相続税の基礎控除とは?計算方法や申告不要の判断基準について解説

離婚・男女問題

この記事の監修

大阪府 / 泉大津市
弁護士法人堀総合法律事務所 和泉支店
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多くの方は、相続が発生するまで相続税を申告した経験はなく、相続税がどのように計算されるのかもよくわからないかと思います。
相続税といえば、一部のお金持ちに課せられる税金というイメージもあるかもしれません。
しかし実は、平成27年の税制改正を機に相続税の課税対象となる方の割合は、それまでの約4%から約10%まで増加し、一気に身近なものになりました。
今回は、そんな相続税の基本的な計算方法を確認したうえで、基礎控除額をどのように算定するか、相続財産をどのように計上するかなどについて、解説します。
相続発生時にも滞りなく対応できるよう、あらかじめ相続税についての知識をつけておきましょう。

この記事でわかること

  • どんな人が相続税の課税対象かについて
  • 基礎控除額の算定方法
  • 相続財産を計上する上で気をつけるべきこと

こんな方におすすめ

  • 近い将来、相続が発生する可能性がある方
  • 配偶者やお子さんへの相続を考えている方
  • 身内に不幸があり、相続問題が発生した方

相続税の計算方法


相続税の基礎控除額について解説する前に、まずは基本となる相続税の計算方法について解説します。
相続税の計算方法は、相続や遺贈等により取得した財産(以下、相続財産といいます。)から基礎控除額を差し引いた金額(課税遺産総額)に対して課税されます。
つまり、基礎控除額を超える財産がある場合に、相続税が課税されるのです。

【相続や遺贈等により取得した財産(相続財産)】−【基礎控除額】=【課税遺産総額】

このように、基礎控除額が少なければ少ないほど課税遺産総額が多くなり、納めるべき相続税が多くなるという関係にあります。
ただし、基礎控除額が相続財産よりも多い場合は、申告・納税をする必要はありません。

相続税の基礎控除額の計算方法


納税者の負担を軽減するため、相続税には相続財産のうち一定の範囲内の金額までは相続税が課されない「基礎控除額」が決められています。
基礎控除額は、相続税法に基づき個々のケースによって変わってきます。
具体的な基礎控除額の計算方法は、相続人の法定相続人の数に600万円をかけて、3,000万円を足し合わせた金額となります。

【3,000万円】+(【600万円】×【法定相続人の数】)=基礎控除額

ちなみに、平成27年の税制改正前は、基礎控除額を「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」で計算していましたので、改正前と改正後とを比べると、基礎控除額が大幅に減ったことがわかります。
国税庁が発表した「令和4年分における相続税の申告事績の概要」によれば、令和4年に相続税の課税対象となった相続が発生した件数は全体の9.6%でした。
平成27年の税制改正まで相続税が課される割合は約4%でしたので、基礎控除額が減額されたことで、件数が一気に倍増したことになります。
税制改正前と比べて、少ない遺産しかない場合であっても申告しなければならないケースが増加したのです。

法定相続人の範囲

上記の計算式には、法定相続人の数に応じて差し引かれる部分があるため、基礎控除額を算定するためには、法定相続人の範囲を知っておく必要があります。
まず、必ず法定相続人に含まれるのは被相続人の配偶者です。
加えて、配偶者以外の法定相続人は、次の優先順位で配偶者と一緒に相続人になります。

第1順位:被相続人の子ども及び孫などの代襲相続人(直系卑属)

被相続人に子どもがいる場合は、子どもが法定相続人になります。
もし、被相続人の子どもが既に死亡している場合は、その子どもの直系卑属(孫など)が法定相続人になります。
なお、実子がいる場合は、実子のほかに養子が複数いても、養子は1人までしか基礎控除の対象になりません(実子がおらず、養子が複数いる場合には、養子は2人まで基礎控除の対象となります)。
このあたりは、民法の規定と異なっているので注意が必要です。

第2順位:被相続人の直系尊属(父母または祖父母など)

第2順位の人は、第1順位の人がいないときに相続人になります。
被相続人に子どもも孫もいない場合は、父母または祖父母などが法定相続人になります。
父母も祖父母もいる場合は、父母の方を優先します。

第3順位:被相続人の兄弟姉妹

第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないときに相続人になります。
被相続人に子どもや孫がおらず、父母または祖父母などもいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。
被相続人の兄弟姉妹が既に死亡している場合は、その子どもが法定相続人となります(兄弟姉妹の場合は、その兄弟姉妹の孫などが相続人になることはありません)。

相続税の基礎控除額を計算する上での注意点


前述したように、そもそも基礎控除額が取得した財産等よりも多い場合、申告・納税をする必要はありません。
ただし対象となる財産を確認する上で見落としやすい点もありますので、「実は申告・納税の対象だった」ということのないよう、特に以下の点にご注意ください。

すべての相続財産を加算する

すべての相続財産を算出するためには、現預金や株式、不動産など個人のすべての財産を把握する必要があります。
近年では、預金口座の紙通帳を発行せずに、すべてインターネット上で管理している場合もあり、遺族が銀行口座の存在に気づかないということもあります。
また、故人が資産家である場合には、遺族が把握している口座以外にも口座を有していることもあり得ますので、金融機関に口座照会を行うことも必要になるでしょう。

他にも計上を忘れやすい財産として、みなし相続財産があります。
みなし相続財産とは、生命保険金や死亡退職金のように、民法上の相続財産ではないものの、相続税を計算する上では相続財産に含める財産のことを指します。
家族には内緒で生命保険をかけていた場合もあるため、故人がこうした書類を持っていないか確認する必要があり、場合によっては保険会社に契約照会を行うことも必要です。

生前贈与加算に係る贈与を加算する

相続開始前3年以内に贈与された財産は、相続財産に加算する必要があります。
この加算を生前贈与加算といいます。
例えば、母親が、亡くなる2年前に息子に800万円を贈与していた場合、その贈与は死亡前3年以内の贈与であるため、相続財産に800万円を加算することになります。
なお、贈与時に支払った贈与税がある場合には、相続時に支払う相続税額からその贈与税額を差し引くことができます。
この生前贈与加算の対象となる人は、相続または遺贈により財産を取得した人になりますので、逆に言えば、相続人以外への贈与は生前贈与加算の対象とならないということになります(もちろん、この贈与を受けた方は贈与税の申告が必要です)。

相続時精算課税制度による贈与を加算する

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子や孫などに対して、最大2,500万円まで財産を無税で贈与することができる制度です。
しかし、贈与者である父母または祖父母などの相続発生時には、相続時精算課税制度で贈与した財産を相続財産に加算しなければなりません。
子や孫などに対する贈与に係る税金の支払いを全く免れることができるわけではなく、税金の支払いを先送りにすることができる制度だと考えてください。

例えば、60歳の母親が、25歳の息子に対して、開業資金として2,000万円を贈与し、相続時精算課税制度を利用していた場合、相続発生時に相続財産に2,000万円を加算することになります。

相続税の申告手続き後に税額控除が発生する場合がある

生前贈与加算と相続時精算課税制度の対象となる贈与を他の相続財産に加算して算出した合計額が、相続税の基礎控除額に満たない場合、相続税の申告・納税は必要ありません。
相続財産の合計額が基礎控除額を超える場合には申告手続きが必要になります。
ただし、申告手続きが必要であるからといって、必ずしも相続税が発生するとは限りません。
相続税では税額控除といって、個々の事情に応じて相続税額から控除されることがあります。
代表的な税額控除の例としては、配偶者がいる場合に控除される配偶者控除や、相続人の中に未成年者がいる場合に控除される未成年者控除などがあり、個々の事情によって税額が軽減されることとなっています。

まとめ


平成27年の税制改正により基礎控除額が減額され、それにより相続税の課税対象となる人が、それまでの2倍程度まで増加しました。
法定相続人は、配偶者がいる場合には配偶者に加え、子どもや孫など、父母や祖父母など、兄弟姉妹などが配偶者とともに相続人となります。
こうして算定された基礎控除額が相続財産を上回る場合には、相続税の申告・納税の必要はありません。

なお、相続財産を算定する上では、死亡前3年以内に贈与した財産や相続時精算課税制度を利用して贈与した財産を含める点などに注意が必要です。
相続財産から基礎控除額を控除しても残額が生じる場合には相続税の申告を行う必要がありますが、税額控除の適用を受けられることもあるため、直ちに相続税が発生するわけではありません。
相続税の申告については複雑なケースが多いため、ご不明な点やご不安な点がある場合には、弁護士や税理士に相談した上で対応すると良いでしょう。

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