商標権侵害の判断基準とは?侵害によるリスクや対処法について解説

企業法務

この記事の監修

千葉県 / 千葉市中央区
ファミリア総合法律事務所
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海外への展開を含めてブランドを育成、保護する動きが加速する中、近年商標の登録件数は増え続けています。
2021年には17万4098件に達し、13万5313件だった2020年に続いて、過去最高を記録しました。

商標権は明治38(1905)年に実用新案法が制定されて以降、商標権はさまざまな商取引の安全性を担保しています。
しかし現代になってもなお、意図的かどうかを問わず、登録済みの商標権を侵害してしまうケースはあとを絶ちません。
また気が付かぬうちに商標権を侵害してしまったら、紛争に発展してしまうリスクもあります。
そこで本記事では、自社の商標権が侵害された、また侵害してしまった時の対策方法として、商標権侵害の判断基準や商標権侵害を防ぐためのポイントを紹介します。

▼この記事でわかること

  • 商標権の種類・定義や保護内容がわかります
  • 商標権侵害の判断基準がわかります
  • 商標権侵害を防ぐためのポイントがわかります

▼こんな方におすすめ

  • 企業の知財部門など、商標権に関連する仕事をしている方
  • 商標権を侵害され、相手方への警告、賠償を検討している方
  • 商標権を侵害してしまい、最小の負担で窮状を切り抜けたい方

商標権とは


商標とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音等であって、業として商品を生産、役務を提供する者等がその商品又は役務について使用するものをいいます。

たとえば、事業者が自社の取り扱う商品・サービスを他社のものと区別するために使用するマーク、ロゴ、サービス名等が挙げられます。

商標権とは、これらの商標を独占的、排他的に使用することができる権利で、特許庁に出願し商標登録されることで発生するものです。

商標権者は、第三者が自己の商標を使用した場合その使用を差止めることができます。

指定商品・役務

商標は、商品や役務を提供する際に用いるものです。そのため、登録商標には商品・役務の内容が紐づきます。

特許庁によると、商標は事業者などが自社で取り扱う商品・サービスを他人のものと区別するために使用する文字や図形などのマークと定義されています。
また商標法ではサービスのことを「役務」といい、商標登録出願を行う際に、指定する商品を指定商品、指定された役務を指定役務と呼んでいます。

商標権の保護内容

商標権の保護内容は、登録商標が、商品・役務に一致するかどうかで異なります。
商標を保護する力が最も強いのが、以下の図のように、登録商標と指定商品・役務が完全に一致している場合です。
この場合は、事業者などの商標権者は、商標を独占的に使用できる上、他人の使用を排除できる禁止権を行使できます。


引用:特許庁「商標権の効力」

類似する範囲は、商標権者も完全に使用できませんが、他人が使用すると禁止権が及びます。
類似範囲内では、商標の使用のみならず、商標を付した商品の譲渡や、商標用印刷の金型製造などの予備的行為も対象になるため、注意が必要になるでしょう。

商標権侵害の判断基準


商標権の侵害を判断する基準となるのは、登録商標や類似範囲内での商標の使用を行ったか、違反の疑われる者が商標的使用を行ったか等のことです。
詳しく解説しますので、参考にしてみてください。

登録商標の使用または類似範囲での使用

対象のマークが同一・類似であり、かつ指定商品・指定役務も同一・類似である、という要素が揃った時に、商標権侵害だと判断されます。

マークについての類似の判断は、呼び方・見た目・意味合いという3要素をもとに総合的かつ定性的に判断されます。
対して、商品・サービスの類似の判断方法は厳密です。
類似と疑われる商品やサービスが、審査時に特許庁が付与する5桁のコード(類似群コード)と、既存の類似群コードと合致する場合にのみ類似していると判断されます。

商標的使用に該当する

商標権違反の疑われる者が商標的使用を行ったかは、商標の機能を審査した結果、自社の商品であることを需要者に示せるか否かで判断されます。
つまり、審議にかける商標が、商標的に使われていないとみなされれば、商標権違反ではないのです。

実際の判例として、「オールウェイ」という商標を持つ商標権者が、飲料大手のコラ・コーラ社に対し起こした裁判(東京地裁平成10年7月22日判決)があります。
この裁判では、商標法に基づき「オールウェイズ」などの標章を記した缶入りコーラの販売差し止めを求めていました。
これに対し東京地裁は、コラ・コーラ社の製品を精査した結果、カタカナ表記を使用した経緯や、使用態様、取引の実情を踏まえ、「オールウェイズ」はキャッチコピーであり、商標的機能はないとして原告の請求を棄却しています。

商標権侵害した場合のリスク


では、ここからは万が一商標権を侵害してしまった場合のリスクについても解説します。
商標権を侵害した場合のリスクには、刑事罰をはじめ、商標権者からの損害賠償請求、社会的信用の失墜などがあります。
以下で詳しく解説いたします。

刑事罰

商標権を侵害すると、10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金が課される恐れがあります。
最も軽い虚偽表示の罪でも、3年以下の懲役または300万円以下の罰金となります。

また刑事罰の追及を逃れられないのは、法人も例外ではありません。
法人が商標権侵害を犯した場合は、実行行為者の処罰に加え、法人にも罰金刑が課される可能性があります。

損害賠償請求

商標権の侵害者は、商標権者より損害賠償請求を受ける可能性が高いです。
損害賠償請求に必要な侵害者の故意・過失は、商標法第39条に基づき、推定規定が適用されるなど、商標権者から侵害者への損害賠償請求は、履行のハードルが低くなっています。

商標の利用中止・変更(差止め請求)

商標権の侵害者は、商標権者より商標の利用の中止や変更を求める差止め請求を受けるでしょう。
差止め請求の態様は、侵害行為の停止や、侵害の予防だけではありません。
侵害行為を作成した物の廃棄や、侵害行為に供した設備の除去なども求められます。

企業の有形資産を廃棄・除去することになれば、多大な損害を被るのは不可避と言えるでしょう。

自社の社会的信用の失墜

商標権の侵害者は、侵害行為の以後、自社の社会的信用の失墜を招きます。

侵害行為を侵した事実は、マスコミを通じて世間に流布するからです。
To BやTo Cを問わず、顧客離れの加速やブランド価値の低下は不可避と言えるでしょう。

信用回復措置

商標権者は裁判所の民事手続によって、商標権の侵害者に対し侵害回復措置請求を命じることができます。
信用回復の措置とは、商標権者の商標に対する価値を下げたとして、侵害者が出資し権利者に対する謝罪広告を新聞や業界誌に掲載することです。

この措置がとられるケースは少ないですが、侵害者の標章が付された名刺の使用や、コンクリート車の販売を違反とした判例(平成29年(ワ)12058号商標権侵害行為差止等請求事件)では、被告である侵害者に対し、毎日新聞に横15センチ、縦1段以上の謝罪広告の掲載を命じる判決が下っています。

商標権侵害の対処法


商標権侵害への対処法は、他の民事事件と同じように、法的な証明や反論をするための証拠集めが重要となるでしょう。
ここからは、商標権が侵害された場合、もしくは商標権を侵害した場合にとるべき対処法について解説します。

商標権が侵害された場合

自社の商標権が侵害された場合は、まず侵害された証拠を集めることが重要です。
商標であれば、企業のブランドイメージに使われる文字や図形、商品・サービスであれば、相手先のウェブサイトやリーフレットから商標侵害に関わる証拠を集めましょう。

続いて、相手方に対して行うのが、自社の商標内容や侵害事実、要求内容、返答期限などを記した警告書の送付です。
警告書を無視されたり、要求を拒否する旨の返答が返ってきた場合、任意での損害賠償を求めて示談交渉を提案します。

示談交渉の他に、任意での損賠賠償を求める方法には、裁判所を介した調停があります。
これらの法的プロセスを踏んだにもかかわらず、相手方が対話や交渉に応じない場合は、裁判へと移りましょう。

なお、商標権の侵害では、相手方の侵害行為による損害額の算出は容易ではありません。
任意での損害賠償請求の段階から、弁護士に協力を仰ぐのが賢明です。

商標権侵害をした場合

自社が商標権の侵害を起こしてしまった場合は、先に商標の使用を停止するなど、損害防止に向けた措置を講じましょう。
商標権侵害を起こした商標を使用した商品、サービスを販売し続けるのは、相手方に損害事実を提供し続けているのと同義だからです。

商標権者が商標権の侵害に気づけば、会社に警告書が届く可能性があります。
その場合は事実に基づき、示談交渉などでできるだけ事を荒立てずに解決することをおすすめします。
もし損害賠償額が高すぎる、名誉回復措置など要求が厳しすぎる場合は、商標権トラブルに強い弁護士に相談するなどし、早期対応に臨みましょう。
裁判のフェーズでも、商標権を侵害された時と同様に、弁護士の支援が不可欠です。

商標権侵害を防ぐためのポイント


病気やトラブルと同じように、商標権侵害の発生を防ぐためには、予防策を事前に講じておくことが大切です。
ここからは、商標権侵害を防止する体制づくりのために実践できる方法を3つ紹介します。

事前に商標調査する

商標権は原則として、先に出願した人が認められる先願主義であることを踏まえ、事前に商標調査をしておくとよいでしょう。
この商標調査は先願調査といい、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報プラットフォームJ-PlatPatを利用します。
J-PlatPatでは商標や商品・役務、図形等、不登録商標など、さまざまなカテゴリーで、先願調査が可能です。
万が一J-PlatPatで類似したケースが見つかった場合は、商標権侵害にあたるのか弁護士などの協力を受けながら、判断すると良いかもしれません。

自社商標を登録しておく

自社そのものを商標として登録する自社登録は、商標権侵害の対策の基本です。

とにかく商標権は先願主義のため、速やかに商標登録の出願をすると良いでしょう。
商標権の登録プロセスは通常、7〜8ヶ月程度かかるため、早めに出願準備に取り掛かるのが賢明です。

商標の利用許可に合意する場合は契約書を作成

商標の利用許可に合意する場合は、商標使用許諾の契約書を作成しましょう。
相手先との契約締結によって、第三者を介在して自社の商標の認知度を高めながら、商標の違法な財産的活用を防げます。
すでに商標によって形成されている場合は、自社の顧客誘引力や経済的価値を守ることにもつながるでしょう。

利用範囲や使用料、有効期限などの記載条項を記す商標使用許諾契約書は、フランチャイズなどのライセンスビジネスに有効です。
弁護士などの力を借り、法的に齟齬のない契約書を作成しましょう。

まとめ


インターネットを介したビジネスの活発化を受け、知的財産の価値が高まっていることから、今後も商標の登録件数は増えていくことでしょう。
それに伴い、トラブルのリスクヘッジも万全にしておくことが大切です。
商標登録を検討する企業の方々は、弁護士に相談し、商標権侵害の対策マニュアルを構築しておくことをおすすめします。

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