お子様がいて離婚する際は、必ず、夫婦のいずれかを親権者と決める必要があります。
親権者を夫婦のいずれにするかは、離婚の話し合いでもめる原因の一つといっても過言ではありません。
しかし、そもそも親権とはどんな権利なのか、どのような基準で親権者を決めるべきなのかわからないという方も多いでしょう。
そこで本記事では、親権の内容や親権者を決める際の注意点、対処法などについて解説します。
▼この記事でわかること
- 親権とはなにかがわかります
- 親権者を決める手順、決める際に考慮すべき事情がわかります
- 親権を分離できること、分離する際の注意点がわかります
▼こんな方におすすめ
- 親権のことについて知りたい方
- 親権をめぐって配偶者ともめそうと思われている方、もめている方
親権とは?
親権とは親が子どもと一緒に暮らし、財産管理や教育を受けさせるなどの世話(看護教育)をする権利や義務です。父母に認められた権利だけでなく、義務を伴うものであることは重要な点です。
親権者を決めないまま離婚届を提出しても役所に受理されず、離婚は成立しません。
離婚後も子どもを守るために、離婚する前に父母のどちらかを親権者と定める必要があります。
親権は具体的に、財産管理権と監護権(身上監護権)から成り立っています。
財産管理権
財産管理権は子どもの財産を守るための親の権利義務です。
財産管理権の内容は、次の2つを含みます。
- 包括的な財産の管理権
- 子どもの法律行為に関する同意権
包括的な財産の管理権の身近な例としては、「親が子どもの将来のために子ども名義の銀行口座を開設し、お祝い金やお年玉などを入金して貯金する」などが典型です。
また、子どもの法律行為に関する同意権の身近な例としては、「子どもが不要となった中古品を売る際の親の同意」などが典型です。
監護権(身上監護権)
身上監護権は子どもと同居し、子どもの世話を行う権利義務です。
身上監護権の内容としては、典型的には次の4つが挙げられます。
- 懲戒権
- 居所指定権
- 職業許可権
- 身分行為の代理権
このうち皆さんにも身近な権利は「懲戒権」や「職業許可権」でしょう。
懲戒権は子どもを監護及び教育する、すなわち「しつけ」をする権利です。
職業許可権は、未成年の子どもが会社に就職する際などに許可を与える権利です。
なお法律では懲戒権や職業許可権を含む親権は、子どもの利益のために行使されなければならないとされています。
したがって、行き過ぎたしつけや不合理な理由により就職の不許可などは、親権を濫用したものとして、親権をはく奪される(親権者を変更される)原因ともなりかねません。
親権者を決める手順
では、離婚の際に、どのような手順で親権を決めていけばよいのかみていきましょう。
離婚協議
まず、離婚すると決めた場合は、話し合い(協議)によって親権者を決めます。
どのような観点から親権者を決めるべきかは、あとの「親権者を決める上で考慮すべき要素」で解説します。
もっとも、離婚で取り決めなければならない条件の中でもめやすいのが親権といっても過言ではありません。
離婚や親権をめぐって冷静な話し合いができないという場合は、親族や弁護士などの専門家に間に入ってもらうのも一つの方法です。
親権者を決めておかなければ離婚届を受理してもらえず、離婚は成立しません。
つまり、親権者を決めることは離婚する上での絶対条件といえます。
「話がまとまらないから離婚後に決めよう」ということはできません。
離婚調停・離婚訴訟
話し合いで親権者を決めることができない場合は、家庭裁判所に対して離婚調停(夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てます。
離婚調停では、調停委員が夫婦の間に入り、夫婦それぞれから意見・主張を聴き取って、離婚や親権者に関する合意形成をはかっていきます。
また、親権以外にも取り決めるべきこと(たとえば、養育費、財産分与、慰謝料など)があれば、同じ手続で話し合いを進めることができます。
調停でも話がまとまらない場合、一般的には家庭裁判所に対して離婚訴訟を提起して解決を目指します。
離婚調停で一部に限り同意できていない場合などは、審判(調停に変わる審判)へ移行することもあります。
親権者を決める上で考慮すべき事情
親権は子どもを守るための権利ですから、まず一番に子どもの利益となる親権者はどちらなのかを考えましょう。
次に父母の事情をふまえ、現実に子育てしていくうえでどちらが適任かという観点から判断しなければなりません。
以下では、親権者を決める際に、話し合いではいかなる事情を考慮すべきか、調停、裁判ではいかなる事情が考慮されるのかをみていきましょう。
監護の継続性
これまでいずれの親が子育てを中心に担ってきたかという点を考慮すべきです。
とくに子どもが幼い場合は、子育てを中心に担ってきた親との間に親和性が認められることが多く、離婚後もその親と生活していくことが子どもの利益になると考えられます。
また子育てを中心に担ってきた親の方が、子どもとコミュニケーションを取る機会が多く、子どもの考え方や特徴、子育ての方法などをよく把握しているといえるでしょう。
将来的にも同じように子育てすることが期待でき、それが子どもの利益につながるといえます。
なお、子どもが就学した後は学校、地域などで親以外との人間関係もしだいに形成されていきます。
そのため家以外での監護環境の継続性も、より重視していかなければなりません。
子どもの意思
子どもがいずれの親と生活していくことを希望すべきかという点を考慮すべきです。
親権は子どものためにあるのですから、親権者を決めるにあたって子どもの意思を考慮するというのは当然の流れといえます。
ただし子どもと一言でいっても年齢には幅がありますし、判断能力にも個人差があります。
基本的には10歳前後の子どもの場合は意思をふまえて大人が判断し、15歳以上ともなれば子どもの意思を重要視すべきとされています。
しかし子どもは本心とは異なり、親の意向や顔色をうかがって親の意見に同調している可能性もあります。
子どもの表面上の言動にとらわれることなく、子どもとしっかりと向き合い、子どもの真意を確かめましょう。
経済力
専業主婦が親権獲得を希望する場合、「経済力がないから親権者にはなれないのではないか」と心配される方が多いです。
確かに親権者を決めるうえで経済力は考慮すべき事情ではありますが、さほど重要視すべき事情ではありません。
なぜなら離婚しても父母ともに子どもに対する扶養義務は続きますので、経済力のある相手側に養育費の負担を求めることができるからです。
しかし通常、相手から支払われる養育費だけで生活費をカバーすることは難しいです。
さらに相手側から養育費がきちんと支払われる補償はなく、実際に多くの方が養育費の未払いで悩んでいます。
そのため経済力に不安がある場合は、離婚する前から離婚後の生活を見据え、
- 支出はどのくらいかかるのか
- 収入面でどんな公的支援を受けることができるのか
- 転職、就職する必要はないか
などあらゆることを検討して、自力で生活していける力を蓄えておくことが必要です。
面会交流の寛容性
面会交流の寛容性とは、親権者が相手の面会交流に対してどこまで寛容な態度を取れるのかということです。
面会交流に寛容な親権者は「フレンドリーペアレント」と呼ばれています。
面会交流は、子どもの成長にあたえる影響が大きいと考えられているため、親権者を決める上で面会交流の寛容性も考慮される場合があります。
実際に、親権者を決めるにあたって面会交流の寛容性を考慮した裁判例(仙台高決平成15年2月27日など)もあります。
ただ、面会交流の方法については離婚した原因等も含めて個別的に検討することになりますので、面会交流の寛容性が、親権者を決定する上で一般的に特に重視されるというわけではなさそうです。
離婚調停等において離婚後に面会交流をさせないようなスタンスが、親権獲得にマイナスに影響する場合がある、というくらいに考えておくのが適切かと思います。
父母で親権者と監護者を分けることもできる
親権者の取り決めが遅れるほど、離婚の成立も遅れてしまいます。
協議が平行線をたどり親権者を決めることができない場合は、親権から身上監護権を切りはなして解決をはかることもできます。
つまり、夫婦のいずれかを親権者か監護者かにするということです。
親権者となる親は財産管理権をもち、監護者となる親は身上監護権をもちます。
一般的には、親権者を父、監護者を母とすることが多いと思います。
親権から監護権を切り離す際の注意点
親権から監護権(身上監護権)を切り離すのは一見便利のように思えます。
しかし、注意しなければならない点がいくつかあります。
とくに監護者となることを希望する方は、子どもと一緒に暮らすことだけに関心が行きがちですので、注意が必要です。
監護者であることを公的に証明できる手段がない
離婚届には「親権者」しか記入する欄がありません。
そして、離婚届が受理された後に作成される戸籍謄本では、親権者であることしか証明できません。
つまり、監護者であることを公的に証明できる手段がないということです。
監護者を証明できないことにより困るのが、子どもの姓と戸籍の変更をするときです。
子どもが15歳未満の場合、家庭裁判所に対して子どもの姓の変更を申立てられるのは親権者のみです。
監護者として子どもと一緒に暮らしていても、親権者であることを証明できない以上は申立てができず、子どもの姓と戸籍を変更することはできません。
親権者の同意が必要となる場面がある
監護者として子どもと一緒に暮らしているとはいえ、子どもの財産管理権は親権者がもっています。
したがって、たとえば、
- 子ども名義の口座を開設する際
- 子どもが進学、就職などで自宅を出てアパートを借りる際
- 子ども名義のスマートフォンを契約する際
など、子どもの財産にかかわることについては親権者の同意が必要となります。
まとめ
親権は子どもを守るためにある親の権利と義務であるという認識をもちましょう。
そして、親権者を決めるにあたっては「どちらが親権者となることが子どものためになるのか」という観点から親権者を決めるべきです。
話し合い(協議)で親権者を決めることができない場合は、
- 家庭裁判所に対して調停や訴訟を申し立てる
- 夫婦のいずれかを親権者、監護者とする
という方法があります。
もっとも、後者のやり方は親同士のトラブルとなる可能性が高く、子どもに不利益が生じやすいため、どうしても親権者について折り合わないときの最終手段という認識でいましょう。
後者のやり方を考える前に、離婚訴訟において、訴訟の中で裁判所で適切な親権者を決めてもらうという方法も検討したいところです。