ライセンス契約とは?商標・特許など種類別の内容や契約書の記載事項を解説

企業法務

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ファミリア総合法律事務所
事務所HP

自社開発のソフトウェアや特許技術で利益を得たい場合、有効手段となるのが「ライセンス契約」です。
ライセンス契約を結ぶと、第三者に自社の知的財産の利用を認める代わりにライセンス料を得られます。
しかし、ライセンス契約は知的財産の種類によって契約内容が変わるため、契約書の作成が難しいと感じる方もいるのではないでしょうか。
この記事ではライセンス契約の種類や記載事項について詳しく解説します。
ライセンス契約に関してお悩みの方は、ぜひご活用ください。

▼この記事でわかること

  • 著作権やソフトウェア利用など、ライセンス契約の種類がわかります
  • ライセンス契約の記載内容を解説します
  • ライセンス契約を結ぶ際の注意点を把握できます

▼こんな方におすすめ

  • 自社のソフトウェアでライセンス契約を結びたいIT企業の方
  • ライセンス契約の種類が知りたい方
  • ライセンス契約書の記載事項を参考にしたい方

ライセンス契約とは


ライセンス契約とは、自社の知的財産の使用権利を第三者に認める契約です。
知的財産は、商標権、著作権、意匠権、特許、ノウハウといった自社が築いた財産を指します。
契約内容には、ライセンスの使用範囲や期間、用途、使用料金などの項目を設けるのが一般的です。
知的財産権を保有して使用を認める側の会社を「ライセンサー」、許諾を得て使用する側の会社を「ライセンシー」と言います。
ライセンシーは許可された範囲でのみ知的財産を使用できるため、違反した場合は違約金や契約解除の措置を取られる場合があります。

ライセンス契約の種類


単に「ライセンス契約」といっても、知的財産の種類によって性質も異なります。
「商標権」や「著作権」など、知的財産ごとにライセンス契約の種類を紹介します。

商標権のライセンス契約

商標権のライセンス契約は、自社のサービス・商品の「名称」や「マーク」の使用を他社に認める契約です。
商標法の保護を受けて商標権を得るには、特許庁に出願して商標を登録する必要があります。
商標権があれば、第三者は自社が保有する名称・マークを勝手に使用できません。
保護したい名称・マークがある場合、まずは商標を登録しましょう。

著作権のライセンス契約

著作権のライセンス契約では、自社が持つ著作物の利用を第三者に許諾します。
著作権の保護範囲は広く、文芸や音楽、キャラクター、プログラムなどの著作物が対象です。
商標権とは違い、著作権の効力を得るための特別な手続きは必要ありません。
なお、著作物の利用を第三者に認める方法には「著作権譲渡」もあります。
著作権譲渡は他者に著作権ごと引き渡すため、自社の著作物であっても譲渡後は無断利用できません。
著作権のライセンス契約であれば、著作権を有したまま第三者に使用を許可できます。

特許のライセンス契約

特許のライセンス契約は、特許権で保護された自社技術の利用を第三者に許諾します。
自社が発明した技術に特許権を付与するためには、特許庁への出願・登録が必要です。
特許の利用を他者に認める権利を「実施権」と言いますが、さらに以下2つに大別されます。

実施権の種類 特徴
専用実施権
  • 特定のライセンシーが特許利用を独占
  • ライセンシーによって侵害行為への差止請求が可能
  • 特許庁への登録が必要
通常実施権
  • 複数のライセンシーが特許を利用できる
  • 侵害行為の差止請求を行えるのは特許権者のみ
  • 特許庁への登録が不要

専用実施権の契約は、ライセンシーに特許権者と同等の権利を与える強力な方法と言えます。
そのため、1社にライセンスを独占させる場合、通常実施権に含まれる「独占的通常実施権」を結ぶ方法が一般的です。
独占的通常実施権は「他社に通常実施権を付与しない」と契約に含めるのみで、専用実施権のような効力は生じません。

ソフトウェア利用のライセンス契約

ソフトウェア利用のライセンス契約は、他社やエンドユーザーに対し、自社が開発したコンピュータソフトウェアの使用許諾を与える契約です。
エンドユーザー向けのライセンス契約は、インストール時に使用許諾条件の同意画面を表示させる「クリック・オン契約」を主に用います。
そのほかパッケージの外箱に使用許諾の内容などを記載し、開封時に契約が成立する「シュリンク・ラップ契約」もあります。
なお、ライセンシーからエンドユーザーへ使用許諾する場合は「再使用許諾権」が必要です。
再使用許諾権の詳細は後述します。

ライセンス契約書の主な記載事項


ライセンス契約書に記載すべき事項は多岐に渡ります。
ここでは、ライセンス契約書に設ける主な項目について解説します。

目的

まず、ライセンス契約書の目的を記載します。
従来は目的の記載は一般的ではありませんでしたが、2020年4月の民法改正により契約目的の明文化が重要になりました。
債務不履行が原因の契約解除や、契約不適合責任による損害賠償請求を行う際、主張の正当性を判断する材料として契約目的が考慮されます。

定義

契約書で使う用語を定義し、ライセンス対象を明確化します。
たとえば「製品」や「サービス」が示す具体的な製品・サービス名を記載します。
特許や商標であれば、出願番号や出願国などの情報を記して、「本件特許」「本件商標」がどの特許・商標を指すのかを明記しましょう。

使用許諾・再許諾

ライセンス契約で重要となるのが、「使用許諾」と「再許諾」の項目です。
使用許諾の項目には、主に以下の内容を記載します。

  • ライセンス対象の使用範囲
  • ライセンスの契約期間
  • ライセンス対象を使用できる地域(日本国内、県・地方)
  • 実施権の種類(特許ライセンスの場合)
  • 再許諾の可否

再許諾を認める場合は、「再使用許諾権(サブライセンス)」についての明示も必要です。

再使用許諾権(サブライセンス)

再使用許諾権(サブライセンス)とは、ライセンシーが第三者にライセンス対象を使用させることを認める権利です。
たとえば、再使用許諾権があるソフトウェアのライセンス契約であれば、ライセンシーがソフトウェアを複製し、消費者に使用許諾を与えて販売できます。
こうしたケースの場合、単にライセンスを複製するだけなのか、ライセンシーの独自改変を加えて販売も可能なのかといった規定も明確にしましょう。
さらに、ライセンシーの独占・非独占も定め、独占するのであれば独占地域・製品も定めます。
再使用許諾権の付与は、ライセンサーの利益拡大を図る有効手段です。
その反面、適切に管理できなければ権利侵害されるリスクが高まるため、慎重に検討しましょう。

対価

ライセンス料金や支払い方法、支払い時期、契約一時金の有無について細かく設定します。
一般的な支払い方法の種類は、以下の通りです。

定額方式 月額・年額で一定料金を払う
ロイヤリティ方式(定率) ライセンス対象の販売金額×数%のライセンス料金を払う
ロイヤリティ方式(定量) 販売した製品数の1単位に対していくら払うと決める

無償でライセンス契約を結ぶ場合であっても、「こういった利用方法は有償になる」と明確化しましょう。
対価が生じる範囲をあいまいにしてしまうと、後々トラブルに発展する恐れがあります。

禁止事項

ライセンシーに対する禁止事項を定めます。
なかでも、目的外使用の禁止が大切です。
契約書で定めた目的以外での使用を禁じていない場合、ライセンサーが想定していない形で対象物を使われてしまうかもしれません。
思わぬトラブルの予防策として、目的外使用を禁止する項目を設けましょう。
その他、第三者への譲渡・複製、改変、性能の公表など、禁止したい事項を必要に応じて設定します。

権利帰属

権利帰属の項目では、ライセンス対象の知的財産権を誰が保有しているかを明記します。
ライセンス契約は、あくまでライセンサーが持つ知的財産の使用を認める契約です。
権利はライセンサーが保有しているものの、「知的財産権も譲渡された」とライセンシーが勘違いする可能性があります。
ライセンシーの誤解を防ぐため、権利の所在をはっきりと記載しましょう。

報告義務

報告義務の項目では、ライセンシーが報告すべき内容について決定します。
具体的には、ライセンス対象物の販売数や売上金額、報告期間、ライセンスの利用状況が挙げられます。
また、ライセンシーが正しく報告しているかを確認するため、帳簿の作成・保管義務やライセンサーの監査権も定めると良いでしょう。

表明保証

ライセンサーがライセンス対象に関して保証する・しない範囲を、表明保証の項目に記載します。
「製品購入後12ヶ月以内の不具合には代替品を提供する」といった具体的な保証範囲を記しましょう。
保証しない範囲であれば「指定の動作環境以外でソフトウェアを実行した際の不具合は保証しない」などの例があります。

契約解除・終了

契約解除・終了の項目では、契約解除にあたる行為や契約終了時の措置を取り決めます。
「ライセンス料の未払い」「ライセンシーの倒産」のように、契約期間中であってもライセンサーから契約解除できる行為を示しましょう。
加えて、契約終了時のライセンシーが行うべき措置も明示します。
たとえば、バックアップデータの消去義務や、契約終了後も継続して効力を持つ規定を定めます。

その他規定

ソフトウェアのライセンス契約の場合、「保守」や「第三者による権利侵害」についても明記するケースが一般的です。
保守の項目には、「保守サポートを望む場合は別途契約が必要」といったサービスの保守に関する規定を記します。
第三者による権利侵害については、ライセンス対象が第三者によって権利侵害を受けた際、対応するのはライセンサーとライセンシーのどちらなのかを決めましょう。
訴訟費用の負担やトラブル発生時の通知義務を定めておくと、問題が起きた場合でもスムーズに対処できます。
そのほか特許のライセンス契約では、「ライセンス対象をライセンシーが発展させた改良物」の取扱いの規定が必要となるでしょう。

ライセンス契約を結ぶ際の注意点


最後に、ライセンス契約を結ぶ際の注意点を3つに分けて紹介します。
気をつけるべきポイントを解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

契約内容に合わせてひな形を変更する

ライセンス契約書を作る際、インターネット上に公開されている契約書の「ひな形」をそのまま使うのはやめましょう。
ひと口にライセンス契約といっても、商標権や著作権、ソフトウェア利用のようにライセンス対象はさまざまです。
契約の種類によって考慮すべきリスクが違うため、ひな形の流用はおすすめできません。

また、自社の利益拡大に効果的な契約内容も企業によって異なります。
安易にひな形を使うと「ライセンサーなのにライセンシーに有利な契約内容になってしまった」といった事態になりかねません。
ひな形は参考に留め、自社に合う契約内容へ最適化させましょう。

独占契約の範囲を見極める

ライセンス契約において、独占契約の範囲の見極めは重要です。
たとえば、複数社とライセンス契約を結ぶ場合、ライセンシー同士の販売地域が重複していると競合が起きてしまいます。
こうしたケースでは、ライセンシーがそれぞれ独占販売できる地域や製品を限定する手段が効果的です。

ただし、仮に1社のみに全製品や全地域の独占権を認めた場合、「複数社とライセンス契約をして収益を得る」「売り上げが良くないライセンシーから他社に切り替える」などの戦略が取れません。
独占契約を結ぶ際は、ライセンスの最低支払い額「ミニマムロイヤリティ」や独占範囲の設定が大切です。

ライセンス料金の過小申告を防ぐ

ライセンシーによるライセンス料金の過少申告の予防も大事です。
なかでも、支払い料金が売上金額や販売数に連動する形式の場合、過少申告が起きるリスクが上がります。
ライセンサーが正確に売上金額を把握できるよう、契約内容にライセンシーの報告・帳簿作成義務を含めましょう。
加えて、ライセンサーが事業所に立ち入って帳簿を確認できる「監査権」の設定も必要です。
違反した場合の違約金も明記し、ライセンシー側からも過少申告によるリスクを把握できるようにしましょう。

まとめ


企業が作成するライセンス契約書は、著作権、商標権、特許権、ソフトウェアの利用許諾など多くの種類があります。
ライセンス契約を検討する際は、まずは自社の知的財産がどれにあたるのか把握しましょう。
その上で、使用許諾や再許諾、ライセンス料金といった項目を設定してください。
ライセンス契約は利益拡大に繋がるため、自社に有利な内容にすることが重要です。
自社のみでの作成に不安を感じる場合は、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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