法人破産するとどうなる?必要な条件や手続きの流れについて解説

企業法務

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業績悪化で多額の負債を抱え、会社の存続が難しくなっているような場合には、「法人破産」をするという選択肢があります。
法人破産すれば法人格は消滅し、従業員も解雇せざるを得ないなど、さまざまなデメリットがあります。
ただ経営者として再スタートを切れるため、一定の意義もあります。
そこで本コラムでは、法人破産に必要な条件、手続きの流れなどについて詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 法人破産の仕組みについて知ることができます
  • 法人破産するとどうなるのかわかります
  • 法人破産の手続き、費用などについて知ることができます

こんな方におすすめ

  • 会社経営が行き詰まり、悩んでいる経営者の方
  • 破産が視野に入っているが、手続きに不安を抱えている方
  • 経営難に陥っている取引先への対応に悩んでいる方

法人破産とは


会社が経営破綻に陥っている状況では、会社の倒産を検討する必要があります。
倒産にはいくつかの形態があり、そのうちのひとつが「破産」です。
そもそも破産とは、支払い不能や債務超過に陥った個人・法人(会社)が、手元に残った資産・財産によって可能な限り負債を支払い、精算する手続きのことです。
法人破産では、会社の資産を全て現金化(換価)し、債権者の優先順位と債権額に応じて配当を行います。
会社としては「消滅」することになりますが、債務も消滅し、返済する必要がなくなるという仕組みです。

破産法1条にある目的条文を読むと、破産の趣旨がよく分かります。

この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする

信用調査会社・東京商工リサーチによると、倒産形態のうち、破産が占める割合は全体のおよそ8割となっています。

法人破産と個人破産の違い

法人破産と個人破産の最大の違いは、法人・会社の場合は、その法人・会社の消滅が前提で、特別な手続きを経なくても基本的に債務を消滅させることができるという点です。
これに対して、個人の場合は、破産しても一定の財産を手元に残すことができます。
一方で、法人のケースとは異なり、債務の支払義務を消滅させるためには、「免責許可決定」という手続きを経なければなりません。

さらに法人破産の場合、債権者をはじめとする関係者の数、種類が多い点も個人破産との違いとして挙げられます。
法人破産の手続きは、個人破産と比較し、かなり複雑になる点に注意が必要です。

法人破産を選択するべき状況

法人破産を選択するべき状況は、債務超過や支払不能で行き詰まり、会社の再建は断念し、ゼロからスタートしようとするケースです。

法人破産のためには、裁判所に破産手続開始を申し立て、破産手続開始の決定を受けることが必要です。
裁判所から破産手続開始決定を受けるためには、申立が「形式的要件」と「実体的要件」を満たしていなければなりません。

形式的用件は、申立の方式に不備がないことや、裁判所の管轄が間違っていないことなど、具体的な手続きに関する要件となります。
実体的要件とは以下の2つです。

  • 債務者に「破産手続開始原因」があること
  • 債務者に「破産障害事由」がないこと

破産手続開始原因がある

破産手続開始原因とは、破産手続を必要とするようになった原因となる事実のことです。
具体的には、会社が「支払不能」、または「債務超過」の状態であることが破産手続開始の実体的要件となります。

支払不能の定義は、破産法2条11で示されています。

この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう

債務超過とは、文字通り「資産よりも債務の方が多い状況」を意味します。

破産障害事由がない

二つめの「破産障害事由がないこと」という要件の内容は、次の通りとなります。

  • 破産手続きに必要な費用を収めていること
  • 不当目的、不誠実な破産手続開始の申立ではないこと
  • 会社更生法や民事再生法の手続きがなされていないこと

これらの要件が満たされていなければ、破産手続開始の決定を受けることはできません。

法人破産をする意義と注意点


次に、法人破産の手続きが開始された場合、実際にどうなるのか見ていきましょう。
法人破産をする意義と注意点について解説します。

法人破産の意義

破産手続が開始された会社の経営者にとって、法人破産は次のような意義があります。

  • 経営難の心痛、苦しい資金繰りから解放
  • 督促、取り立てがなくなる
  • ゼロからの再起が可能

多額の債務を抱えて経営が立ち行かなくなれば、督促・取り立てに悩み、資金繰りに奔走する日々が続くことになるでしょう。
しかし法人破産によって、債務が消滅すれば、そうした日々の心労から解放されます。
会社は消滅しますが、ゼロから再起することは可能になります。

一方で債権者にとっても、会社が破綻状態のまま放置されるのに比べれば、破産には一定の意義があります。
債権者同士のトラブルなどを避け、破産法に基づき、公平で透明性のある手続きが期待できます。
また、会社の破産によって、回収できない債務を損失処理できることも、債権者にとってメリットであるといえます。

法人破産の注意点

債務をすべて消滅させる破産手続きには、当然、デメリットも多くあります。
破産手続が開始されると、次のような事態が発生します。

  • 会社が消滅する・事業廃止となる
  • 代表者が個人保証している場合は代表者の資産もなくなる
  • 従業員を解雇しなければならない
  • 信用が失墜する

破産によって会社の事業を継続することができなくなり、従業員は解雇せざるを得ません。

さらに、経営難に陥った中小企業などの場合、経営者自らが個人の立場で借入を行っていて、経営者自身も破産手続きを取らなければならないケースは少なくありません。
経営者が個人破産すると、信用機関に事故情報が登録され、新たな借入、クレジットカードの利用などもできなくなります。
官報にも住所・氏名が載り、経営者の信用失墜は免れないというのが現実です。

法人破産以外の選択肢である「会社更生」


会社の倒産に対する対策としては、会社・法人の「消滅」を前提としていない「再建型」の形態もあります。
それが会社更生法民事再生法に基づく手続きです。

会社更生法に基づく手続きでは、債務超過や支払い不能に陥った会社が、事業を継続しながら会社の再建を図ります。
原則、旧経営陣は会社の経営に関わることができなくなり、裁判所から指名された管財人が再建を目指すことになります。

会社更生法に基づく手続きの申請対象は、株式会社に限定されています。
会社が消滅してしまうと社会的な影響が大きいため、大企業に適用されるケースが多いのが実情です。

民事再生法に基づく手続きも、再建を前提とした手続きです。
会社更生法と違って、対象は、株式会社や特殊法人、個人など幅広く、主に中小企業向けの手続きとされます。
破産法や会社更生法と異なり、債務超過や支払不能に陥っていなくても、債務超過や支払不能に陥る可能性があれば、申請できるという特徴があります。

法人破産の手続きの流れ


ここからは、法人破産の手続きの具体的な流れなどについて解説します。

弁護士へ相談・債権者への通知

破産法に基づき、会社を清算するためには、多くの関係者との間でさまざまな手続きが必要となります。
まずは、経験が豊富な弁護士に相談をしましょう。

ココナラ法律相談ならば、企業法務の経験が豊富な弁護士を地域別などで検索することが可能です。

弁護士にはまず、破産開始手続開始の要件が揃っているかなど、確認してもらいます。
その上で、債権者に破産予定であることを通知します。

申立書や必要書類の準備

申立書や必要書類の準備を行います。
破産手続開始の申立に必要な書類には「記入が必要な書類」と「集めるだけの書類」の2種類があります。

【記入が必要な書類】

  • 破産手続開始申立書
  • 債権者一覧表
  • 債務者一覧表
  • 委任状
  • 資産目録
  • 代表者の陳述書(報告書)
  • 破産申立についての取締役会議事録、または取締役の同意書

【集めるだけの書類】

  • 法人登記の全部事項証明書(発効後3カ月以内)
  • 貸借対照表・損益計算書(直近2期分)
  • 清算貸借対照表(申立日現在)
  • 税金の申告書控えのコピー(直近2期分)
  • 不動産登記の全部事項証明書(3ヶ月以内のもの)
  • 賃貸借契約書
  • 預貯金通帳(過去2年分全て)
  • 車検証または登録事項証明書
  • ゴルフ会員権証書・ゴルフ会員権の価値がわかる資料
  • 有株式、投資信託などの明細書と価値がわかる資料
  • 生命保険証券・解約返戻金計算書
  • 訴訟や仮処分、強制執行などの書類

裁判所に破産を申し立てる

書類が揃ったら、管轄の裁判所に破産手続開始の申立をします。
裁判所では、債務者に対し、債権者の数、財産、負債、破産申立てを行うに至った経緯、事業内容などについて、審尋(面談)が行われます。

破産開始決定・破産管財人の選任

破産法上の要件を満たしていることが確認されれば、裁判所は破産開始手続きを決定し、正式に破産手続きが開始されます。

決定と同時に裁判所は、「破産管財人」を選任します。
破産管財人は、破産者に代わって、破産会社の財産を管理し、処分する役割を担う人です。
破産法2条12では、破産管財人とは破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者として定められています。

通常、破産管財人には破産者、債権者と利害関係のない弁護士が選任されます。

債権者集会で説明

選任された破産管財人の下、破産者、債権者が集まり、「債権者集会」が開かれます。
債権者集会とは、債権者に対し、破産手続の進行や財産の状況などに関する情報提供を行い、破産管財人が行う業務に関する重要事項について意思決定をするために行われるものです。
債権者集会は一般的に、破産手続開始決定から3か月後をめどに開催されます。

債権者への配当

破産管財人は、会社の財産について調査を行い、処分できるものがあれば、売却して現金化します。
こうして管財人によって集められた現金を、債権額に応じて按分し、債権者に配当します。

配当が終われば、破産手続は終結します。
配当する財産がなく、破産手続の費用すら払えないような場合も、破産手続は終了となります。

法人破産に必要な費用


破産手続で必要となる主な費用は次の通りです。

  • 弁護士費用
  • 予納金
  • その他実費

弁護士費用

破産手続を弁護士に依頼するためには、弁護士費用が必要です。
弁護士費用は、債権額や債権者の数などによって変わりますが、一般的には最低ラインで、50万円程度とされます。

予納金

予納金とは、破産手続を進行させるために必要な費用です。
前項で説明した通り、この「予納金」を裁判所に納めることが、破産手続開始決定の要件になります。

予納金の額は負債総額によって違います。
東京地裁の予納金基準額(2019年時点)は次の通りです。

負債総額 予納金基準額
5000万円以下 70万円
5000万円~1億円以下 100万円
1億円~5億円未満 200万円
5億円~10億円未満 300万円
10億円~50億円未満 400万円
50億円~100億円未満 500万円
100億円~ 700万円~

一定の条件を満たせば、「法人少額管財」という手続きを利用することができます。
法人少額管財では、通常よりも手続きが簡略化され、最低20万円の予納金で迅速に破産を処理することが可能となります。

その他実費

申立手数料、郵券、官報公告費などで、数万円程度です。

まとめ


法人破産に不安を抱えている経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、手続きにのっとって処理を進めれば、確実に負債を消滅させることができます。
法人破産には当然、デメリットもありますが、迅速、公正に会社の整理を進めることは、従業員や債権者にとっても重要です。
経営に行き詰ったら、企業法務などの経験が豊富な弁護士に、早めに相談することをおすすめします。

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