「税務調査」というと、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。
「税務調査」という言葉は聞いたことがあるけれど、「実際にはどのようなことが行われるのかわからない」、「どのように準備すればよいかわからない」と不安に感じられる方も多いのではないでしょうか。
そして、税務調査がどのようなものかを知らないままにしておくと、ある日、税務調査が入って、予想外に多額の追徴課税を受けることになってしまうかもしれません。
この記事では、税務調査の流れや確認すべきポイントについて解説します。
正しい知識を得て、普段からしっかりと準備しておけば、税務調査を恐れる必要はありません。
税務調査とは
税務調査とは、納税者(企業、個人事業主など)が行った確定申告の内容に誤りや不正がないかを国税局や税務署の調査官が確認するために事業所などに臨場して質問や検査を行う一連の行為をいいます(調査通達1-1(1)参照)。
法人税や所得税などは、申告納税制度といって、企業や個人事業主が自らの責任で確定申告を行う制度が採用されています。
そこで、企業や個人事業主が計算した税額に誤りや不正がないかを国税局や税務署が事後的にチェックするために税務調査が行われます。
実際の税務調査では、調査官が代表者や担当者に質問したり、帳簿書類を検査したり、取引先に事実の確認を行ったりする(これを「反面調査」といいます。)など、確定申告書の内容が正しいか否かをチェックするためにあらゆる方法で情報収集が行われます。
なお、何をどこまで調べるかなどの調べ方は調査官の裁量によります。
税務調査が行われやすい時期は8月~12月
税務調査は8月から12月の時期が最も多いと言われますが、これは税務署の異動期と関係があります。
通常の会社であれば4月に異動することが多いと思いますが、税務署の異動期は毎年7月10日となっており、7月に異動した職員が異動先で調査を始めるために動き始めるのが7月中旬以降だからです。
また、日本では3月決算の法人が多いことも理由の一つです。
3月決算の法人は、5月末(又は6月末)に確定申告期限を迎えることになるため、確定申告書の情報が課税部門に回付された後の6~7月頃から税務調査の選定対象となるためです。
税務調査の法人実調率は約3%
国税庁の資料によると、税務調査が入る確率(実調率)は法人で3.2%、個人で1.1%とされています(「税務行政の現状と課題」(平成30年1月24日、国税庁)参照)。
一般的に税務調査がくる確率は、法人であれば約30年に1回というかなり低い確率ですので、税務調査が来ない事業所のほうが多いといえます(なお、過去に非違行為があったケースでは数年に1回程度の確率になることが多いです。)。
なお、令和3年度の法人実調率は1.3%と低下していますが、追徴税額は高い水準を維持していることから、否認事項や不正が多く見込まれる業種や事業者をデータ分析により選定して、より集中的・効率的に調査が行われるような傾向にあると言えます。
なお、反面調査は実調率の対象には含まれていません。
相続税の税務調査について
法人税や所得税の調査と異なり、相続税の調査の場合は、多くが相続税の申告書を提出した1~2年後の8月~11月頃に行われます。
また、法人税や所得税と異なり、相続税の税務調査は、相続税の申告書を提出した人(被相続人ベース)のうち約5%が実地の調査を受けています(簡易な接触も含めると15%になります。)。
さらに、実地の調査を受けたケースのうち約85%以上が申告漏れなどの何らかの指摘を受けたとされています。
(「令和4事務年度における相続税の調査等の状況」(令和5年12月、国税庁)参照)
税務調査の種類
税務調査には、「任意調査」と「強制調査」の2種類があります。
通常、企業や個人事業主に対して行われる税務調査は任意調査であることがほとんどです。
任意調査とは
一般に税務署の行う税務調査は「任意調査」であると言われます。
しかしながら、「任意」だから拒否してもよいかというとそうではありません。
調査官の質問に答えなかったり、嘘をついたりするなど調査を拒否した場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(国税通則法128条2号)。
このような意味で、税務調査は「間接強制を伴った任意調査である」と説明されます。
強制調査とは
強制調査としては、悪質な脱税を発見して検察官に告発するために行われる犯則調査があります。
犯則調査は、国税局査察部が実施し、任意の質問、検査にとどまらず、裁判所の令状による強制的な捜索、差押えなどを行います。
検察官に告発されると、刑事事件として逮捕・勾留や起訴され、公判を経て罰金刑や懲役刑が科されることがあります。
新聞やニュースで「会社の社長が脱税の容疑で逮捕されました。」という報道に接したことがある方も多いと思いますが、これは犯則調査のケースです。
税務調査の流れと対策
税務調査(任意調査)の一般的な流れを説明します。
税務署からの事前通知
まず、税務調査を実施する2~3週間前に税務署から電話か文書で税務調査の日時の連絡があります。
なお、顧問税理士が確定申告を行っている場合(かつ、税務代理権限証書に納税者の同意がある場合)は、顧問税理士宛てに連絡があります。
事前通知では、以下の事項を通知することとされています(国税通則法74条の9第1項)。
- 実地の調査を開始する日時
- 調査を行う場所
- 調査の目的
- 調査の対象となる税目
- 調査の対象となる期間
- 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
- その他調査の適正かつ円滑な実施に必要な一定の事項
日程調整
事前通知があった場合、税務署から提示された日時で応じなければならないかというと、必ずしもそうではありません。
納税者側の都合もあるので、調査官と日程の調整を行います。
税務調査があると、最低でも1~2日間は拘束されてしまうので、繁忙期は避けるようにしましょう。
また、顧問税理士や弁護士に立会いを依頼する場合は、顧問税理士や弁護士の予定も確認する必要があります。
なお、一度調査日を決定してしまうと、あとから変更しようと思った場合、「合理的な理由」が求められますので、仕事への支障の有無をよく考えてから決定したほうがよいでしょう(調査通達5-6)。
必要書類の準備
実地調査の日時が決まれば、当日までに必要書類や資料を準備し、内容をしっかりと確認しておきましょう。
また、顧問税理士や弁護士に立会いを依頼する場合は、税務調査前に打合せをして、当日どのようなことを聞かれそうか、どのように答えればよいか、調査官と見解に相違がありそうな事項はあるか、どのように対応するかなどについて、アドバイスをもらいながらシミュレーションをしておくとよいでしょう。
なお、令和6年1月以降、電子帳簿保存法の関係で、インターネット取引に係る書類などは電子保存しておく義務があるため、この段階でちゃんと電子保存されているか、逆に紙で保存しておくべき書類が印刷されているかも確認しておくとよいでしょう。
調査当日
調査当日は、調査官が事業所にやってきます。
まずは事業の概要について聞かれます。
次に、事前に用意するよう伝えられていた書類や資料の提示を求められます。
そして、調査官が書類や資料を確認しながら、疑問に思った点などについて聞き取り調査を行います。
話の流れで追加の資料の提示やパソコンの画面でデータの確認を求められることもあります。
ひととおり確認が終わると、調査官が必要な書類やその場で確認できなかった書類などを預かって庁舎に持って帰ります。これを「留置き」(とめおき)といいます。
留置きされた書類はすぐにコピーを取って返却されることが多いですが、なかにはすぐには返してもらえないケースもあるため、帳簿、領収書や請求書、契約書、労務関連など、留置きされて困る書類は事前にコピーしておいたほうがよいでしょう。
調査結果の連絡
調査が終わると、調査官から調査結果の連絡があります。
調査の結果、誤りがないと認められる場合は「申告是認」といって是認通知が送られてきます(国税通則法74条の11第1項)。
他方、調査の結果、誤り(否認事項)が認められた場合、調査官がその調査結果の内容(誤りがあった金額とその理由)の説明を行います(国税通則法74条の11第2項)。
再調査
一旦、調査が終了し、是認通知がされた後、調査結果の説明により納税義務者から修正申告書・期限後申告書が提出された後若しくは更正決定等がされた後において、新たに得られた情報に照らして非違があると認められるときは、調査官は、納税義務者に対して再び質問検査等を行うことができます(国税通則法74条の11第5項)。
これを「再調査」といいます(なお、税務署長による更正決定等に対する不服申立てとしての再調査の請求とは異なるので、ご注意ください。)。
何年前まで遡って調査される?
通常の税務調査では過去3年分が調査対象期間とされることが多いです。
ただし、調査中に非違が疑われるなどした場合は5年前まで遡って調査対象となることがあります。
なお、当初の調査対象期間を3年としていた場合に、調査の途中から5年遡って調査対象期間に含めることについては、国税通則法上、改めての事前通知は要求されていません。
この点について、調査官との間で、改めて事前通知がされていないといってトラブルとなっているケースを目にすることがありますが、そもそも事前通知は不要ですので、ご注意ください。
さらに、「偽りその他不正の行為」によって税金を免れていたような場合は、7年前まで遡って調査対象期間に含めることができます(国税通則法70条5項)。
税務調査中の会話を録音できる?
税務調査中の会話を備忘や言った、言わないで揉めないための証拠として残しておくために録音を検討する方もおられるでしょう。
そこで、調査官に対して録音の許可を求めたとしても、おそらく「守秘義務」の問題(録音された会話が第三者に漏洩するなど)があるので許可は得られないでしょう。
しかしながら、税務調査中の会話を録音すること自体は、これを禁止する法律はなく、違法ではありません。
その後の裁判などでも証拠能力が認められます。
もっとも、録音を調査官に申し出て拒否されたからといって、録音に応じるまでは調査に協力しないという態度をとると、調査拒否として青色申告の承認取消処分などの不利益を受けることがあります。
税務調査の対象になりやすいケース
税務調査の対象になりやすいと言われているのは、以下のようなケースです。
ただし、以下に当てはまらなければ税務調査の対象にならないというわけではありません。
また、一般的に「いつ、いくらから税務調査の対象になるか」ということについて、「開業後3年」、「売上1000万円以上」と言われることもありますが、具体的に「いつ」「いくらから」が対象になるという明確な基準はありません。
さらに、赤字だからといって税務調査が来ないとも限りません。
赤字でも発生する税目(消費税、源泉所得税、印紙税)はありますし、正しく還付申告がされているかを調査されることもあります。
法人
- 事業規模が大きく、売上や利益が大きい
- 売上や利益の変動幅が大きい
- 黒字から赤字になった
- 不正発見の割合が高いとされる業種である(飲食業、廃棄物処理業、中古品小売業、土木工事業、医療保険業、管工業、自動車・自転車小売業、美容業など)
(「令和4事務年度 法人等の調査事績の概要」(令和5年11月、国税庁)参照) - 過去に税務調査で誤りや不正を指摘されている
- 海外取引が多い事業である
個人事業主
- そもそも確定申告をしていない(無申告)
- 申告売上額が1000万円をわずかに下回る(900万円台)
- 売上が大きく増加している
- 売上に対して経費の割合が高い
- 申告漏れ所得金額が高額とされる業種である(経営コンサルタント、くず金卸売業、ブリーダー、焼肉、タイル工事、太陽光発電、バー、電気通信工事など)
(「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和5年11月、国税庁)参照) - 輸出取引が中心である
- 取引に関与している事業者(仲介者)が複数存在する(紹介料名目の支払いが多いなど)
相続
- 申告書に不備がある
- 税理士に依頼せず、自分で相続税申告書を作成した
- そもそも申告していない(無申告)
- 遺産の額が多く、相続税額が高額である
- 金融資産が多い
- 名義預金が疑われる
- 相続開始直前に大きな金額の移動があった
- 海外資産が多い
税務調査で指摘を受けたときの対処法
税務調査の結果、誤り(否認事項)を指摘された場合、修正申告を行うか否かを検討することになります。
税務署の指摘に納得がいかない場合は、修正申告を行うことなく、更正処分等に対して不服申立て(再調査の請求、審査請求)、税務訴訟を行うことになります。
なお、当初の申告で税額を多く申告していた場合は、更正の請求という手続きを行います。
修正申告
修正申告とは、当初の確定申告書の内容が誤っていたことを認めて、正しい内容に修正する手続きのことです。
すなわち、税額が増えることになるため、追加で増加分の税額を納付する必要があり、また、納期限を過ぎているため延滞税も併せて支払う必要があります。
さらに、上記に加えて、税額を少なく申告していたペナルティーとして過少申告加算税(10%、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分については15%)が課せられます(無申告の場合は無申告加算税(15%、50万円を超える部分については20%))。
なお、否認事項について、隠蔽又は仮装が認められた場合には、過少申告加算税(又は無申告加算税)に代えて重加算税(35%又は40%)というより重いペナルティーが課せられることがあります。
修正申告をした場合は不服申立てができなくなるため、修正申告に応じるか否かは慎重に判断したほうがよいでしょう(なお、修正申告をした場合でも更正の請求は可能です。国税通則法74条の11第3項)。
更正の請求
税務調査の結果、当初の確定申告で税額を多く申告していたことが判明した場合は、当初の申告額を減額する必要があるため、更正の請求という手続きを行います。
そして、税務署長が更正の請求に理由があると判断した場合は、既に納付した税金が還付されます。
なお、税務調査の結果、更正の請求をするということは通常はありません。
弁護士を探すならココナラ法律相談へ
税務調査に強い弁護士を探すなら、「ココナラ法律相談」をご活用ください。
インターネット上で地域や分野などの条件から弁護士を絞り込み検索できるため、ご自身にぴったりな弁護士をすばやく見つけ出せます。
さらに、ココナラ法律相談は「法律Q&A」も提供しています。
法律Q&Aは、弁護士への相談内容を無料で投稿できるサービスです。
「そもそも弁護士に相談すべき問題なのかわからない」とお悩みであれば、まずはお気軽に法律Q&Aで弁護士へ相談してみてください。
まとめ
この記事では、税務調査の流れや確認すべきポイントについて解説しました。
とりわけ、ある日、突然、税務調査がやってくるわけではなく、事前に通知があって日程調整することができること、必要な書類を準備する時間もあることがお分かりいただけたと思います。
しかし、税務調査が入った場合、書類の準備や調査当日の対応、その後も調査官の質問への対応を行わなければならないなど、本業と同時並行で対応しなければなりません。
税務調査を乗り切るためには、普段からちゃんとした帳簿書類を作成しておくこと、請求書や領収書、契約書などを整理して保存しておくことなどの対応を心がけて、いつ税務調査が来ても大丈夫なように準備しておくことが肝要です。
それでも税務調査に不安がある方は、税務に詳しい弁護士への依頼を検討されることをおすすめします。
法律の解釈、事実認定、交渉のプロである弁護士が、不当な課税から納税者の権利・利益を守るお手伝いをさせていただきます。
また、この記事では詳しく触れませんでしたが、査察による犯則調査では刑事事件に対応できる弁護士による刑事弁護活動が必要不可欠となります。