著作物の利用は、著作権者の承諾を得ておこなうのが原則です。
ただし引用という形であれば、この許諾は不要となり、正当な範囲内で使用できます。
自前のメディアをインターネット上で運営している方は、記事などでこの引用を活用している方も多いでしょう。
しかし、正しく引用の方法を把握していないと、著作権侵害トラブルに発展しかねません。
また引用元の著作者の人格を傷つけるようなことを書けば、著作者の社会的名誉を毀損したとして、民事上、刑事上の責任を問われる可能性もあります。
そこで本記事では、主にWebコンテンツを制作する場合を想定した引用のルール・条件のほか、引用の具体的な書き方について解説します。
Web上での著作権侵害に該当しないケースについても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
▼この記事でわかること
- Web上の引用ルール・条件について解説します
- 引用の書き方・方法について解説します
- Web上で著作権侵害に該当しないケースを解説します
▼こんな方におすすめ
- Webメディアの運営に当たり、正しい引用の方法を知りたい方
- 個人ブログなど、私的なサイトからの引用を検討している方
- 自社のコンテンツが違法な方法で引用されていないか知りたい方
他人の著作物の利用
引用とは、報道、批評、研究その他の引用の目的で、正当な範囲内において、自己の著作物等の中に他人の著作物の一部を取り込んで用いることをいいます(著作権法第32条第1項)。
通常、他人の著作物を著作権者の許可なしに用いた場合には、その著作物の著作権を侵害することになりますが、要件を満たす形で適切に引用する方法により用いた場合には、著作権侵害になりません。
著作権法には、引用の他にも、他人の著作物を著作権者の許可なしに用いる方法がいくつか定められています。
前提として、著作物とはなにかを確認した上で、引用をはじめとして他人の著作物の利用に関する制度の一部を紹介します。
著作物とは
著作物は、著作権法で下記のように定義されています。
第二条第一項 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。 |
すなわち、次の4つの要件を満たすものが著作物となります。
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著作権は著作物について発生する権利ですので、著作物以外のものについては、それを勝手に利用した場合であっても、著作権侵害の問題は発生しません。
例えば、事実、データ、アイディア、ありふれたもの等は著作物ではありません。
Web上の引用ルール・条件
ここでは、Web上にも適用できる引用ルール・条件について解説します。
主な引用ルールと条件は下記の5つです。
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これら5つの条件は、引用する上で必須の条件であり、1つでも満たしていないと違法になるため、留意しておくと良いでしょう。
主従関係が明確である
主従関係を明確にするのは、作品で引用する部分はできる限り抑え、オリジナル部分をメインとするべきという考えを表しています。
他人の著作物が有している財産的価値に只乗りする引用を許さないための要件です。
主従関係は、量だけではなく、質的な点にも着目して判断されますので、主従関係が明確だといえる適切な割合(オリジナル部分が作品に占める割合)は、厳密に定義されていませんが、オリジナル9割、引用1割が適切な割合だといわれることもあります。
ただし短歌や俳句などは、丸々引用しても主従関係が逆転しているとは判断されない場合があるようですので、具体的ケースに応じて検討する必要があります。
引用部分が他とはっきり区別できる
引用部分が他とはっきり区別できることは、引用の要件における明瞭区別性であり、他人の著作物を事故の著作物と混同させないための要件です。
この明瞭区別性は、引用部分を「“”」(引用符)で挟んだり、文字そのものを斜体や太字にしたりして充足させます。
一方、音楽の演奏で他人の作品を引用する際は、プログラムに注記したり、演奏の前後にアナウンスしたりするといった方法が求められます。
公正な慣行・正当な範囲
著作権法第32条第1項に下記のように明記されています。
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。 |
公正な慣行に合致するかどうか、引用の目的条正当な範囲内で行われているかどうかの要件は、曖昧な要件ではありますが、裁判例によっては、目的、効果、利用の態様等を総合的に考慮して要件の該当性を判断するものもあります。
社会通念上又は一般の取引慣行からみて、不正な目的がある場合等には、引用の要件を満たさない可能性があります。
出典元が明記されている
著作物を引用するときは、複製や利用の態様に応じて合理的な方法をとり、著作物の出典を明示しなければなりません。
具体的な著作物の出典の明記の仕方については、後述します。
引用方法
ここからは、具体的な引用の方法について解説します。
上記で解説した通り、引用部分を明確に区別することと、出典を明記することの2点が求められます。
オリジナル資料からの引用や引用部分の区別など、細かい引用のポイントについても解説しているため、ぜひ参考にしてください。
引用のポイント
最後に引用の際に注意すべきポイントについて解説します。
引用のポイントは大別すると、下記の3つです。
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いずれもすぐに実践できるため、試してみてください。
オリジナル資料から引用する
引用は、必ず原典などオリジナル資料から引用するようにしましょう。
引用されている文献をさらに引用することは孫引きと言いますが、引用元の文献や資料の引用方法が誤って入れば、孫引きした自身も違法性が問われるリスクがあるからです。
また、コンテンツの信用度を向上させるには、二次文献よりも、原典などの一次文献を引用する方が良いでしょう。
引用部分を区別する
引用した部分を「“”」(引用符)でくくるなど、引用部分の区別は徹底しましょう。
例えば、論文などの学術レポートでは、引用した文章の文末に(著者名、年号)を記載し、引用部分がどこかわかるようにします。
ブログなどのWebコンテンツでは、文字そのものを斜体にしたり、太文字にしたり、色を変えたりする方法も有効です。
引用元を明示、リンクを貼る
引用する際は、コンテンツの本文に引用元を明示しなければなりません。
例えば、文章コンテンツであれば、文末に参考文献を示すだけでなく、本文中に(著者名、年号)や、後注へとつながる(注)を示す必要があります。
また、Web上のプレスリリースやニュース記事を引用する場合は、引用元の情報を示すだけでは不十分です。
引用したコンテンツを閲覧できるリンクを貼っておくことが重要です。
その他出典の明記等に関する作法
文書を引用する場合の例
公的機関が発行する文書を引用する場合は、文書名や著者、出版元、出版年を、かっこ書きなどによって付記します。
例えば一般的な書籍では、「著者『書籍名』出版元(出版年)、pp.」といった具合で引用します。
作品名を記載するだけでは、書籍のどの部分から引用しているかどうかわからないため、ページ名を「pp.」として表現し、記載します。
また、新聞や週刊誌などの場合には、紙誌名・出版社・発売日などを記載します。
画像・写真を引用する場合の例
画像・写真を引用する場合も、文章を引用する場合と同様です。
インターネット上の論文から画像を引用する場合は、著者名、発表年、論文のタイトルなどを記載するほか、書籍から画像を引用する場合は、著者名や出版年、タイトル、発行所などを明示しなければなりません。
ただ、Webコンテンツを制作する場合は、一定の条件を守れば、自由に作品を利用できるクリエイティブ・コモンズ・ライセンスから画像を引用するケースも多いでしょう。
その場合は、作者名や公表年、タイトル、スポンサーなどに加え、元の作品のURLが必要です。
また、トリミングなど改変した場合は、改変した旨を「Adapted」などの形で記載しなければなりません。
引用以外で転載が許される例
上記のとおり紹介した引用以外の場合において、他人の著作物を利用できるものを紹介します。
著作物の利用には、著作権者の許可が必要ですが、下記のような文書は無断転載が可能になっています。
もっとも、引用と同様に出所を明示する必要があります。
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また、いずれも転載を禁止する旨が記載されている場合は、転載が認められないため、注意が必要です。
転載が許される文書の具体的な内容について、それぞれ解説いたします。
行政機関が公表した広報資料など
広報資料や調査統計資料、報告書など、行政機関が一般に周知する目的で作成された著作物は、新聞や雑誌など、その他の刊行物に無許可で転載することができます。
刊行物は、出版物に限らず、デジタルメディアなど電子媒体に納められた複製物を含みます。
新聞や雑誌に掲載された論説
新聞や雑誌上に掲載して発行された政治上、経済上または社会上の時事問題に関する論説、例えば新聞の社説は、他の新聞や雑誌に転載できます。
ただし、学者や評論家などが時事問題を解説するような記事は、論説に該当しないため、転載はできません。
政治上の演説・裁判上の陳述
著作権法には直接明記されていませんが、公開して行われた政治上の演説や裁判上の陳述は、転載できます。
この時、重要なのは、政治上の演説や裁判手続きが外部に公開されていることと、同一著作者の演説内容のみを編集して利用しないことです。
これらの条件に反すると、違法転載となる可能性があります。
まとめ
あらゆるコンテンツは、自己完結して制作することはできません。
引用や転載などを通じ、他者の知恵や知識を拝借することで、良質なものになるからです。
だからこそ、コンテンツの作り手が盗作などの著作権侵害を侵さぬよう、本記事で紹介したような引用に関するルールが設けられていると言えるでしょう。
これを踏まえ、個人や法人を問わず、コンテンツを作る方々は、本記事を参考に引用のルールを遵守し、良質なアウトプットに励んでいただければ幸いです。
参考:
e-GOV「著作権法」、閲覧日2022年4月16日(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048)
渋谷達紀『著作権法の概要』経済産業調査会(2013年)、pp.147~151
斉藤博『著作権法概論』勁草書房(2014年)、pp.131~132
渡辺弘司(監修)『図解 最新 知的財産権の法律と手続きがわかる事典』三修社(2013年)、pp.156~161、178〜179