人身事故を起こしてしまった際には、支払うべき罰金がいくらになるのか、どのような処分が下るのかが不安材料になります。
適切な事故対応ができていなければ、被害者に有利な条件で示談が成立してしまう可能性もあります。
そこでこの記事では事故後の対処に悩んでいる方のために、人身事故による罰金制度や処分の詳細について紹介します。
示談交渉を安心して進めるために、ぜひ参考にしてください。
交通事故の人身事故の罰金の目安
人身事故を伴う交通事故の罰金は、被害者の怪我や当事者双方の不注意の程度に応じて判断されます。
加害者の過失が大きい場合や被害者のケガが重い場合には、罰金も高額になるのが一般的です。
以下の表に、過失の対象と被害の重症度に応じた罰金の目安を示します。
過失の対象 | 被害の重症度 | 罰金の目安 |
---|---|---|
加害者のみ | 軽傷 | 12万円〜30万円 |
重傷 | 30万円〜50万円 | |
加害者と被害者双方 | 軽傷 | 12万円〜30万円 |
重傷 | 20万円〜50万円 |
たとえば、加害者の過失で軽傷を負わせた場合は、12万円〜30万円程度が罰金の目安ですが、重傷を負わせた場合は、30万円〜50万円に金額が上がります。
一方で、被害者にも過失がある場合は、罰金がやや軽減されることもあります。
ただし、大きな減額は期待できないため注意が必要です。
罰金のほかに賠償金を請求される可能性もある
違反行為が他者に損害を与えた場合は、被害者から罰金だけでなく賠償金を請求されることもあります。
罰金が刑事罰として国家に支払うものであるのに対し、賠償金は民事上の責任として被害者に支払うものです。
罰金と賠償金は、同時に支払わなければならない場合も少なくありません。
交通事故における賠償金は、怪我の程度や治療費・休業損害などによって大きく変動します。
あらかじめ賠償金の相場を把握しておき、必要以上に支払うリスクを回避しましょう。
賠償金の内容
賠償金にはさまざまな項目が含まれており、その内訳を理解することが重要です。
以下に、交通事故の賠償金(示談金)の内訳を示します。
治療費 | 事故による怪我の治療費用 |
---|---|
入通院費 | 通院や入院にかかる交通費や雑費 |
休業損害 | 事故による休業に対する補償 |
慰謝料 | 精神的苦痛に対する補償 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残った場合の補償 |
逸失利益 | 事故によって将来得られるはずだった収入の補償 |
子どもの学習費・保育費 | 事故によって発生したり無駄になったりした保育費用や授業料 |
物件損害 | 事故によって損壊した車体や衣類などに対する補償 |
弁護士費用 | 事故対応を弁護士に依頼する場合の費用 |
賠償金の基準
賠償金の金額は、以下3つの基準で決定します。
自賠責基準 | 自賠責保険会社が最低限の補償をするために用いる基準です。この基準は比較的低い金額が設定されています。 |
---|---|
任意保険基準 | 任意保険会社が独自に定めている基準です。自賠責基準よりも高額になることが多いですが、各保険会社によって異なります。 |
弁護士基準 | 弁護士が交渉や訴訟の際に用いる基準で、一般的に最も高額な補償が設定されています。法的な判断に基づいて算定されるため、請求額が高くなることがあります。 |
賠償金の相場
賠償金(示談金)の相場は、さまざまな要因によって異なります。
以下の表は、交通事故や労働災害などで被害を受けた場合の一般的な相場です。
事故の種類 | 賠償金の相場 |
---|---|
軽微な怪我 | 10万円〜200万円 |
後遺障害が残る場合 | 100万円〜1億円 |
死亡事故 | 1,000万円〜1億円 |
物損事故 | 1万円〜30万円 |
被害者に後遺障害が残ってしまった場合や死亡事故の場合には、賠償金が高くなる傾向にあります。
とくに死亡事故では示談金が跳ね上がる傾向にあるため、支払いに不安がある場合は弁護士に対応を依頼するのがおすすめです。
賠償金の相場はあくまでも目安であり、個別のケースによって具体額が異なります。
事故を起こしてしまった場合は、早めに専門家に相談しておきましょう。
人身事故の罰金以外の処分
人身事故を起こした場合、罰金以外にも免停や免許取り消しなどの処分が科されることもあります。
罰金以外の処分を制定する目的は、交通事故の再発防止と交通安全の確保です。
以下で処分について具体的にみていきましょう。
免許停止
免停処分とは、一定期間の運転が禁止される処分です。
免停処分の期間が終了すれば運転を再開できますが、同様の違反を再犯した場合には免許の取り消しに至る可能性が高まります。
免許停止の期間は「前歴」と「累積違反点数」によって決まります。
前歴とは、過去3年間における免許停止や免許取り消しの履歴です。
累積違反点数が少なくても、前歴が多いほど長期間の免許停止が科されます。
以下は、免許停止の前歴と累積違反点数・免許停止期間の関係を示す表です。
前歴 | 累積違反点数 | 免許停止期間 |
---|---|---|
なし | 6〜8点 | 30日間 |
9〜11点 | 60日間 | |
12〜14点 | 90日間 | |
1回 | 4〜5点 | 60日間 |
6〜7点 | 90日間 | |
8〜9点 | 120日間 | |
2回 | 2点 | 90日間 |
3点 | 120日間 | |
4点 | 150日間 | |
3回 | 2点 | 120日間 |
3点 | 150日間 | |
4回以上 | 2点 | 150日間 |
3点 | 180日間 |
過去3年間の違反件数が多いほど、少ない点数でも免許停止期間は長くなります。
人身事故による違反点数は被害者のケガの程度や相手に落ち度があるかどうかにより決まります。
免許取り消し
免許取り消しは、重大な交通違反や交通事故を繰り返した場合に適用される処分です。
免許の取り消し処分を受けると、一定期間の運転免許の再取得が禁止されます。
免許取り消しとなる基準は、基本的には免停処分の場合と同様です。
過去3年間の免許停止や免許取り消しの回数、および累積違反点数によって決定されます。
具体的には、以下のとおりです。
前歴 | 累積違反点数 | 免許の再取得禁止期間 |
---|---|---|
0回 | 15〜24点 | 1年間 |
25〜34点 | 2年間 | |
35点以上 | 3年間 | |
1回 | 10〜19点 | 1年間 |
20〜29点 | 2年間 | |
30点以上 | 3年間 | |
2回 | 5〜14点 | 1年間 |
15〜24点 | 2年間 | |
25点以上 | 3年間 | |
3回以上 | 4〜9点 | 1年間 |
10〜19点 | 2年間 | |
20点以上 | 3年間 |
前歴がない場合でも、累積違反点数が35点以上になると免許の再取得は3年間できなくなります。
また、前歴の回数が増えるにつれて、累積違反点数の基準が厳しくなっていくのも特徴です。
免許の取り消し処分は、交通事故の重大さや被害者の状況に応じて判断されます。
酒酔い運転や無免許運転のように違反性の高い事故は、前歴にかかわらず一発で免許の取り消しとなるケースもあるため注意しましょう。
人身事故の処分の種類
実際に人身事故を起こしてしまった場合には、被害者のケアや加害者自身の反省を促す処分が科せられます。
人身事故に伴う処分は、おもに以下の3種類です。
- 刑事処分
- 行政処分
- 民事処分
以下で詳しく解説します。
刑事処分
交通事故における刑事処分とは、加害者が起こした人身事故が法に抵触し、何らかの犯罪を構成する場合にその責任を問うものです。
刑事処分が科される法律としては、刑法・自動車運転死傷行為処罰法・道路交通法などがあります。
また、人身事故の場合には、以下のように罰金・禁固・懲役などの刑罰が科せられます。
罰金 | 金銭による支払い。軽微な過失や初犯の場合に適用されることが多い。 |
---|---|
禁固 | 自由を奪う刑罰。特定の期間、刑務所に収容される。 |
懲役 | 労働を伴う刑罰。禁固よりも重い処罰。 |
人身事故で適用される刑事処分は、事故の内容や被害の程度により異なります。
たとえば、過失運転致死傷罪の場合は、罰金刑だけでなく禁固刑や懲役刑が科されることもあります。
また、危険運転致死傷罪に問われる人身事故を起こした場合は、より重い懲役刑が科される可能性も少なくありません。
不起訴処分になれば刑罰に処せられることはない
人身事故を起こしたとしても、不起訴処分になれば刑罰に処せられることはありません。
起訴されてしまうと9割以上が有罪判決を受けると言われているため、不起訴処分を獲得することは、今後の生活に影響を与える重要な対応です。
不起訴処分を目指すためには、弁護士の適切なアドバイスと戦略が有効です。
弁護士は、証拠の精査や証言の収集などの支援を行ってくれます。
不起訴処分を望むなら、早期に弁護士に相談しましょう。
行政処分
運転免許に関連する行政処分は、交通事故や違反行為に対する厳しい措置の一環です。
とくに交通事故が発生した場合には、その内容に応じて運転免許に違反点数が加算されます。
また前述のとおり、累積違反点数が一定の基準を超えると、運転免許の停止や取り消しといった厳しい処分が科されることも少なくありません。
民事処分
民事処分において、加害者は被害者に対して賠償金を支払う義務があります。
交通事故のケースでは、加害者が被害者の治療費(病院での診察費・手術費・入院費・リハビリ費用など)を全額負担する場合も少なくありません。
また、事故によって被害者の財産が損傷を受けた場合は、修理費(車両の修理代や部品交換費用、修理期間中の代車費用など)の負担も必要です。
さらに、交通事故による精神的苦痛に対する賠償も民事処分の一部として求められます。
精神的苦痛に対する賠償金額は、被害者の精神や生活への影響度、さらには回復にかかる期間などが算出基準です。
実質的な損害だけでなく、精神的な苦痛や不安に対する補償も含むため、民事処分における賠償金の総額は個々のケースによって大きく異なることもあります。
人身事故と物損事故の違いとは?
人身事故と物損事故の違いは、おもに被害の内容に基づいて分類されます。
人身事故は、事故によって人がケガをしたり死亡したりするケースです。
一方で物損事故は、事故によって車両や物品が損壊する場合を指します。
人身事故の場合は、前述の通り加害者が刑事責任や行政処分を受ける可能性があり、被害者に対する損害賠償も発生するのが一般的です。
一方で物損事故は、おもに物的損害の賠償に焦点が当てられ、刑事責任や行政処分が問われにくい傾向にあります。
また、人身事故では警察への報告義務が厳しく定められており、救急車の手配や詳細な現場検証が求められます。
物損事故でも警察への報告は求められていますが、人身事故ほど厳格ではありません。
賠償金が高額になるのは人身事故
物損事故と比較すると、人身事故は被害者の生活や将来に大きな影響を与えるため、賠償金が高額になる傾向にあります。
物損事故は、おもに車両や財産の修理費用が賠償の対象です。
一方で人身事故は、被害者の治療費や休業損害、さらに精神的苦痛に対する慰謝料も含まれます。
とくに被害者が後遺障害を負った場合や死亡した場合の逸失利益や慰謝料は高額となり、合計で1億円を超えることもめずらしくありません。
<人身事故で発生する賠償金>
- 治療関係費
- 休業損害
- 逸失利益
- 慰謝料
- 葬儀費用(被害者が死亡した場合)
人身事故で課される可能性のある刑事罰
前述の通り、実際に人身事故を起こしてしまった場合には、加害者の過失や違反性の程度によって刑事罰が科せられるケースも少なくありません。
人身事故で課される可能性のある刑事罰には、以下のような種類があります。
- 過失運転致死傷罪
- 危険運転致死傷罪(2条)
- 危険運転致死傷罪(3条)
- 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
- 無免許運転による加重
以下で詳しく解説します。
過失運転致死傷罪
「過失運転致死傷罪」は、前方不注視やスピード違反など、運転者の不注意によって人身事故を引き起こした場合に適用される犯罪です。
法律上では「自動車運転死傷処罰法」第5条に基づいており、運転者が注意義務を怠り、他人に死傷を負わせた場合に成立します。
法律で定められている過失運転致死傷罪の処罰は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」です。
交通事故の被害者やその家族にとって、過失運転による死傷は計り知れない苦痛を伴います。
そのため、過失運転致死傷罪の処罰には、運転者の注意義務の重要性と被害の深刻さが反映されています。
危険運転致死傷罪(2条)
危険運転致死傷罪(2条)は、酩酊状態や過度な速度超過での運転など、故意の危険な運転行為により、人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
危険運転致死傷罪(2条)は、とくに悪質な運転行為に対する厳しい処罰が目的です。
危険運転致死罪の場合には最長20年、危険運転致傷罪の場合には15年以下の懲役が科されます。
交通事故の被害者とその家族に対する社会的な責任を明確にし、飲酒運転や危険運転の抑止力となることも危険運転致死傷罪の大きな役割です。
危険運転致死傷罪(3条)
危険運転致死傷罪(3条)は、正常な運転ができない状態で人を死傷させた場合に適用される重い罪です。
具体的には、アルコールや薬物の摂取、あるいは病気による影響で正常な運転が困難な状態にもかかわらず、他人に危害を加えた場合に成立します。
自動車運転死傷処罰法の第3条に基づいており、人を負傷させた場合には12年以下、死亡させた場合には15年以下の懲役が科せられます。
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪が適用されるのは、追突事故を起こしたにもかかわらず、アルコールや薬物の摂取が発覚することを恐れて事故現場を立ち去る行為です。
アルコールや薬物の影響で正常に運転できない状態で人を死傷させ、さらに事故現場から逃れる「ひき逃げ行為」が加わることにより成立します。
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪が認定されると、自動車運転死傷処罰法4条に基づき、12年以下の懲役が科せられます。
無免許運転による加重
無免許運転は、飲酒運転に劣らず自動車運転死傷処罰法によって厳しく処罰される危険な行為です。
自動車運転に関連する罪を犯した者が無免許運転をしていた場合には、自動車運転死傷処罰法第6条にて刑罰を加重することが規定されています。
無免許運転の危険性が危惧される理由は、運転技術や交通ルールの理解不足から事故を引き起こす可能性が高いことです。
警察は無免許運転を厳格に取り締まっており、交通事故によるリスクの軽減を目指しています。
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まとめ
人身事故を起こした場合は、加害者に行政処分・民事処分、場合によっては刑事処分が科される可能性があります。
被害者の怪我や加害者の過失の程度によっては、被害者に対する金銭的な補償や精神的なケアが求められるだけでなく、懲役や禁固の重い刑罰が科せられる可能性もあります。
事故を起こした加害者自身の生活や経済的な負担にも大きな影響を及ぼすため、日頃から人身事故を起こさない対策と安全運転の心がけが大切です。
万が一、人身事故を起こしてしまった場合には、適切に対応するため法律の専門家である弁護士に相談してみましょう。