離婚時の年金分割の手続き│老後の生活に備えて準備すべきこと

離婚・男女問題

この記事の監修

東京都 / 豊島区
弁護士法人若井綜合法律事務所
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「離婚したいけど老後の生活が不安」とお悩みの方は、年金分割をおすすめします。
年金分割では、配偶者の厚生年金記録を分けることで、自分の年金受給額を増額できる可能性があります。
とくに熟年離婚を検討されている方は、老後の生活を支えるために必ず検討しておきたい制度です。
そこでこの記事では、年金分割の種類や手続きについて解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

▼この記事でわかること

  • 年金分割の手続きや必要書類がわかります
  • 年金分割の「合意分割」と「3号分割」の違いを説明します
  • 年金分割すべきか判断しやすくなります

▼こんな方におすすめ

  • 離婚時の年金分割の手順が知りたい方
  • 離婚したいけど老後生活が不安で踏み切れない方
  • 共働きで年金分割すべきかお悩みの方

年金分割とは


年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金の納付記録を夫婦で分割する制度です。
婚姻期間中に支払った厚生年金保険料が多い方から少ない方へと分割されますので、夫婦間で収入の低かった方は将来的に年金受給額を増額できます。
なお、厚生年金の加入者は「第2号被保険者」と言い、会社員や公務員、教職員が当てはまります。
年金分割の対象は厚生年金のみであり、国民年金は分割できません。
請求期限は離婚成立から2年以内ですので、離婚時に年金分割手続きをしない場合は忘れないように気をつけましょう。
年金分割の方法は、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。

合意分割

合意分割とは、夫婦で話し合って分割の割合(按分割合)を決める方法です。
割合の上限は、最大2分の1になります。
分割を受ける側の就労状況は関係なく、婚姻期間中に働いていても専業主婦(夫)であっても請求可能です。
話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所の調停または審判で決定する形になります。

3号分割

3号分割は、婚姻期間中に「第3号被保険者」の期間があった人のみ選べる方法です。
第3号被保険者とは、厚生年金加入者の配偶者である専業主婦(夫)や扶養内パートの人を指します。
第3号被保険者から請求することで、第3号被保険者期間中に相手が納めた厚生年金の記録を2分の1ずつ分割できます。
相手の合意は不要なため、年金事務所への手続きのみで済む簡単な方法です。
ただし、3号分割の対象になる婚姻期間は「2008年4月1日以降に第3号被保険者であった期間」になります。
2008年3月31日以前から婚姻している人は、合意分割の手続きも必要です。

年金分割を検討すべきケース


年金分割は義務ではなく、請求しなくても問題ありません。
年金分割すべきかわからない方は、ここで紹介する検討すべきケースを参考にしてみてください。

年金分割の対象である

まずは、そもそも夫婦が年金分割の対象であるか確認しましょう。
年金分割の対象になるのは、双方または一方が婚姻期間中に厚生年金に加入していた夫婦です。
2015年10月に厚生年金に統合された「共済年金」に加入していた人も含まれます。
厚生年金への加入期間が婚姻期間中に一切なく、国民年金のみであった場合は年金分割の対象外です。

年金分割が自分にとって有利である

年金分割は厚生年金保険料を多く納めたほうから少ないほうへ分割する制度ですので、合意分割によっては「年金を分割される側」になるかもしれません。
「自分が厚生年金に加入していた期間」がある人は、条件によっては不利になる可能性があります。
たとえば妻の場合、以下のどちらかに当てはまる人は注意が必要です。

  • 共働きの夫婦
  • 現在は専業主婦・パートだが、厚生年金保険料を納めて働いていた期間が長い

なお、3号分割と合意分割のどちらも対象になる人が合意分割した場合、自動的に3号分割も適用されます。
双方の年金保険料の納付状況を比較し、「3号分割のみ」と「合意分割と3号分割」のどちらが自分に有利になるか確認してみてください。
納付状況は、「年金分割のための情報通知書」で調べることができます。

年金分割のための情報通知書で調べる

「年金分割のための情報通知書」は、年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出すると入手できます。
通知書に主に記載されている情報は、以下の通りです。

  • 年金分割をされる側と受ける側(「第一号改定者」欄に名前がある配偶者が分割する)
  • 年金分割の対象期間
  • 分割する割合の下限

注意点として、請求すると相手にも年金分割のための情報通知書が送付されます。
相手が有利な条件だった場合、年金分割の手続きを進められる可能性があるので注意しましょう。

年金分割の手続きの流れ|3号分割のみ行うケース


合意分割を行わず、3号分割のみ行うケースの手続きを紹介します。
おもに配偶者に扶養されている人が対象になります。
なお合意分割は「婚姻中の全期間」を分割しますが、3号分割は「2008年4月1日以降、配偶者に扶養されている期間」のみです。
2008年3月31日以前から結婚している、あるいは婚姻中に配偶者の扶養から外れた期間があった場合、合意分割の方が将来もらえる年金額が増えるでしょう。

年金事務所に標準報酬額改定請求書を提出する

3号分割のみ行う際は、年金事務所で「標準報酬額改定請求書」を提出します。
標準報酬額改定請求書は、日本年金機構の公式HPでも入手可能です。
その他、以下の必要書類を持参しましょう。

  • 自分の年金手帳、基礎年金番号通知書、マイナンバーカードのいずれか
  • 婚姻期間を明らかにできる資料(戸籍謄本など)
  • 双方の戸籍謄本または住民票(請求日の1ヶ月前までに取得)

相手の合意はいらないため、ご自身のみで年金事務所に行っても手続き可能です。

年金分割の手続きの流れ|合意分割を行うケース


続いて、合意分割の手続きを説明します。
合意分割の対象者は、配偶者が厚生年金に加入している期間がある人です。
お伝えした通り、3号分割の対象者でも「2008年3月31日以前の婚姻期間」や「扶養から外れている期間」については合意分割による請求が可能になります。
さらに、3号分割の期間がある人は合意分割と同時に3号分割も請求したと扱われるので、個別の手続きは必要ありません。

(1)年金分割のための情報通知書を請求する

最寄りの年金事務所で、「年金分割のための情報通知書」を請求しましょう。
「年金分割のための情報提供請求書」を窓口に提出すると、後日書類が送付されます。

(2)通知書をもとに協議を行う

年金分割のための情報通知書をもとに、夫婦で分割の割合を話し合います。
通知書には、「分割する側と分割を受ける側」や「分割の割合の下限」といった情報が記載されています。
3号分割の期間は2分の1と定まっているので、協議は必要ありません。

合意できなければ調停・審判へ

話し合いで分割の割合を決められなければ、家庭裁判所へ調停を申し立てます。
調停への申し立て期限は、離婚後から2年以内です。
調停でもまとまらない場合は審判手続きへと進み、裁判官に割合を決定してもらいます。

(3)年金事務所へ標準報酬額改定請求書を提出

合意に至った内容をもとに「標準報酬額改定請求書」を記入し、年金事務所に提出します。
標準報酬額改定請求書は、日本年金機構の公式HPにて入手可能です。
記入例もありますので、参考にしてみてください。
標準報酬額改定請求書を提出する際は、以下の書類も持参しましょう。

  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 年金手帳、基礎年金番号通知書、マイナンバーカードのいずれか
  • 双方の戸籍謄本
  • 双方の生存を示す書類(請求前1ヶ月以内に取得した戸籍謄本や住民票)
  • 合意内容を示す調停調書、審判書、公正証書のいずれか※1人で手続きする場合
  • 年金分割の合意書※2人で手続きする場合

通常は夫婦揃って窓口に行く必要がありますが、調停調書、審判書、公正証書のいずれかがある場合は1人で手続き可能です。
後日「標準報酬改定通知書」が届き、合意分割の手続きが完了します。

年金分割についてよくある疑問


最後に、年金分割で悩みやすい点についてまとめます。

共働きの場合はどうする?

共働きの夫婦は、合意分割の対象になります。
ただし、自分のほうが厚生年金保険料を多く納めているのであれば、自ら合意分割を提案する必要性は低いです。
たとえば「夫が自営業で妻が会社員」といったケースでは、夫の収入の方が高くとも妻の厚生年金保険料が分割されます。
こうしたケースで2分の1の分割は不公平であるため、夫から合意分割を提案された際は下限に近い割合を主張したほうが良いでしょう。

相手から年金分割を拒否された

「年金を分割しない」旨の同意がない限り、年金分割は拒否できる制度ではありません。
相手が合意分割の話し合いに応じなかったり、分割の割合で合意できなかったりする場合は、家庭裁判所へ申し立てましょう。
また、2008年4月1日以降に結婚しており、婚姻期間中は相手に扶養されていた人は、相手の同意が不要な3号分割の手続きを進めることが可能です。

相手が死亡してしまった

離婚後に元配偶者が死亡しても、分割された年金記録に影響はありません。
しかし、合意分割の話し合いや調停が終わる前に相手が死亡した場合、年金分割は手続きできません。
合意を証明できる公正証書や調停書があれば、死亡日から1ヶ月以内は手続き可能です。

まとめ


年金分割は、配偶者の厚生年金記録を分割する制度です。
分割してもらうことで、将来的な厚生年金受給額を増額できます。
分割方法は、話し合いや調停で決める「合意分割」と合意不要な「3号分割」の2つです。
婚姻期間の時期や、双方の厚生年金加入状況によってどちらを選ぶべきかは異なります。
ご自身で判断するのが不安な方は、離婚に詳しい弁護士に相談してみると良いでしょう。

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