交通事故の被害に遭い、「最近物忘れが多くなった」と感じた場合は、高次脳機能障害である可能性があります。高次脳機能障害になると、生活の中の様々なシーンに支障を来すため、本人の負担も大きくなります。
そのため、後遺障害として認定してもらい、加害者側に損害賠償請求を行うことが重要です。
高次脳機能障害に関する後遺障害の認定には、適切な治療と証拠資料の収集が必要不可欠であり、請求する際にはポイントを押さえておく必要があります。
そこで今回は、高次脳機能障害の特徴的な症状や等級認定、慰謝料の請求方法について詳しく解説していきます。
▼この記事でわかること
- 高次脳機能障害の具体的な症状
- 高次脳機能障害の等級や慰謝料請求方法
- 高次脳機能障害で後遺障害認定を得るときのポイント
▼こんな方におすすめ
- 交通事故の被害者で物忘れがひどくなり、労働など日常生活に支障が出ている人
- 高次脳機能障害の症状について知りたい方
- 高次脳機能障害の等級認定について知りたい方
交通事故で物忘れが激しくなった場合高次脳機能障害を疑おう
交通事故に遭い、その後物忘れが激しくなった場合は、高次脳機能障害を疑う必要があります。物忘れのほかにも、注意力や性格の変化などの症状が見られた場合も、一度医師に診断してもらいましょう。
物忘れが激しくなる
高次脳機能障害の代表的な症状に、記憶力の低下があります。記憶力には物事を覚えておく「記銘力」と、覚えた内容を思い出す「想起力」がありますが、高次脳機能障害では、「記銘力」が低下することが多いようです。
自分のものをどこに置いたのか忘れてしまったり、人に何度も同じ質問をしてしまう場合は、高次脳機能障害であることを疑っても良いかもしれません。
注意力が落ちる
集中力が低下する症状も高次脳機能障害に見られる特徴です。
ひとつのことに集中し続けること、注意を向ける対象を切り替えられなくなることなどが具体例として挙げられます。
以前より周囲の環境に気を取られるようになった、落ち着きがなくなった、ひとつのことに没頭しすぎて同時並行で作業ができなくなったなどの症状がある場合は、高次脳機能障害を疑ってみても良いかもしれません。
その他の症状
高次脳機能障害ではそのほかにも、感情のコントロールができなくなったり、状況に応じて適切な行動がとれなくなるなどの症状も見られます。
また、日常的に行っている何でもない行動ができなくなる失行症、視覚では認識していても色や形、物の使い方がわからなくなってしまう失認症などの症状も高次脳機能障害に見られる特徴です。
交通事故で高次脳機能障害になった場合の等級認定と慰謝料の額
交通事故に遭って医師に高次脳機能障害と診断されると、後遺障害認定を受けて等級に応じた慰謝料の請求を行うことができます。ここでは、高次脳機能障害の後遺障害等級、慰謝料、後遺障害等級の3つの基準など必要な知識について解説していきます。
交通事故で高次脳機能障害になった場合の等級
「後遺障害」の定義は、交通事故を原因とする症状が医学的に立証されており、かつ自賠責保険における等級に該当する障害のことです。
等級は1級から14級まで設けられています。中でも、高次脳機能障害は症状の深刻さにより1級から9級程度に該当する可能性が高く、等級にかなりの幅があります。
等級の認定は後遺障害診断書や様々な検査データなどを参考に審査されて決定されます。
ちなみに、1級は神経機能や精神に著しい障害を残し常に介護を要する状態、9級は神経機能や胸腹部臓器の機能に生涯を残し労務が相当程度制限される状態です。
「等級」と「基準」によって慰謝料が変わる
高次脳機能障害は、別表1で1級1号のような最も重い症状から、14級9号といった比較的軽い症状まで、症状に応じた後遺障害等級にそれぞれ該当し、どの等級を認定されるかによって慰謝料の額も変わってきます。
また、同じ等級でも慰謝料を算出する際の「基準」によっても違います。
ここでは、症状の内容と等級ごとの慰謝料をご紹介します。さらに、「基準」の違いによる慰謝料の差を実感してもらうために、自賠責基準と裁判所基準のそれぞれの場合における慰謝料の額を示します。(自賠責基準であれば自賠責保険の支払額、裁判所基準であれば裁判で獲得する場合の目安額です。)
号級 | 内容 | 後遺症慰謝料 |
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 自賠責基準1650万円 裁判所基準2800万円 |
2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 自賠責基準1203万円 裁判所基準2370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 自賠責基準861万円 裁判所基準1990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 自賠責基準618万円 裁判所基準1400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 自賠責基準419万円 裁判所基準1000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 自賠責基準249万円 裁判所基準690万円 |
このように、症状の重さ・基準の違いによって、もらえる金額が大きく異なります。
交通事故で高次脳機能障害になった場合のチェックポイント
交通事故で高次脳機能障害になった場合、専門医や必要な検査を行うことが必要不可欠です。以下では、高次脳機能障害になった場合のチェックポイントをそれぞれ解説していきます。
物忘れの症状などは専門医に相談する
高次脳機能障害かなと思ったら、専門医を探すことから始めましょう。脳の病気は脳外科医が在籍している病院を選択するのがベストです。
例えば、一般社団法人日本脳神経外科学会のホームページでは、全国の病院に在籍している脳外科医の情報を調べることが可能です。自覚症状や違和感を周囲にも伝えておき、医師の診断を受けましょう。
また、脳の専門家であっても高次脳機能障害について詳しくない医師もいます。医師との綿密なコミュニケーションをし、診断結果に疑問がある場合は他の医師からの診断も受けるなど慎重な判断を行いましょう。
高次脳機能障害の認定に必要な検査を行う
高次脳機能障害の事実を示すには、検査データなどにより立証することが必要です。高次脳機能障害の場合は、事故直後であれば気づかれず見過ごされてしまうことがあります。自覚症状がある場合は、速やかに検査を受けましょう。あまり遅くなると、交通事故と症状の因果関係が立証できなくなる恐れがあります。
高次脳機能障害の主な検査方法は、神経心理学的検査、画像検査があります。
神経心理学的検査は、簡単に行えるスクリーニング検査とより詳細な検査であるディープ検査があります。
画像検査では、CTやMRIを用いることで、脳の損傷を確認することができます。レントゲン写真やCT画像では脳の損傷を確認できない場合もあるため、特にMRI検査を受けることが大切です。
また、検査結果や医師の診断に納得できなければ、セカンドオピニオンを受けてみることも頭に入れておきましょう。
高次脳機能障害の診断書を作成してもらう
医師の診察の結果、高次脳機能障害と診断され、それが交通事故によるものだと考えられる場合は、後遺障害等級認定を申請しましょう。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定を受けるには、後遺障害診断書を医師に作成してもらう必要があります。
まずは治療やリハビリを行いますが、それでも改善せず、症状固定となったら主治医に後遺障害診断書を作成してもらいましょう。
後遺障害診断書のポイントとしては、後遺障害に該当する症状が見られる点、症状の原因が交通事故によるものである点を明記してもらうことです。これらの事実を立証するためには、適切な検査を実施し、検査データの結果を診断書に反映してもらうことが重要です。
適切な後遺障害等級を得るためのポイント
高次脳機能障害に関する交渉を成功させるには、専門知識を持った弁護士のサポートが不可欠です。ここでは、弁護士に頼むメリットを解説していきます。
交渉や異議申し立ては弁護士が仲介してくれる
高次脳機能障害で適切な後遺障害等級認定を受ける難易度は、はっきり言って高いです。そのため、専門的な知見を持った弁護士にアドバイスをもらうことを強くおすすめします。
高次脳機能障害のような後遺障害の等級認定では、医学的にも手続き的にも専門的な用語が飛び交います。そのため、申請のための資料を自力で用意するのはかなりしんどい作業です。
そこでおすすめなのは、弁護士に依頼することです。弁護士に依頼すると、書類の作成や手続きのサポートを受けることができます。
また、より充実した補償を受けるためには、加害者側の保険会社との示談交渉も大変重要です。弁護士に依頼した場合、保険会社との示談金交渉も行ってもらえます。
さらに万が一、後遺障害等級認定の結果に不満であれば、異議申し立てを行うことができます。異議申し立てについても弁護士に依頼するとスムーズに対応してもらえます。
弁護士費用特約があれば費用の負担を気にせず依頼可能
弁護士に依頼する際、弁護士費用が心配で躊躇してしまう方がいます。
しかし、ご自身が加入している任意保険に「弁護士費用特約」というオプションが付いている場合は、保険会社が弁護士への依頼費用を負担してくれるため、出費を気にせずに依頼することが可能です。
弁護士に依頼すれば交渉や慰謝料の請求を有利に進められる可能性が高まります。事故直後は、保険会社に弁護士費用特約が利用できるか確認してみましょう。
弁護士を探す上で、その助けになるものの一つに「ココナラ法律相談」のような弁護士ポータルサイトが挙げられます。
ココナラ法律相談では、「分野」、「エリア」、「各種条件」を指定した上で、あなたに合いそうな弁護士の選択肢を与えてくれます。弁護士を探す際のご参考として、ぜひご活用下さい。
まとめ
高次脳機能障害は物忘れなどの症状が見られることが多い一方、自分で症状を自覚することが難しい障害です。とはいえ、交通事故との因果関係を証明するには早めの行動が肝心です。「おかしいな」と思ったら、早めに専門医に診断や検査をしてもらいましょう。
高次脳機能障害の後遺障害認定を受けるまでには、用語の難しさや手続きの煩雑さがあり、自力で行うと時間も労力もかかります。
交通事故の被害者の方の負担を減らすためにも、弁護士費用特約などを上手に活用し、専門知識を持った弁護士のサポートを受けることを考えましょう。