専業主婦の場合、夫との離婚を考えて別居をしようとしても、生活費などの不安がある方もいるでしょう。では、実際に別居をしたとしても、夫に対して生活費を請求することはできるのでしょうか。この記事では、専業主婦で夫と別居・離婚したいと考えている方へ「婚姻費用」についてご紹介していきます。
▼この記事でわかること
- 婚姻費用とは何か、わかります。
- 専業主婦が別居する際、生活費をどうしたらよいかのヒントを得られます。
- 婚姻費用を後々まで円滑にもらうためのポイントを知ることができます。
▼こんな方におすすめ
- 専業主婦で夫と別居を考えているが、別居中の経済面に不安を抱えている方
- 夫と別居しているが、生活費がもらえずにお困りの方
- 婚姻費用について夫と口頭でのみ合意しており、合意書面を作っていない方
専業主婦×別居。生活費どうする?
仮に専業主婦が夫と別居した場合、生活費はどうなるのでしょう。実際に夫からもらえる額も気になるところです。ここでは、「婚姻費用」のあらましと、どれくらいの額がもらえるのかについて解説します。
別居中の生活費は請求できる
一般的な生活費や子供の養育にかかる費用など、結婚している夫婦が生活をしていく上で必要な費用すべてをひっくるめたものを「婚姻費用」と呼びます。
民法によると、婚姻費用は夫婦で分担しなくてはならないと規定されています。
この婚姻費用の負担義務は、夫婦が同居している・別居している、に関わらず発生します。
どちらか一方しか収入がない場合には、収入のある方が婚姻費用を負担する必要がありますし、収入に差がある場合には、収入の多い方が少ない方に対して婚姻費用を負担する必要があります。
妻が専業主婦で収入がないならば、収入のある夫が当然に婚姻費用を負担する義務があります。
では、専業主婦である妻が夫と別居する場合はどうなるのでしょうか。
上にも書いたとおり、民法の規定によれば婚姻費用を請求することができます。
同居していたときは自然と家計をやりくりする方法が決まっていたため、婚姻費用という存在を意識せず、夫の収入で生活していたことでしょう。
しかし別居する場合には物理的に住む場所が異なることもあり、今までのような方法で自分の生活費を負担してもらえなくなるケースも珍しくありません。
したがって、夫が生活費である婚姻費用を支払ってくれない場合は、あらためて婚姻費用として請求する必要があるのです。
婚姻費用、いくらくらいもらえるの?
「婚姻費用」は実際のところ、どのくらいもらえるのでしょうか。
まずは今までと同じように生活費を負担してもらえないかどうか、夫に相談してみるのがよいでしょう。
話し合いの中でお互い納得のいく額が決まれば、問題はありません。
もし当事者間の協議で話がまとまらなければ、弁護士が介入したり、裁判所における調停に移行することになりますが、多くは裁判所で決められている基準に従います。
調停や裁判では具体的に、以下の算定表が用いられることが多いです。
▼(参考)婚姻費用の算定について
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
仮に子どもがいない夫婦なら「(表10)婚姻費用・夫婦のみの表」を確認しましょう。
たとえば、夫がサラリーマンで年収が500万円ほどあった場合、収入がない専業主婦が夫からもらえる婚姻費用は8~10万円ということになります。
また、妻と夫が同じ条件で0歳~14歳の子どもが1人いる場合だと、「(表11)婚姻費用・子1人表(子0~14歳)」が参考になるでしょう。
夫が妻に支払う婚姻費用は10~12万円と、夫婦のみのときに比べて額が大きくなります。
婚姻費用は、個別の事情によって多少上下する可能性はありますが、基本的には夫婦のそれぞれの収入や子どもの人数に応じて、もらえるおおよその金額が決まります。
仮に離婚したら、婚姻費用は・・・?
専業主婦が夫と別居した際に「婚姻費用」をもらっている状態から、そのまま離婚した場合、婚姻費用はどうなるのでしょうか。以下で解説していきます。
離婚した後ももらえるの?
結論からいうと、もらえません(厳密にいえば、元妻の分の生活費はもらえなくなります)。
離婚後に関しては、夫婦で婚姻費用を分担するといった法律等の規定はありません。婚姻費用はあくまで「夫婦である場合の生活費」です。そのため、専業主婦であっても元夫に生活費を請求することは不可能です。
つまり離婚後は、なんとかして自分の生活費は自分で確保する必要があります。
養育費との関係
仮に夫婦の間に子どもがいた場合、親は離婚しても子どもの親であることは変わりません。親には子供の養育費を負担する義務があります。
したがって、親権を専業主婦である妻が取得すると、子どもが自立するまでに必要な費用である「養育費」を夫に請求することができます。
ただ、別居中は婚姻費用(妻の生活費+子ども養育費)だったのに対し、離婚後は子どもの養育費のみになります。ですから、妻の生活費が含まれていた婚姻費用に比べると養育費の方が金額が小さくなるのが一般的です。
婚姻費用、支払ってもらうにはどうしたらいい?
「別居したはいいけれど、夫が費用を支払ってくれない」ケースについてみてみましょう。
早めの請求が鍵
婚姻費用や養育費は裁判所で調停をした場合には、請求したことが明らかな時点(多くの場合は調停申立日が属する月)からの分の支払が認められることが多いです。
したがって、調停を申し立てる以前に未払い分があったとしても、調停申立よりも過去の分の支払いを求めることがとても難しいのが実情です。
たとえば、1月から婚姻費用を支払ってもらえなかった場合、半年後の6月になってから調停の申立てをしても、6月分の費用しか認めてくれないケースが大半です。そのため、支払ってもらえない場合はできるだけ早く申し立てることが大切です。
一方、調停で夫側に婚姻費用を支払うことが決まっても、それが実行されなければ意味がありません。裁判や公正証書で決められた婚姻費用が支払われない場合は、裁判所に「強制執行」を申し立てすることができます。強制執行をするためには差し押さえるべき相手の財産(給与など)を把握している必要があります。
相手方の財産について何も情報がなかったとしても、一定の要件を満たせば、裁判所で相手方に対して財産開示手続きを申し立てることができます。この手続では、裁判所を通じて相手方の財産について調査をすることが可能です。財産があるとわかった場合、財産を差し押さえて強制的に取り立てることが可能です。
ちなみに、夫がサラリーマンの場合、未払い分だけでなく将来分についても差し押さえられます。原則、手取りの2分の1までの差し押さえが認められます。
書面を作成する
合意が成立した場合はもちろん、請求した事実を書面に残す意味もあります。上記のとおり、婚姻費用は請求したことが明らかな時点以降の分の支払が認められる可能性があるため、いつの時点で請求していたかを書面で残しておくことに意味があります。
例えば、内容証明郵便を送るという手段があります。
内容証明郵便とは、郵送した文書の内容を郵便局が保管して、○○な内容であったと証明してくれる制度のことです。
内容証明郵便の詳細についてはこちらからご覧ください。
内容証明郵便を書くときには、毎月の婚姻費用の金額を書き込むことが大切です。先程紹介した婚姻費用の算定表をもとに、金額をあらかじめ調べておきましょう。
内容証明郵便は、いつの時点で婚姻費用の支払を求めたかを明らかにできます。したがって、調停を起こした場合などに裁判所の調停で役に立つ可能性があります。そのため、できれば早めに作成しておくことを強くおすすめします。
別居する際、夫が婚姻費用の支払いに同意してくれました。わざわざ書面を作る必要はないように思うのですが。
別居した、あるいは離婚した後は夫婦の仲が薄れているため、すぐに支払わなくケースが後を絶ちません。そのため、仮に口頭での同意があったとしても、書面に残しておくことをおすすめします。早めにしっかり取り決めをしていくことが、将来の不安をなくすためのポイントです。
弁護士に依頼するのも一案
夫がなかなか婚姻費用を支払ってくれない場合は、弁護士に依頼するのも1つの手です。弁護士に依頼した場合は、「どうしたら婚姻費用を支払ってもらえるか」という観点から、様々な手段を講じてもらうことができます。
例えば、弁護士の名前で内容証明郵便を出してもらったり、依頼者の代理人として夫と交渉してもらった上で、合意書面を公正証書で作成してもらったりすることができます。
特に「依頼者の代理人として」夫と交渉してもらえる、というのは重要な点かもしれません。夫とは話をしたくない、会いたくない、という方にとっても婚姻費用をもらうためのステップを進めることができるからです。
まとめ
この記事では、夫婦が別居した際の生活費、いわゆる婚姻費用について解説してきました。
特に専業主婦は収入がないことが多く、夫が婚姻費用を支払ってくれるかどうかは、生活を揺るがしかねない大きな問題です。
これから別居を考えている専業主婦の方、既に別居しているが婚姻費用を支払ってもらえない方にとって、解決への緒となるようでしたら幸いです。