経営者保証に関するガイドラインとは?事業再生・倒産に伴う経営者の個人破産を防ぐ方法

企業法務

この記事の監修

東京都 / 千代田区
甲本・佐藤法律会計事務所
事務所HP

「自己破産したくないので倒産に踏み切れない」
「後継者に事業を譲りたいが、経営者保証があるため話が進められない」
会社の倒産や事業譲渡を考えるにあたって、経営者保証で悩む方は多いのではないでしょうか。

近年では、会社が倒産しても個人破産しなくて済む方法があります。
本記事で「経営者保証に関するガイドライン」の正しい知識をつけ、経営者として迅速に適切な判断を下しましょう。

▼この記事でわかること

  • 経営者保証ガイドラインを利用するための要件がわかります
  • 経営者保証ガイドラインを使うメリットがわかります
  • 経営者保証ガイドラインの手続の流れがわかります

▼こんな方におすすめ

  • 会社の倒産を考えているが自己破産はしたくない方
  • 経営者保証があることで事業譲渡が進まない方
  • 自宅を処分せずに保証債務を整理したい方

経営者保証に関するガイドラインとは

「経営者保証に関するガイドライン」とは、中小企業庁と金融庁が共同で設置した「中小企業における個人保証の在り方研究会」の報告に基づき、全国銀行協会と日本商工会議所が共同で策定したルールで、中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的自律的な準則として2014年2月に公表されました。
法的効力はなく強制力は持たないものの、準則として自主的な遵守が求められており、利用者は近年増加傾向にあります。

経営者保証に関するガイドラインは、中小企業の経営者が避けられない「経営者保証」による弊害を除去することで事業承継・事業再生・新規起業などの経営者の動きを促進し、日本経済を活性化させることが目的とされています。

経営者保証による弊害とは

そもそも経営者保証とは、融資を受ける際に経営者個人が会社の連帯保証人になることです。
中小企業の経営者の多くは、融資を受けると同時に経営者保証という保証債務を負い、「もし倒産したら会社に代わって個人的に借金を返済する」という約束をします。

しかし、経営に行き詰まってやむを得ず倒産を考えたとき、経営者保証があるために会社破産と同時に個人破産が必要なケースもあることから、なかなか破産や事業再生に踏み切れないことが多いのです。
また、事業を後継者に引き継ぎたいときにも経営者保証の存在が重荷となってなかなか話が進まないことがあります。

そのような状況を救済するのが、経営者保証に関するガイドラインの存在です。

経営者保証に関するガイドラインを利用した債務整理

経営者保証に関するガイドラインを利用して債務整理をすれば、会社自体は倒産しても経営者個人は破産せずに済む可能性があります。

対象となる債務・債権

経営者保証に関するガイドラインの対象になる債務・債権は「対象債権者(主に金融機関)が有する保証債務履行請求権」です。
つまり、会社が金融機関から借り入れたお金のみ債務整理できることになります。
多くのケースでは、経営者がクレジット会社などから個人的に借りたお金や、仕入れ先からの債務は対象になりません。
ただし個人的に過大な額を借り入れている債権者がいる場合は、弁済計画の履行に重大な影響を及ぼすおそれがあると考えられ、対象債権者に含まれるケースもあります。

経営者の手元に残せる財産

経営者保証に関するガイドラインを利用して債務整理をすると、通常の債務整理よりも多くの財産を手元に残せる可能性があります。
経営者保証に関するガイドライン利用によって残せる財産は、以下のようなものです。

  1. 破産手続における自由財産(99万円まで)
  2. 一定期間(90日~330日)の生計費に相当する預貯金
  3. 華美ではない自宅

通常の債務整理で残せるのは基本的に①の自由財産のみですが、経営者保証に関するガイドラインではその他に一定期間の生活費や自宅も残せる可能性があります。

②に関しては、負債が増える前に早期決断したことによって増加した回収見込み額分を上限として残せるため、早期決断が財産をできるだけ多く残すポイントだと言えるでしょう。

経営者保証に関するガイドラインを利用するための要件

経営者保証に関するガイドラインを利用したい場合は、いくつかの要件を満たす必要があり、もし要件を満たさない場合は個人破産を選ぶしかないケースもあります。
また、経営者保証に関するガイドラインを利用した債務整理は「私的整理」に分類されるため、利用要件を満たしていても最終的には対象債権者全員の同意が必要となります。

弁護士に依頼すれば、自身が経営者保証に関するガイドラインの利用要件を満たしているかのチェックや、金融機関への説明や交渉などを任せられたりとメリットが大きいため、早い段階で相談することをおすすめします。

それでは、経営者保証に関するガイドラインを利用するための要件を一つずつ見ていきましょう。

保証人が中小企業の経営者である

まずは、経営者保証に関するガイドラインを利用する主債務者(会社)が中小企業で、保証人が中小企業の経営者であることが条件です。

ただし、法律で定められている中小企業・小規模事業者には限定せず、その範囲を超えた企業や個人事業主でも利用できる可能性があります。
また保証人は経営者だけでなく、経営権を持っているオーナーや会社の事業に従事している夫(妻)でも認められるとされています。

主債務者が法的整理又は準則型私的整理手続をとっている

経営者保証に関するガイドラインを利用するには、既に主債務者が法的整理又は準則型私的整理手続をとっている、もしくはガイドラインの利用と同時に当該手続をとることが必要です。
主債務者の債務を整理せずに経営者の保証債務だけ整理することはできません。

主債務者の債務整理手続においては、裁判所が関与する「法的整理」もしくは中立的立場の第三者が介入する「準則型私的整理」のどちらかを利用する必要があります(下記表参照)。
債権者と債務者が準則に基づかずに相対で交渉する純粋な私的整理も不可能ではありませんが、現実的に経営者保証に関するガイドラインの利用は難しいと考えて良いでしょう。

法的整理 準則型私的整理
  • 破産手続
  • 民事再生手続
  • 特別清算手続
  • 中小企業活性化協議会
  • 中小企業事業再生等ガイドライン
  • 特定調停スキームなど

主債務者の債務整理にどの手続を選択するかに関しては会社の状況や目的によっても変わってくるため、経験豊富な弁護士に相談の上で慎重に選択することをおすすめします。

対象債権者にとっても経済合理性がある

対象債権者にも経済合理性がある状況とは、通常の破産手続をとった場合に得られる配当よりも多くの金額を回収できる見込みがある場合などです。
具体的には「弁済計画に基づいて算出した回収見込額」が「現時点で破産手続を行った場合の回収見込額」を上回るかどうかで判断されるケースが多いでしょう。

破産法所定の免責不許可事由がない

破産法で定められている免責不許可事由にあてはまる場合は借金の免除を認めてもらえないため、経営者保証に関するガイドラインを利用できない可能性があります。
どのようなケースが免責不許可事由にあてはまるのか、具体例をいくつか見てみましょう。

【免責不許可事由にあてはまるケース】

  • 財産を勝手に処分して価値を下げてしまった
    ⇒不当な破産財団価値減少行為(破産法252条1項1号)
  • 金融機関に返済する前に家族や友人に返済してしまった
    ⇒不当な偏頗行為(破産法252条1項3号)
  • ギャンブルや浪費で債務を増やしてしまった
    ⇒浪費または賭博その他の射幸行為(破産法252条1項4号)

上記のように自己判断で勝手な行動をとることで経営者保証に関するガイドラインの利用ができなくなる可能性があるため、十分に注意が必要です。

財産状況を適時適切に開示し、 弁済に誠実である

保証人は常に誠実な姿勢を求められており、財産や負債を隠して虚偽の情報を開示した場合は利用が難しくなる可能性があります。
ただし、債務整理以前に財産状況を不正確に開示した場合などでも、金額や私的流用の有無などの悪質性を見て総合的に利用可否を判断されるべきだと考えられています。

主債務者・保証人が反社会勢力でない

主債務者と保証人が反社会勢力ではなくその恐れもないことも要件の一つです。
反社会勢力でないかどうかは、既に保有している主債務者の情報・必要書類に記載されている内容・弁済計画案の内容などを元に、対象債権者が判断を下します。

経営者保証に関するガイドラインを利用するメリット


ここからは、経営者保証に関するガイドラインを利用するメリットを紹介します。
通常の個人破産や個人再生などの債務整理方法と比較しながら見ていきましょう。

ブラックリストに登録されない

個人破産や個人再生の手続を行った場合は、信用情報機関に事故情報が登録され、ブラックリストに載ってしまいます。
ブラックリストに載るとクレジットカードの作成や新規借入が難しくなるため、家や車などローンを組む買い物はしばらくの間できなくなります。
一方、経営者保証に関するガイドラインを利用して債務整理をした場合はブラックリストに登録されないため、債務整理後の生活の自由度が高まるというメリットがあります。

官報に掲載されない

個人破産や個人再生をすると、官報の「裁判所公告」として掲載され、それを読んだ周囲の人に債務整理を行った事実が知られてしまう可能性があります。
周囲の人が直ちに官報を読まないとしても、官報はデジタル化されてデータベース上で検索可能ですので、破産者は将来にわたって半永久的に破産した履歴を調べられる状態になります。
経営者保証に関するガイドラインを利用して債務整理をした場合、保証人である経営者個人の情報が官報で公開されることはありません。

社会的信用を棄損せずに済む

経営者保証に関するガイドラインを利用すれば破産しなくても保証債務の整理ができるため、債務者は再起が図りやすく、債権者は破産よりも多額の債権回収が見込めます。
その結果、保証債権者の損害を最小限に留めるとともに、破産が公表された場合に比べて、社会的信用の棄損を抑えることができます。

保証債務の減額・免除または期限が猶予される

経営者保証に関するガイドラインを利用した場合、申し出た時点の財産を換価処分して債権者に分配しますが、それでも返済できない債務は原則として免除されます。
また、財産を処分せずに弁済期限を原則5年以内まで延ばしてもらった上で分割払いできる可能性もあります。

一部の資産・財産を処分せずに済むことがある

通常の個人破産の場合は、99万円以下の現金(自由財産)以外は、特別に自由財産の拡張が認められない限り、すべて破産管財人によって処分されてしまいます。
一方、経営者保証に関するガイドラインを利用した場合は、自由財産以外にも一定期間の生活費を残した上で華美でない自宅であれば住み続けることができます。
債務整理によって生活が脅かされないことは大きな安心感に繋がりますので、経営者保証に関するガイドラインを利用する大きなメリットだといえるでしょう。

経営に引き続き携われる可能性がある

経営者が破産した場合、事業に関わる契約を解除されたり事業に必要な機器を処分されたりと事業の継続自体が難しくなるケースもあります。
しかし経営者保証に関するガイドラインを利用して保証債務を整理すれば、会社は事業再生などで立て直しつつ、債権者側に経済合理性があれば経営者本人が引き続き経営に携われる可能性もあります。

経営者保証に関するガイドラインの利用手続

最後に、実際に経営者保証に関するガイドラインを利用したい場合の手続について解説します。

(1)主債務者の債務整理手続を行う:準則型私的整理手続

前の章でご説明した通り、経営者保証に関するガイドライン を利用するためには最初に主債務者の債務整理手続を進める必要があります。
債務整理の手続方法に関しては「法的整理」と「準則型私的整理」がありますが、どの手続が適しているかはケースバイケースで、一概にどちらが有利ともいえません。

【法的整理の種類】

  • 破産手続
  • 民事再生手続
  • 特別清算手続

【準則型私的整理の種類】

  • 中小企業活性化協議会
  • 中小企業事業再生等ガイドライン
  • 特定調停スキーム など

上記に挙げたように、法的整理にも準則型私的整理にも様々な種類があり、会社の規模や現在の状況、今後の展望などにより最適な方法が変わってきます。
そのため、まずは手続方法について弁護士に相談することをおすすめします。
手続方法が決まったら該当の第三者機関に相談し、私的整理が進む流れとなります。

(2)個人の保証債務整理手続を行う:経営者保証に関するガイドライン

つづいて経営者保証に関するガイドラインを利用して自らの保証債務整理を始めます。
流れとしては、自身がガイドラインを利用できる状況か確認し、問題なければ弁済計画案の立案、書類作成、金融機関への相談・協議と進んでいきます。

ここで注意したいことは「債権者から同意をもらえるかどうか」です。
経営者保証に関するガイドラインを使った債務整理は債権者全員に同意してもらう必要がありますが、経営者本人が説明してもなかなか納得してもらえるものではありません。
そのため、できるだけ早い段階で経験豊富な弁護士に相談し、適切な弁済計画案を考えた上で債権者との交渉を代行してもらうのがおすすめです。

また、一連の手続や流れを理解していた方がスムーズなため、できれば会社の倒産手続の段階から弁護士に依頼するのがベストでしょう。

まとめ

本記事では、経営者保証に関するガイドラインについて利用要件やメリット、手続などをまとめてご紹介しました。
中小企業の経営者にとってさまざまな局面で負担となっている経営者保証ですが、ガイドラインを利用することで多くの悩みが軽減されます。

しかし、経営者の保証債務を整理する前に会社の倒産手続が必要なこと・多くの債務整理方法から選択しなければならないこと・債権者全員を説得する必要があることなど、一人で進めるのが難しいこともおわかり頂けたと思います。

早期に弁護士に依頼すれば、債務整理方法の選択から債権者への説明と交渉まで一連の流れを安心して任せることができます。
経営者保証に関するガイドラインを適切に利用してメリットを感じるためにも、お悩みの際はぜひ一度弁護士に相談してみてください。

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