必ず作成しましょう。

2.内容証明郵便の送付

相手と話し合えなかったり合意できなかったりした場合は、内容証明郵便で慰謝料請求書を送付します。
内容証明郵便とは、「いつ誰が誰にどのような文書を送ったか」を記録するサービスです。
配達証明付きの内容証明郵便で送れば、請求書を受け取っていないなどの虚偽の主張を予防できます。
また、相手の妻に開封されるのを避けるため、「本人限定受取」のオプションも追加しましょう。
内容証明郵便の利用方法は、郵便局の公式案内をご覧ください。

3.訴訟(裁判)を提起する

内容証明郵便で慰謝料を請求しても相手が応じないのであれば、裁判所にて訴訟を提起しましょう。
双方の主張や証拠にもとづき、貞操権侵害の有無や慰謝料の金額が決定されます。
判決が出た後は、相手の財産を差し押さえる「強制執行」の権利を得ます。
ただし、強制執行するためにも各種手続きが必要です。
自分ですべて行うと大きな負担がかかるため、訴訟まで事態が進んだ場合は弁護士へ依頼したほうが良いでしょう。

まとめ


相手と結婚を考えて交際していたのに騙された場合、貞操権の侵害で慰謝料を請求できる可能性があります。
訴訟の負担は経済的にも精神的にも大きいため、基本的には直接交渉や内容証明郵便で決着を図りたいところです。
とはいえ、嘘をついて女性を騙すような相手であるため、誠実な対応は望めないかもしれません。
真摯な対応が期待できない相手なら、直接交渉の段階から弁護士へ相談するのをおすすめします。

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