離婚時に父親が親権獲得を有利にするには?獲得しにくい理由と重要な判断基準

離婚・男女問題

この記事の監修

大阪府 / 大阪市西区
弁護士法人かがりび綜合法律事務所
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夫婦が離婚すると、多くの家庭では母親が親権を獲得することになります。
しかし父親も子どもの親であることに変わりないため、「親権を獲得したい」という思いを持つ方も多くいらっしゃるでしょう。
事実として、離婚に至るまでの育児への取り組み方や現在の子どもの養育状況によって、父親が親権を獲得する可能性は十分にありえます。
そこで本記事では、父親が親権を獲得するためのポイントや親権を得られなかったときの手段まで解説します。

▼この記事でわかること

  • 父親が親権を獲得するためのポイントを解説します
  • 父親がそもそも親権を獲得しにくい理由がわかります
  • 親権を獲得できなかった場合の手段を紹介します

▼こんな方におすすめ

  • 父親が親権を獲得するポイントを知りたい方
  • そもそも親権や親権の決め方について知りたい方
  • 離婚を考えており、親権について悩んでいる方

親権とは


父親の親権獲得について解説する前に、そもそも親権とは何かについて解説します。
親権とは、子どもに対する「身上監護権」と「財産管理権」の2つからなる権利および義務です。
身上監護権は、子どもの世話や保護、教育を受けさせるといった権利を指し、財産管理権は、文字通り子どもの財産を親権者が管理する権利です。
どちらも権利ではありますが、社会的に未熟な子どもを養育する「義務」の側面も強いことは忘れてはいけない点です。

そして、親権は民法第818条にて「成年に達しない子は、父母の親権に服する」と定められています。
しかし、父母が離婚した場合には、どちらか一方を親権者として定めなければいけない旨が民法第819条にて規定されています。
つまり、成年に達しない子どもは、両親が離婚したとしても父母どちらかの親権に服するわけです。

親権者の決め方

それでは、父母(夫婦)が離婚した場合にどのように親権者を決めるのでしょうか。
主に以下の流れで父母のどちらを親権者とするか、協議が行われます。

  1. 離婚時に父母(夫婦)間で話し合う
  2. 離婚調停で争う
  3. 離婚裁判で争う

まずは、父母間での話し合いによって親権者を決めます。
しかし、父母のどちらも親権を希望する場合、当事者間の話し合いでは決まらないことも少なくありません。
話し合いで決まらない場合、次に行われるのが家庭裁判所への離婚調停の申し立てです。
離婚調停は厳密には「夫婦関係調整調停」と言い、調停委員が双方の主張を聞き取ります。
さらには、家庭裁判所調査官が必要に応じて調査も行った上で、調停委員が親権者を選択して解決方法が提案されます。
提案内容に双方納得して合意できれば良いのですが、そうならないケースもあるでしょう。
合意に至らなかったり父母の一方が調停に出席しなかったりすると、離婚訴訟へと進むことになります。
最後は離婚裁判にて双方の主張が争われ、父母のどちらに親権を帰属するかが裁判所によって判断されます。

父親が親権獲得した事例は少ない

親権について調停や裁判で争うケースはありますが、実際に父親が親権を獲得した事例は少ないです。
事例の少なさを示す証拠として、「令和3年司法統計年報3 家事編」が参考になります(※1)。
本資料内には、離婚調停または裁判によって親権者が父母のどちらになったかが記載されています。
令和3年は約19,915件の調停および裁判があるうち、父親が親権を獲得した件数はたったの1,795件です。
つまり、全体の9割以上は母親が親権を獲得しているわけです。

※1 参照:最高裁判所事務総局「令和3年司法統計年報3 家事編 第23表

父親が親権を獲得しにくい理由


離婚調停や離婚裁判を行っても、ほとんどのケースで母親に親権が帰属しています。
それでは、なぜ父親が親権を獲得しにいくのでしょうか。
主な理由に以下の3つがあります。

  1. 父親が常勤であることが多い
  2. 子どもが母親を選ぶ傾向がある
  3. 「母親が親権者」になる例が多い

ひとつずつ解説していきます。

父親が常勤であることが多い

父親が親権を獲得しにくい理由のひとつに、常勤であることが挙げられます。
一般的な傾向として、父(男性)側が常勤で仕事をしており、母(女性)側が主に家事や育児を担当しているという家庭は少なくないでしょう。
離婚の調停や裁判では、子どもの養育環境が親権の帰属を判断するにあたって大きな要素となります。
たとえば、保育園に通っている幼い子どもがいたとして、父親が毎日遅くまで働いているのであれば、保育園へのお迎えに間に合うのかなど現実的な問題があります。
さらには、母親側に育児を任せきりだった場合、父親が親権を持ったとしてもそもそも適切な育児ができるのかといった懸念も出てくるでしょう。
そのため、身上監護権にもある子どもの世話の観点において、「常勤の父親側では十分に子どもを養育できないのではないか」と判断されてしまう可能性が高くなります。

子どもが母親を選ぶ傾向がある

子どもが母親を選ぶ傾向があることも、父親が親権を獲得しにくい理由のひとつです。
前述の通り、一般的な家庭の傾向では、父親が常勤で働いて、母親が家事・育児を主に担当しています。
仕事の忙しさにもよりますが、必然的に父親よりも母親のほうが家にいて子どもと接する時間が長くなります。
接する時間が長い分、母親に対して愛情や信頼を抱きやすくなる子どもは多いでしょう。
結果として、両親の離婚時に子ども自身が母親についていくことを選択するわけです。

「母親が親権者」になる事例が多い

過去の事例において「母親が親権者」になる例が多い点も、父親が親権を獲得しにくい理由と言えるでしょう。
「令和3年司法統計年報3 家事編」にもある通り、調停や裁判の9割以上は母親が親権者となっています(※1)。
過去の事例を裁判官が参考にした場合、母親に親権を帰属すべきとの考えを抱いたとしても不思議ではありません。
過去の事例を参考にせずとも、一般的な家庭の傾向から「常勤で働く父親が仕事と子育ての両立は難しい」と先入観を持っている可能性もあるでしょう。
こうした過去の事例などの情報により、父親が親権を獲得しにくくなっている側面もあると言えます。

※1 参照:最高裁判所事務総局「令和3年司法統計年報3 家事編 第23表

父親の親権獲得を有利にする判断基準


父親側が親権を獲得しにくいとはいえ、決して親権を獲得できないわけではありません。
実際に過去の事例でも、父親が親権を獲得したケースはあります。
ここでは、父親の親権獲得を有利にする上で、裁判所が親権者を決める際の判断基準を紹介します。

重視すべきは子どもの希望

まず第一に、重視すべきは「子どもの希望」です。
結局は子どもが父母のどちらについていきたいと考えるかが重要です。
そのためには、日常から子どもとよく接して信頼関係を築いている必要があります。
前提として、子どもの意思が重視される度合いは年齢によって変わるとされています。
子どもが15歳以上の場合、子ども自身の意思が尊重されやすいようです。
15歳以上ともなれば、自我や考え、価値観が確立されてきていると考えられるためです。
なお、15歳以上の子どもに聴取することは、家事事件手続法の第169条にも定められています。
一方で15歳より下の年齢でも、10歳前後であれば子どもの意思を参考にしているようです。

いずれにしても、子どもが父母のどちらと暮らしたいと思っているかは、親権者について話し合う上で重要です。
仮に子どもが母親についていきたいと思っているのに、無理に父親が親権を取ることは子どもの幸せにつながるでしょうか。
子どもの幸せを考えるのであれば、第一に子どもの希望を重視すべきことは自明の理です。
ですので、父親が子どもの親権を獲得したいと思っているなら、常日頃から子どもと信頼関係を築いていかなければいけません。

母性優先の原則

父親が親権を獲得するためには、「母性優先の原則」を考える必要があります。
母性優先の原則とは、子どもが健全に成長するためには母性的な看護養育が欠かせないとする考えです。
0〜5歳くらいの乳幼児は母性的な看護養育、つまりは細やかな寄り添った養育が必要です。
具体的には、食事やお風呂、トイレの世話、着替え、日々のスキンシップが挙げられます。
要するに、日常的な身の回りの世話全般を指します。
ここでポイントとなるのは、母性優先とは決して母親を指しているわけではないことです。
父親が例に挙げたような世話を日々行っていれば、それは母性的な看護養育の実施とみなされる可能性が高いでしょう。
逆を言えば、子どもの世話を母親に丸投げしているようであれば、父親の親権獲得においては非常に不利に働きます。

監護継続性の原則

離婚前に妻のみが家を出て別居しているのであれば、「監護継続性の原則」が父親の親権獲得にあたって有利に働くかもしれません。
看護継続性の原則とは、子どもが今いる環境をなるべく変えないようにするとの考えです。
たとえば、離婚によって子どもが転校することになれば、環境の変化はもちろん友達との別れなど強いストレスが発生します。
こうしたストレスは子どもにとって悪影響となるため、子どもの生活環境は変わらないことが望ましいとされています。
ですので、別居時に子どもを父親が引き取って、離婚時点ですでに十分な養育実績があれば父親に親権が帰属する可能性が高まるでしょう。

兄弟姉妹不分離の原則

子どもが複数にいる家庭では、「兄弟姉妹不分離の原則」が参考になります。
兄弟姉妹不分離は、子どもが健全に育つ上で兄弟・姉妹は一緒にいたほうが良いとする考えです。
それゆえ、子どもが複数人いるのであれば、全員をまとめて世話できる親は親権者に値する環境があると判断されやすいでしょう。
兄弟姉妹不分離の原則に従って親権獲得を有利にするなら、周囲のサポートを受けることで子ども全員をしっかり養育できると主張するべきです。
父親が働きながらでも、両親など周囲の人間から継続的な協力を得られる環境があれば、なおさら親権獲得においてプラスになります。

監護体制の優劣

「監護体制の優劣」も、父親が親権を獲得するために考えておくべき要素です。
監護体制とは、子どもの養育環境のことを言います。
つまり、父母のどちらが親権者となるにせよ、子どもの養育環境がより良いほうが望ましいとする考えです。
養育環境の良し悪しは、経済面だけでなく住居や養育体制、さらには教育の観点など総合的に判断されます。
ただし、経済面は養育費があるため、監護体制の優劣においてはそこまで重視されないようです。
それゆえ、父親が子どもを十分に養っていけるほどの経済的余裕があるからと言って、必ずしも親権獲得で有利になるわけではない点に注意しましょう。

面会交流に関する寛容性の原則

父親が親権を獲得したいと思うのであれば、母親との面会には寛容でありましょう。
これは「面会交流に関する寛容性の原則」に基づいています。
本原則は、親権を獲得しなかった親と子の面会に対して、寛容かつ協力的な親を親権者にすべきとの考えです。
離婚時に調停や裁判に至っている場合、父母の関係が非常に悪化していることが考えられます。
仮に親権を獲得したとしても、相手方に子を会わせたくないと思うかもしれません。
だからといって、面会に対して否定的な態度を見せてしまうと親権獲得において不利になります。
親権を得たいのであれば、なるべく面会交流については協力的な姿勢を見せましょう。
ただし、相手が子どもを虐待していたといった事情があれば、面会を拒否する正当な理由となります。

母親の監護能力への問題点

母親の監護能力に問題があれば、父親に親権が帰属する可能性が非常に高まります。
問題点とは、具体的に以下のような例が挙げられます。

  • 母親が子どもを虐待している
  • 母親が育児放棄している
  • 母親が子どもを置いて家出した

虐待には、殴る・蹴るといった身体的虐待はもちろん、暴言を吐いたり罵声を浴びせたりする心理的虐待も含まれます。
育児放棄はネグレクトとも言い、該当する行為としては「食事を与えない」がわかりやすい例でしょう。
その他、「お風呂に入れない」や「ずっと同じ服を着せる」、さらには「学校へ行かせない」も育児放棄に該当します。
なお、母親が子どもを置いて家出した場合も、育児放棄とみなされます。
例に挙げた行為を母親が行っていた場合、監護能力に問題があると判断されるでしょう。
結果として、父親が親権を獲得することにつながります。

夫婦関係を破綻させた責任は親権とは無関係

母親の監護能力に問題があれば、父親が親権を獲得しやすくなりますが、夫婦関係の破綻原因と監護能力は無関係であることに注意が必要です。
たとえば、妻の浮気が原因で離婚になったとしましょう。
夫としては「妻の浮気が原因で離婚になったのだから、親権は自分が取る!」と主張したいかもしれません。
ですが、親権において問われる点は、子どもに対する監護能力です。
妻が浮気していても、十分に育児を行っていれば監護能力は問題ないとされるでしょう。
ただし、妻が浮気相手との不貞行為に夢中で、子どもを放ったらかしにしていれば監護能力に問題ありと判断される可能性が高くなります。

親権が得られなかったときにとれる手段


親権者を決める際の判断基準を踏まえて行動しても、親権を取れないケースはあるでしょう。
もし親権を得られなかったときには、以下2つの手段があります。

  • 面会交流権を行使する
  • 親権者変更調停を申し立てる

親権を獲得できなかった場合に備えて、ぜひ参考にしてみてください。

面会交流権を行使する

親権を得られなかった場合は、「面会交流権」を行使しましょう。
面会交流権とは、民法第766条で定められている権利です。
親子の面会および交流、子どもの監護に必要な費用の分担などの事項を協議で定めることが規定されています。
つまり、親権を獲得できなかったとしても、面会交流権を行使することで子どもと会えるわけです。
なお、子どもとの面会における条件(交流回数など)は協議によって決めます。
もし父母間の協議で条件が折り合わないときは、民法第766条2項にある通り家庭裁判所が決めることとなります。

親権者変更調停を申し立てる

やはり親権を得たいと考える場合は、家庭裁判所に「親権者変更調停」を申し立てましょう。
親権が母親に決まった後でも、親権者変更調停によって親権者の変更が認められる可能性があります。
ただし、親権者の変更は子どもの養育環境が大きく変わることが予想され、よほどの事情がない限り親権者の変更は認められないでしょう。
具体例としては、母親による虐待や育児放棄、もしくは子どもによる親権者変更の希望が挙げられます。
なお、親権者の変更は、当事者である父母間の合意のみでは認められません。
必ず家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所調査官による判断に委ねる必要があります。

親権の有無に関わらず扶養義務はある


親権を得られなかったとしても、親は子に対して扶養義務を持ちます。
そのため、親権が得られなかった側の親は扶養義務に従って、養育費を支払わなければいけません。
養育費とは、子どもが健全に育ち、社会的にも経済的にも自立するまでにかかる生活費の全般を指します。
ちなみに、扶養義務および養育費の支払いにおいて、収入の多寡は関係ありません。
仮に親権を得た父親より母親の収入が少なかったとしても、扶養義務はなくならず養育費の支払いも発生します。
ただ、養育費の金額自体は、当事者間の協議で決めることが可能です。
協議で決まらない場合は、離婚や親権者変更と同様に家庭裁判所へ「養育費請求調停」を申し立てることになります。

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まとめ


夫婦が離婚した際、親権は母親が獲得するケースが非常に多いです。
とはいえ、父親が親権を獲得できないわけではありません。
これまでの育児への取り組み方、子どもとの信頼関係、母親の監護能力によっては、父親が親権者になるべきだと判断されるかもしれません。
今現在、夫婦関係が破綻しそうだったり、子どもの親権について話し合ったりしているのであれば、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
親権獲得に向けたアドバイスやサポートが期待できるでしょう。

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大阪府 / 大阪市西区
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