夫が、あるいは妻が不倫をしている場合、不倫の相手方に慰謝料を請求できる場合があります。しかし、それには証拠が必要です。この記事では、不倫の慰謝料を請求するために有力な証拠は何か、そもそも何をしたら「不倫」として慰謝料請求の対象になるのか、について解説します。
▼この記事でわかること
- 何をしたら「不倫」として慰謝料請求の対象になるか、わかります。
- どんなものが不倫の証拠となり得るかがわかります。
- 夫・妻の不倫について、どのタイミングで弁護士に相談すればよいのかがわかります。
▼こんな方におすすめ
- 何をもって「不倫」の証拠になるか知りたい人
- 不倫らしき行為があることを知り、慰謝料請求を考えている人
- 不倫の慰謝料請求をするにあたり、どんな証拠を集めたらよいか知りたい人
何をどうしたら「不倫」になるのか
法律上「不倫」と認められるもの、つまり、不倫の慰謝料請求の対象となる「不倫」は、通常、肉体関係がある場合のみです。
もう少し詳しく言うと
- 性交渉をもつ
- 性交渉類似行為をする(手でする、口でする等)
場合に限られます。
では、それ以外の場合には慰謝料が認められないのでしょうか。
※ちなみに不倫は法律用語で「不貞行為」と呼ばれます。
二人で出かける
ただ単に二人で出掛ける、デートする、食事するだけでは不倫にはなりません。
手をつなぐ、ハグする
これも「二人で出かける」に準ずる扱いです。
まれに不倫の範疇に入れられる場合もないわけではありませんが、極めてめずらしいケースです。ほとんどの場合、「不倫」とは認定されないと思ったほうが良いでしょう。
キス
「キスしている写真が出てきた。不倫だ!」と思われがちなキスですが、法律的にはこれだけでは不倫と認定されません。
SNS、電話での卑猥なやりとり
一般的に、LINEやカカオトーク等のSNSでの会話だけをもって「不倫」とは認められません。内容が一般的な性的内容を含むもの、卑猥なものであっても同じです。
ただし、やり取りをしている個人の間に肉体関係があったと想定されるものは別です。必ず、とは言えませんが、たとえば「昨日のエッチ、良かったよ」のような会話の場合、法律的な意味での「不倫」があった、と推定される可能性が極めて高いです。
繰り返しになりますが、法律的に不貞行為(不倫)と認められるもの、すなわち慰謝料の請求権が発生する不倫は「肉体関係があったかどうか」でほぼ判断されるということです。
法的に「不倫の証拠」と認められるものとは?
さて、本題です。
法律上、「不倫の証拠」と認められるものにはどんなものがあるのでしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。
「不貞行為」が記録されているものが証拠
繰り返しになりますが、法律上「不倫」として認められるには「当事者間で性行為があった」ことが前提です。
(補足)不貞行為の証拠について
「不貞行為=肉体関係を持つこと、あるいはそれと同視することができる行為を行ったこと」ですが、とりわけ「肉体関係をもつこと」については、端的に言えば「挿入があったかどうか」が焦点となります。
とはいえ、さすがにそれを鮮明に記録した画像がある場合は少ないため、「挿入があったことがほぼ確からしい」と推測できるものが、証拠(の一部)となり得ます。
これは証拠になる?ならない?
ここでは、不倫の証拠となり得るものについて、表形式でまとめました。
以下の表でも示される通り、不倫の証拠は「これ一つでOK」というものはあまりありません。しかし逆に、小さな証拠を積み重ねることで、不倫があったことを立証できる場合もあります。
慰謝料を請求する側に立った場合、「これは証拠にならないから、捨てちゃおう」と自分で判断せず、どんなに小さな情報でも、手に入った資料をすべて保管しておくことが極めて重要です。
(表)不倫の証拠になり得るものと、その価値について
証拠になり得るもの | 証拠としての強さ | コメント |
肩を寄せ合っている写真 | ★ | 他の証拠と合わせて肉体関係があったことを立証する必要がある |
LINEのやりとり | ★★ | ただ「好きだよ」だけでは弱い。「昨日の、良かったよ」等は裏付け証拠となり得る |
スケジュール帳 | ★★ | 他の証拠と合わせて肉体関係があったことを立証する必要がある |
日記 | ★★ | 「離婚して○○(不倫相手)と一緒になりたい」等と書かれている場合、証拠としての価値が上がる場合もある |
電車の切符 | ★★ | 移動記録だけでは難しい。日記等、他の資料と合わせて立証する必要がある |
クレジットカードの利用明細 | ★★★ | ラブホテルの利用記録等があれば証拠としての価値が上がる |
領収書、レシート | ★★★ | ラブホテルが発行したものであれば証拠としての価値が上がる |
ラブホテルに入る写真 | ★★★★ | 証拠としての価値は極めて高いが、「性行為はしていない」と主張されると決定打にはなりにくいことも |
裸の写真 | ★★★★★ | 二人で裸、であれば証拠としての価値は高い。しかし「性行為はしていない」と主張されると決定打にはなりにくいことも |
性行為中と思われる写真や動画 | ★★★★★ | 不倫の強い証拠となり得る |
配偶者あるいは不倫相手が不倫を認めた音声 | ★★★★★ | 不倫の強い証拠となり得る |
一方で、ご自身では証拠とは思わなかったものでも、積み重ねることで証拠として成り立つ場合もあります。何かのきっかけでご自分のパートナーが不倫していると確信した場合、一度弁護士にご相談されると良いかもしれません。すぐに慰謝料請求!とはならないかもしれませんが、将来的に慰謝料を請求することを念頭に置いて、証拠の集め方についても相談に乗ってもらえると思います。
「証拠がそろった=慰謝料を請求できる」は正しい?
いわゆる「不倫の強い証拠」があれば、それをもって慰謝料交渉ができると思いがちですが、事はそんなに簡単ではありません。では、どんなことに気をつければよいのでしょうか。
自分で直接交渉するのは好ましくない
「証拠もあるし、何より、許せない!今すぐ、自分で交渉しよう」
そんな気持ちになることもあるでしょう。しかし、あまりおすすめできません。
そもそも、不倫があったことを立証するには、様々な証拠を集めた上で、相手に反論されても覆せるだけのロジックを組み立てなければなりません。それには豊富な経験と専門的な知識が必要な場合もあります。その意味で、弁護士に任せる方が安心です。
また、比較的多いのが
「自力で夫/妻の不倫相手に突撃交渉をしたが、うまく行かなかったので、やっぱり弁護士を頼みたい」
というケースです。
もちろんこの時点で弁護士に依頼することもできますが、その場合、感情のもつれが悪化したり、不倫の当事者たちが結託して証拠隠滅を図ってしまったりと、時間が経った分、事態が不利になることも考えられます。
有利に交渉を進めるには、やはり初めから弁護士を頼むのが良さそうです。
言い訳、通る?覆せる?
証拠はそろえた。しかし、不倫の当事者が言い訳をして慰謝料を払おうとしない。そうした場合、どうすればよいのでしょうか。それぞれのケースについて、以下で詳しく見ていきましょう。
「これは自分じゃない!」
不倫をしている本人たち、と思われる写真が手元にあるものの、「これは私/オレじゃない!」と主張するケースです。
(どうすればいい?)
それらしき写真ではあるものの、不鮮明だったり、肝心の顔が映っていない、というケースもあれば、どう見ても本人なのに「自分じゃない」と言い張るケースもあります。
いずれの場合も、「自分ではない」と言われてしまうと、その写真だけをもって、不倫をしていたことを証明するのは難しい場合が多いです。一枚の写真だけにとらわれず、他の資料も集めてみましょう。
特に「何月何日何時何分、どこで何をしてた?」が分かると、その写真の信憑性も増す場合があります。スケジュール帳、クレジットカードの利用明細など、サポート材料となりそうなものを探してみましょう。
「会社の上司/部下と打ち合わせしてただけ」
あくまで仕事の関係で会っていただけ・食事をしていただけで、不倫にあてはまる行為はないと主張するケースです。
(どうすればいい?)
不倫であると立証するには、証拠がなければなりません。まずはご自身のパートナーとその相手に関する資料を集めてみましょう。
LINEのやり取りのスクリーンショット、領収書、日記など、小さなもの・一見して証拠とは思えないものでも捨てずに、できるだけ多く集めることをおすすめします。
夫が会社の同僚と浮気をしていました。気が収まらないので相手に慰謝料を請求したいのですが、相手の女性経由で浮気がバレるなどして、会社での夫の立場が悪くなることが心配です。
完全に防ぐのは難しいのが正直なところですが、念書を取るなどの方法で、不倫について言いふらされるリスクは小さくすることができます。
また、こうした懸念がある場合は弁護士を入れることもおすすめします。弁護士が介入した場合、通常、相手方と口外禁止条項を交わします。この条項が入ることで、一定の抑止力が働くことが期待できます。
「もう終わった関係だ」
不倫したと認めてはいるものの、過去の話だから慰謝料を請求されるいわれはない、と主張するケースです。
(どうすればいい?)
時効にかからなければ、慰謝料を請求する権利はあります。慰謝料請求を考えている場合、時効を迎える前になるべく早めに取り掛かることをおすすめします。
やや法律的な話になりますが、「不貞行為」すなわち不倫は不法行為に当たるため、「不法行為に基づく損害賠償請求権」に基づいて慰謝料を請求できる権利が生じます。この「不法行為に基づく損害賠償請求権」の時効が3年と決まっているため、不倫の慰謝料請求権も3年で時効となります。注意したいのが、「不倫の事実および不倫相手を知ったときから」3年、という点です。
つまり、10年前の不倫であっても、昨日それを知った、という場合は、昨日から数えて3年間は慰謝料を請求できる権利があることになります。
結婚していると知らなかった
夫/妻の不倫相手を問い詰めたが、相手方が自分の夫/妻について「結婚していると知らなかった」というケースです。
(どうすればいい?)
結婚していると推定できる状況になかったか、考えてみましょう。
少し専門的な話になりますが、慰謝料請求の根拠となる「不法行為に基づく損害賠償請求権」は、その不法行為を起こした相手、つまり不倫の相手方が、故意(わざと)あるいは過失(うっかり)によって不法行為を行った事実が必要となります。
この場合、不倫の相手方が、夫/妻について結婚していることを知らなかったことが過失(うっかり)に当たるか、が焦点となります。
たとえば、夫/妻が指輪している、土日は会えない、セックスが終わるとすぐ帰る、という事実があったとすれば、結婚していることが想定できると考えられます。こうした事実がある場合、不倫の相手方に過失があったと認められる可能性が高くなります。
もちろん本当に相手方が結婚の事実を知らなかった場合もありますが、実際の現場ではたいてい、不倫の相手方に過失認定がされています。
向こう(既婚者側)がしつこく誘ってきた
自分は嫌だったけど、既婚者である側がしつこく誘ってきたから、仕方なく不倫に及んだ。だから、自分は悪くない、と主張するケースです。
(どうすればいい?)
不倫の事実が認められる限り、不倫をされた側は夫/妻の不倫相手に対して慰謝料を請求できます。
たとえ自分の夫/妻が主導して不倫したとしても、不倫をされた側は法律上、慰謝料を全額請求できることになっています。
(補足)慰謝料の減額について
不倫の慰謝料を請求された側が、慰謝料を「減額できる」という話を聞いたことがあるかもしれません。一体どんなときに減額されるのでしょうか。
慰謝料が減額される根拠は大きく分けて2つあります。
- 請求額が、法律的に見て妥当とされる額を大きく超えている
- 「求償権」を放棄した
「求償権」については少し説明が必要でしょう。
求償権とは、共同不法行為の加害者の一人が自分に責を負う範囲を超えて損害賠償を支払った場合、その分に対して他の加害者に支払いを請求できる権利」のことです。
わかりやすく言うと、以下のようになります。
例えば、妻のいる男性が不倫をした場合を考えます。この場合、
- 被害者 = 妻
- 加害者 = 夫 および その不倫相手
となります。法律的に言えば、この不倫は夫とその不倫相手の共同不法行為となります。
共同不法行為の場合、損害賠償を加害者のどちらに請求するかは、奥さんの自由に任されています。つまり、奥さんはどちらかに100%請求してもよいことになります。
一方で、結婚している夫婦の多くは、お財布が一緒になっています。そのため、離婚しないのであれば奥さんとしては100%の慰謝料を不倫の相手方に請求した方が得になります。
とはいえ、不倫相手にしてみれば、仮に100%の慰謝料の支払いを行った場合、今度はその半分を相手方(この場合、夫)に請求する権利が生じます。そこでまた交渉なり、裁判になって・・・などと長引くと、お互いにとって時間もコストもかかってしまいます。
それなら、ということで、はじめから不倫相手が求償権の半分を放棄するから、その分奥さんに払う慰謝料を減額してね、というのが「求償権の放棄」の意味するところになります。
具体的には、「この事案では不倫の慰謝料は100万円が相場だね」という場合、不倫相手が求償権を放棄する代わりに、相場の半分の50万円だけ支払って決着、ということになります。
まとめ
今回は、不倫の証拠について取り上げました。
意外に自力での立証が難しい「不倫の事実」。夫あるいは妻の不倫に悩む方、不倫の慰謝料請求を考えている方、ひとりで抱え込まずに、まずは弁護士に相談してみるのも良いかもしれませんね。