借金の返済目処が立たず債務整理を検討する際、「自己破産」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし自己破産すると、マイホームや自動車などを手放さなければならず、その点をネックに感じる方も多くいらっしゃいます。
実はその他の債務整理のひとつである「個人再生」であれば、マイホームを手放さずに、将来利息や遅延損害金はもちろん、元本部分も大幅に減らすことができるのです。
この記事では個人再生の概要や利用要件、メリット・デメリットについて解説するので、借金返済に困っている方はぜひ参考にしてみてください。
個人再生とは
「個人再生」とは債務整理のひとつで、自己破産のようにすべての債務をゼロにするわけではありませんが、残債の80%程度をカット(最低100万円程に)してもらい完済を目指す制度です。
債務者(借金した人)は裁判所に認可された再生計画に基づき、原則3年間で残債を返済します(事情がある場合は5年間で返済)。
個人再生の手続きをすれば、自己破産のように高価な資産を手放す必要はありません。
そのため、借金全額を予定通り返済することは難しいものの、マイホームを処分されたくない場合に利用されます。
ただしマイホームを手元に残す場合、住宅ローン特則(住宅資金特別条項)によって、住宅ローンを個人再生の対象から外してもらわなければなりません。
この場合、住宅ローンは引き続き返済する必要があるため注意してください。
その他、個人再生によって減額される債務には、消費者金融からの借金はもちろん、クレジットカードのキャッシング・ショッピング利用なども含まれます。
養育費や税金などの支払いは減額対象外となっています。
ただし個人再生を認められるためには、完済するための収入見込みがあることが求められます。
また、自己破産をすると弁護士や司法書士、宅建士、不動産鑑定士、警備員などの職業・資格に就くことができません。
そのため自己破産すると働けなくなってしまう方が、個人再生によって借金完済を目指すこともあります。
個人再生の種類と利用要件
個人再生は利用者の収入状況に応じて「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類に分けられます。
小規模個人再生
個人再生の基本的な手続きが「小規模個人再生」です。
後述する「給与所得者等再生」よりも返済額を減らせるため、多くの方は「小規模個人再生」を選びます。
「小規模個人再生」による返済額は、次のいずれかのうち一番高い金額です。
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小規模個人再生は条件を満たしさえすれば、個人事業主はもちろんサラリーマンや年金受給者であっても利用可能です。
個人再生を検討する場合、まずは債権者が再生計画に異議を述べるかどうかなど、小規模個人再生の利用可否を検討します。
主な要件は次のとおりです。
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給与所得者等再生
主に会社員を対象としているのが「給与所得者等再生」です。
小規模個人再生の「特則」という位置づけですが、給与所得者が必ず選択しなければならない制度ではありません。
「給与所得者等再生」による返済額は、次のいずれかのうち一番高い金額です。
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現実的には「可処分所得の2年分」がもっとも高額になると考えられます。
そして「給与所得者等再生」を認めてもらうための主な要件は次のとおりです。
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「給与所得者等再生」は債権者の同意が不要であることが最大の特徴です。
もし債権者の同意が得られず「小規模個人再生」が使えない場合には、返済額は高くなるものの、「給与所得者等再生」を選択することになります。
個人再生が利用できないケース
先述した各種要件を鑑みると、個人再生を利用できないケースとしては次のような例が挙げられます。
- 住宅ローンを除いた借金の総額が5,000万円超
- 安定した継続的な収入がない
- 借金総額が100万円未満(個人再生で最低限支払わなければならない金額が100万円であるため)
当然ながら、債務整理をしなくても返済が困難でない場合にも個人再生は認められません。
自宅以外に高額な財産を所有している場合も、その財産を売却すれば返済できると判断され、個人再生が認められない可能性が高いです。
一方で借金が8割程度減額されたとしても返済の見込みが立たない場合も、個人再生は認められません。
この場合は自己破産が残された選択肢になります。
また、個人再生のためには裁判所費用・弁護士費用を合わせて37〜80万円程度必要です。
この費用が準備できない場合も、個人再生は利用できません。
債権者平等原則により特定の債務のみの返済はできない
個人再生を利用する場合、住宅ローンを除く全ての借金(債務)が整理対象となります。
そこには「債権者平等原則」が適用されるため、特定の債務のみ返済することはできません。
たとえば保証人がいる借金・担保付きの借金・親類からの借金を優先して返済したいかもしれません。
しかし、上記のような一部の債権者にのみ返済することは「偏頗弁済(へんぱべんさい)」に該当します。
債務整理手続き中の偏頗弁済は禁止されており、偏頗弁済の程度が大きいと再生計画が認可されず、個人再生の申し立てそのものが棄却されるリスクもあるため注意してください。
個人再生のメリット
さて、他の債務整理手続きではなく個人再生を選択するメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- マイホームや車を保持できる
- 借金を大幅に減額できる
- 裁判所の認可があれば手続きできる
- 破産のような免責不許可事由の定めがない
これらのメリットに魅力を感じる場合は、個人再生を選ぶことをおすすめします。
マイホームや車を保持できる
住宅ローン特則を利用すれば、マイホームを売却せずに債務整理を進められます。
自動車についても、ローンを完済している場合には手元に残すことが可能です。
自己破産するとマイホームや車を手放さなければならないことを考えると、この点は大きなメリットだといえます。
ただし「ローン完済まで車の所有権がローン会社にある」契約の場合、車両を引き揚げられる可能性があることは留意しなければなりません。
しかし銀行・信用金庫の自動車ローンの場合、契約者本人に車の所有権があるケースが多いため、実務的には車両を手元に残せると考えて問題ありません。
借金を大幅に減額できる
個人再生の場合、マイホームなどを手元に残しながら、残債を10%〜20%にまで大幅に減額できます。
減額幅はそれぞれのケースによって異なりますが、再生委員による再生計画が認可される場合、もともとの残債の20%にまで減らしてもらえるケースが多いです。
そして減額後の残債を3年〜5年かけて分割返済していき完済すると、法律上の返済義務が免除されます。
裁判所の認可があれば手続きできる
個人再生は裁判所を介する手続きのため法的強制力があり、債権者は認可された再生計画に従わなければなりません。
個人再生の一種である「小規模個人再生」は債務者からも一定の同意が必要ですが、「給与所得者等再生」であれば債務者の同意は不要です。
任意整理などと異なり、裁判所の認可があれば手続き進められることも大きなメリットだといえます。
免責不許可事由の定めがない
個人再生には免責不許可事由の定めがありません。
そのため自己破産が認められないギャンブルや浪費による借金であっても手続きを進められます。
個人再生のデメリット
メリットも多い個人再生ですが、少なからずデメリットがあることも把握しておきましょう。
代表的なデメリットは次のとおりです。
- 借金の保証人に一括請求される
- 個人信用条項機関に事故情報(ブラックリスト)として登録
- クレジットカードが使えなくなる
- 官報に住所氏名が載る
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
借金の保証人に一括請求される
個人再生によって借金が減額されるのは、あくまでも申し立てた本人のみです。
保証人の保証債務まで減額されるわけではありません。
そして債務者が個人再生を申し立てた時点で、保証人に保証債務の履行義務が発生します。
つまり個人再生の手続きを進めると、保証人が一括返済しなければならないということです。
保証人がいる債務のみを個人再生の対象から外すことはできません。
そのため保証人がいる状態で個人再生する場合は、あらかじめ保証人に対して説明しておくことを推奨します。
個人信用条項機関に事故情報(ブラックリスト)として登録
個人再生した事実は、信用情報機関に「事故情報」として登録されます。
いわゆる「ブラックリスト」に掲載されるということです。
キャッシングやローンなどの新たな借入はできない
ローンや借金の契約時、金融機関・貸金業者は顧客の信用情報を照会するものと法律で定められています。
このタイミングでブラックリストに載っていることが分かれば、借入審査は通過できません。
個人再生によってブラックリストに掲載されると、完済から5年程度は借入が制限されます。
この期間は自動車ローン・住宅ローンはもちろん、クレジットカードのキャッシング・カードローン・信販会社のショッピングローンなど新たな借金はできないと想定してください。
クレジットカードが使えなくなる
個人再生によって信用情報機関に「事故情報」が掲載されると、新たにクレジットカードが作れなくなることもデメリットです。
また、すでにクレジットカードを保有している場合も、個人再生の申立てによってブラックリストに情報が掲載されると強制解約となります。
強制解約時のクレジットカード残債は全額一括請求されることも留意すべき点です。
官報に住所氏名が載る
個人再生すると「官報」に住所氏名が掲載されます。
官報とは国が発行している新聞のようなものです。
破産や相続についての裁判内容が掲載されます。
個人再生をすると、次の3つのタイミングで官報に住所氏名などが掲載されます。
- 開始決定時
- 書面決議時
- 認可決定時
借金額・借入先の債権者名などは掲載されず、官報の存在そのものを知らない方も多いため、官報に名前が掲載されたからといって知人や勤務先にバレる可能性は高くありません。
しかし官報の情報をもとに、正規の貸金業者ではない、いわゆる「闇金業者」からDMが届くケースもあるため十分に注意してください。
個人再生の手続きの流れ
ここからは個人再生の手続きの流れについて、ステップごとに紹介します。
弁護士に相談する
実は個人再生はかなり煩雑な手続きが必要で、債務整理の中でもとくに難しいとされています。
手続きは裁判所を介し、さまざまな書類を用意しなければなりません。
個人再生のための「再生計画」の立案にも複雑な計算作業が伴い、素人がひとりで対応することは困難です。
弁護士へ相談・依頼すれば報酬費用が発生しますが、個人再生によって圧縮できる金額と比べれば数分の一の費用に過ぎません。
スムーズに手続きを進めるためにも、個人再生を考えたら債務整理に慣れている弁護士に相談することをおすすめします。
受任通知の送付・取引履歴の開示請求
弁護士に個人再生手続きを依頼し「委任契約」を結ぶと、遅くとも1週間以内に「受任通知」が債権者へ送られ、あわせて取引履歴の開示請求が行われます。
この受任通知により債権者から債務者への督促がストップするため、以降の手続きは弁護士にすべて一任できることが特徴です。
債権調査
つづいて、これまでの取引履歴から、「利息制限法」に基づいて利息を計算し直します。
いわゆる「引き直し計算」です。
この計算の結果、利息を払いすぎていた場合、残債に充当できます。(いわゆる過払い金です)
その後、債務総額を確定させます。
申し立て書類を準備
つづいて申立てに向けて各種調査を進め、書類を準備します。
調査対象の例は次のとおりです。
- 申立人の収入・支出
- 家計状況
- 財産・資産
先述したとおり煩雑な書類作成が必要となりますが、弁護士に一任できるため安心してください。
裁判所に申し立て
準備が整ったら、申立人の住所地を管轄する地方裁判所に、弁護士から「再生手続開始申立書」などの必要書類を提出してもらいます。
弁護士に相談・依頼してから裁判所への申立てまでにかかる期間は、半年〜1年程度が目安です。
この申し立て手続き自体にも、申立手数料や予納金(官報掲載費用)として2万5,000円程度の費用がかかります。
個人再生委員を選任する場合には、追加で15~20万円ほどの費用がかかることもポイントです。
個人再生手続きの開始決定
申し立てから約1ヶ月後、個人再生の手続きを開始する決定が下されます。
弁護士が再生計画案を提出
申立人と協議したうえで弁護士が再生計画案を作成し、裁判所へ提出します。
再生計画案に記載される内容は次のとおりです。
- 返済の開始時期
- 返済総額
- 返済方法
- 返済期間
- 住宅ローン特則(住宅資金特別条項)の利用について
なお、再生計画案の提出時期は手続開始決定から約3〜4ヶ月後です。
書面による決議
提出した再生計画案が法的な要件を満たしていれば、各債権者に再生計画書・議決書が裁判所から送られます。
その後、書面決議が行われます。
なお、「小規模個人再生」の場合、このタイミングで一定数以上の同意意見を得られなければ再生手続きは認められません。
裁判所からの再生計画認可決定
再生計画案を提出してから1〜3か月経過後、個人再生委員の意見を考慮したうえで、裁判所は再生計画を認可するかどうか判断します。
認可決定の約2週間後、先述した「官報」に申立人の情報が掲載され、さらに2週間後に認可決定が確定します。
再生計画認可が決定したら、個人再生手続きは完了です。
ここからは再生計画に沿って返済し、完済を目指します。
個人再生の費用相場
個人再生手続きでは、裁判所と弁護士それぞれに費用を支払います。
裁判所に支払う費用としては次の3つが挙げられます。
- 予納金(官報掲載料):申立て時にあらかじめ納める費用
- 申立手数料:収入印紙で支払う
- 郵便切手:債権者へ通知するための費用
各種費用は裁判所によって異なりますが、合計3万円程度が目安です。
また、手続きの流れでも紹介したとおり、個人再生委員が選任された場合には追加で15~20万円程度の報酬も求められます。
一方、弁護士に払う費用としては次の3つが挙げられます。
- 相談料:法律相談の費用
- 着手金:依頼時の費用
- 報酬金:個人再生が認められたときの成果報酬
弁護士事務所によって異なりますが、合計で50万円〜60万円程度が相場です。
個人再生と自己破産の違い
ここからは個人再生と自己破産の違いについて解説します。
どちらも法的な債務整理ですが、異なる点も多いため注意してください。
借金の支払い義務
自己破産 | 個人再生 |
---|---|
原則として支払い義務免除 (借金がゼロになる) |
残債の20%程度に減額 (借金は最低100万円程残る) |
個人再生では借金が減額されるものの、自己破産のようにゼロになるわけではありません。再生計画にもとづき分割返済していく必要があることは、個人再生ならではの特徴です。
処分する財産
自己破産 | 個人再生 |
---|---|
時価20万円以上の財産は原則としてすべて処分 (マイホームや車を含む) |
基本的に財産を処分する必要はなし (マイホームや車を残せる) |
自己破産する場合、自由財産(生活に必要な最低限の財産)を除き、すべての財産を処分しなければなりません。
財産はお金に換えられ、債権者に対して公平に分配されることが特徴です。
一方、個人再生の場合、基本的に財産を処分する必要はありません。
記事前半で紹介した「住宅資金特別条項」により住宅ローン以外の債務を個人再生の対象とすれば、マイホームを手元に残せる可能性があることがポイントです。
手続き後の資格制限
自己破産 | 個人再生 |
---|---|
弁護士・司法書士 税理士・公認会計士 宅地建物取引士 警備員 など |
なし |
個人再生の場合、手続き後の資格制限がないことも特徴です。
資格制限されると困る方は、個人再生を選ぶといいでしょう。
個人再生と任意整理の違い
任意整理とは債権者と直接交渉し、無理なく借金を返していくための返済方法を決める手続きです。
個人再生と任意整理の違いについても詳しく紹介します。
借金の減額幅
任意整理 | 個人再生 |
---|---|
利息部分のみ | 利息部分 残債の80%程度 |
任意整理では基本的に、利息部分のみしかカットできません。
利息のみならず元本部分もカットできる個人再生と比べると、任意整理の減額幅は限られます。
裁判所の介入
任意整理 | 個人再生 |
---|---|
なし | あり |
個人再生は裁判所を介して手続きしますが、任意整理は債権者と直接交渉するのみで、裁判所は関与しません。
手続き条件の制約
任意整理 | 個人再生 |
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とくになし | 借金総額が5000万円未満(住宅ローンを除く) 一定以上の債権者の同意を得ている 継続的または反復した収入の見込みがある など |
個人再生が認められるためには、この記事で紹介してきたとおりさまざまな要件を満たさなければなりません。
一方、任意整理するための条件はとくになく、債権者が認めさえすれば成立します。
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まとめ
個人再生は借金を大幅に減額しつつ、マイホームなどは手元に残せる債務整理です。
自己破産と任意整理の中間に位置する手続きともいえ、任意整理は債権者が認めてくれなかったものの、自己破産はしたくない場合に選択肢となります。
また、個人再生には「免責不許可事由」がないため、浪費やギャンブルを理由に借金した場合にも利用可能です。
この記事で紹介したメリット・デメリットを知ったうえで、個人再生するかどうか決めてみてください。