SES契約は、システムエンジニアがクライアント企業への常駐派遣をする際に用いられる契約形態のひとつです。
しかしSES契約には一部で「グレー」や「違法」といった声も上がっており、SES契約を導入したくても、違法性があるのか不安に思う方もいるのではないでしょうか。
実際のところSES契約は決して違法な契約形態ではありませんが、誤った法律解釈による「偽装請負」のリスクは存在します。
そこでこの記事では、SES契約の基本知識や偽装請負にならないための注意点を詳しく解説します。
▼この記事でわかること
- SES契約の基礎知識やメリット・デメリットがわかります
- SES契約と派遣契約・請負契約・委任契約の違いを把握できます
- SES契約における偽装請負のリスクや注意点がわかります
▼こんな方におすすめ
- SES契約を検討中のIT開発企業の方
- SES契約に違法性があるのか不安な方
- SES契約と派遣契約や請負契約などの違いを知りたい方
SES契約とは
SES契約とは、ベンダーのシステムエンジニアをクライアントの開発現場に派遣し、技術提供する契約形態を指します。
正しくは、「システムエンジニアリングサービス契約(System Engineering Service)」です。
ベンダーのシステムエンジニアはクライアント企業に常駐し、システム開発やITインフラ環境の構築といった技術的業務を行います。
つまり、SES契約に関わるのは以下の三者です。
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このような関係性により、SES契約は「業務委託」にあたります。
なお「SES契約」を直接定める法律はなく、明確な定義があるわけではありません。
そのためSES契約は、業務委託の中で法律の定めがある「準委任契約」として見なされるケースが一般的です。
SES契約は履行割合型の準委任契約
SES契約が該当する準委任契約とは、「指定した業務の遂行」を約束する契約です。
業務遂行を目的としており、たとえば「アプリケーションの納品」などの成果の完成義務がありません。
ですので、報酬はシステムエンジニアの作業内容に対して生じ、契約期間に応じて支払います。
このような報酬形態を「履行割合型」と呼びます。
また準委任契約では、成果物に不具合がある際に生じる「契約不適合責任」も生じません。
なお、システムエンジニアへの業務の指揮命令権を持つのは、開発現場のクライアントではなくエンジニアを派遣するベンダーです。
なお2020年の4月の改正民法により、民法648条の2(成果等に対する報酬)にて「成果完成型」についても明文化されました。
成果完成型の場合は、契約時に定めた成果を達成した際に報酬が発生します。
SES契約と他の契約形態の違い
SES契約(準委任契約)は、他の契約形態と混同されがちです。
ここでは、間違われることが多い「請負契約」「派遣契約」「委任契約」との違いを解説します。
請負契約とSES契約の違い
請負契約 | SES契約 |
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請負契約には成果物の完成義務があり、基本的に報酬は成果物の完成時に支払われます。
一方のSES契約には、業務上一般的に必要とされる注意を払う「善管注意」義務はあるものの、成果物の完成義務はありません。
なお、成果完成型のSES契約は請負契約に近い形態ですが、成果物の完成義務そのものはない点が異なります。
派遣契約とSES契約の違い
派遣契約 | SES契約 |
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クライアント先が指揮命令権、労務管理を持つ | ベンダーが指揮命令権、労務管理を持つ |
派遣契約の場合は、クライアント先がシステムエンジニアに業務内容の指示、労務管理を行います。
一方のSES契約で業務指示と労務管理を担うのはベンダーであり、クライアントは関与できません。
システムエンジニアが所属しているのはあくまでベンダーであり、クライアントと雇用契約は結んでいないからです。
クライアントがこれらの行為をおこなうと、「偽装請負」となります。
偽装請負の詳細は後述の「SES契約の注意点」で説明しますので、そちらをご参照ください。
SES契約の注意点
SES契約を結ぶ場合は、以下3つの注意点に気をつけましょう。
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それぞれ具体的な理由を解説します。
偽装請負にならないよう管理する
SES契約は、偽装請負にならないよう注意が必要です。
先にお伝えした通り、以下の行為は偽装請負にあたります。
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SES契約と派遣契約は労働形態が似ているため、クライアントが同じ契約だと勘違いしているケースもあります。
SES契約を結ぶ際は、クライアントに指揮命令権や労務管理に関するルールの理解を求めましょう。
偽装請負と判断された場合の罰則
偽装請負は「労働者派遣事業法」や「職業安定法」に違反し、さまざまな罰則が設けられています。
偽装請負と判断されると、業務改善命令や指導などの行政処分が下される可能性があります。
悪質な場合、クライアント・ベンダーのどちらにも次のいずれかの罰則を科せられる恐れがあります。
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これらの罰則による直接的な損害に加え、企業イメージの低下により、顧客からの信用を失うリスクもあります。
クライアント・ベンダーともに多くのダメージを受けるため、偽装請負にあたる労働状況は必ず避けなくてはいけません。
指揮命令系統を守りやすい環境を作る
指揮命令系統を守るためには、クライアントに常駐するのは2人以上が望ましいです。
1人常駐の場合は作業者と管理責任者を兼務する必要があり、システムエンジニアがクライアント側から直接指示を受けてしまうリスクが高くなってしまいます。
また、指揮命令の証拠を残すことが難しく、万一監査があった際に「1人常駐=偽装請負」と判断材料にされてしまう危険性もあります。
クライアントへは2人以上常駐させ、指揮命令系統を守りやすい環境を作りましょう。
社内セキュリティの強化
クライアント側の話になりますが、自社内に他社の社員が常駐するため、社内セキュリティの強化が重要です。
ベンダーのシステムエンジニアが自宅で作業をするためにデータを持ち帰ってしまったり、社内の重要情報にアクセスしたりするかもしれません。
情報漏洩に発展する恐れがあるため、アクセス権限の厳格な管理が必要です。
ベンダー側も、自社エンジニアに対し情報セキュリティ教育を実施すると良いでしょう。
SES契約のメリット
SES契約は法律上の注意点があるものの、メリットも多く存在します。
具体的には、以下のような内容になります。
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詳しく見ていきましょう。
常駐エンジニアを派遣できる
SES契約は、常駐エンジニアを派遣できる点が強みです。
常駐エンジニアを派遣するためには「一般派遣事業」として開業する方法もありますが、許可制であるため少しハードルが高いです。
SES契約は準委任契約ですので、派遣事業として開業する必要がありません。
加えて、IT業界は慢性的な人材不足が続いており、自社でシステムエンジニアを育成するのが困難なクライアント企業も多く存在します。
需要の高い常駐エンジニアを比較的簡単に派遣できる点は、SES契約ならではのメリットと言えるでしょう。
人材管理がしやすい
SES契約は、ベンダーにとってシステムエンジニアの管理がしやすい形態です。
指揮命令権はクライアントではなくベンダーにあるので、システムエンジニアの配置やタスクの割り振りを適切に行えます。
さらに、成果物の完成義務や契約不適合責任がある請負契約と比べ、新人エンジニアが挑戦しやすい環境です。
決していい加減な仕事をしていいわけではありませんが、責任の重い請負契約よりも余裕のある環境で自社エンジニアを育成できます。
SES契約であれば、人材育成を含めた自社エンジニアの柔軟な管理が可能です。
残業を抑制できる
残業を抑制できるのも、SES契約のメリットのひとつです。
システムエンジニアは事前に定めた契約内容にもとづいて働くため、SES契約は残業が発生しづらい仕組みと言えます。
また、残業代を支払うのは当然ながらクライアント側です。
そのため、クライアントもシステムエンジニアに残業をさせないよう、規定通りの労働時間に収める傾向があります。
残業による自社エンジニアの負担を減らせるため、ベンダーにとっても離職率の低下などのさらなるメリットに繋がるでしょう。
SES契約のデメリット
SES契約はメリットばかりでなく、「モチベーション維持の難しさ」や「帰属意識が薄れる」などのデメリットも挙げられます。
なぜそういったデメリットが生じるのか、順番に解説します。
モチベーション維持が難しい
SES契約は成果物を完成する義務がないため、プロジェクトの途中で契約が終了するケースもめずらしくありません。
プロジェクトの完成を見届けられないため、システムエンジニアの中にはやりがいを感じられない人もいるでしょう。
また、SES契約には140時間~180時間のように清算幅が存在しますので、この範囲内であればどれだけ労働時間がかかっても追加の支払いが発生しないことになります。
そのため、クライアントは、この契約時間の上限いっぱいまでSESのエンジニアを働かせることで、自社のコストを抑えようと考える傾向にありますので、長時間労働が常態化することで、エンジニアのモチベーションが低下することもあります。
モチベーションの低下は、退職や成果物のクオリティ低下、勤務態度の悪化を招きかねません。
SES契約に向いているか、システムエンジニアごとに適正を見極めることが大切です。
自社への帰属意識が薄れやすい
SES契約は、クライアント企業に常駐して業務を行うため自社への帰属意識が薄れやすいです。
契約期間中はクライアント企業へ通勤し、用事がない限り自社へは立ち寄りません。
プロジェクトごとに出向メンバーも変わると、自社社員と深い繋がりを保つのは困難です。
帰属意識の薄さは転職に繋がるため、出向中のシステムエンジニアに対し自社社員が積極的に関わる必要があるでしょう。
まとめ
SES契約に違法性はなく、クライアントに自社エンジニアの常駐派遣が可能な需要の高い仕組みです。
ただし、指揮命令権や労務管理をクライアントが行うと、偽装請負となるリスクがあります。
自社エンジニアを出向させる場合は、SES契約のルールをクライアントに理解してもらうことが重要です。
法令を遵守してSES契約を進めれば、自社人材の管理や残業抑制といったメリットを得られるでしょう。