国税局の査察調査の流れと適切な対応とは?税務調査との違いについても解説

企業法務

この記事の監修

大阪府 / 大阪市北区
堀田法律特許税務事務所
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脱税は犯罪です。
税金を免れるために虚偽の申告を行うと、脱税犯として逮捕されるリスクがあります。
また、税務署から税務調査の連絡があると、「もし脱税だと指摘されると、逮捕されてしまうのではないか」と不安に思われる方も少なくありません。
しかし、一般的には税務署の税務調査で否認事項の指摘を受けただけでは逮捕されることはありません。
では、脱税で逮捕されてしまうのはどのようなケースでしょうか。
この記事では、査察調査の概要、調査の流れ、そしてその対応方法について詳しく解説します。
さらに、多くの方が混同しがちな税務調査と査察調査の違いについても解説します。

税務調査と査察調査の違い


税務調査には、主に税務署が行う「税務調査」と国税局査察部が行う「査察調査」の2つがあります。
両者は、同じ国税通則法に基づく調査手続きではあるものの、その目的や手続きは全く異なります。

税務調査

税務署が行う税務調査は、適正な課税を行うこと、すなわち、納税者の申告に誤りがあった場合の申告額の更正等を目的として行われます。
具体的には、国税通則法第7章の2≪国税の調査≫を根拠として、税務署等の職員が質問検査権に基づいて質問や帳簿書類等の検査を行います。
一般に税務署の行う税務調査は「任意調査」であると言われます。
しかしながら、「任意」だから拒否してもよいかというとそうではありません。
国税調査官(注)の質問に答えなかったり、嘘をついたりするなど調査を拒否した場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(国税通則法128条2号)。
このような意味で、税務調査は「間接強制を伴った任意調査である」と説明されます。

(注)国税調査官、国税査察官、国税徴収官の違いについて(国税専門官に関するQ&A|国税庁より。)。
これらは国税専門官の職名で、主に次のような仕事に従事します。

国税調査官 納税義務者である個人や会社等を訪れて、適正な申告が行われているかどうかの調査・検査を行うとともに、申告に関する指導などを行います。
国税査察官 裁判官から許可状を得て、悪質な脱税者に対して捜索・差押等の強制調査を行い、刑事罰を求めるため告発します。
国税徴収官 定められた納期限までに納付されない税金の督促や滞納処分を行うとともに、納税に関する指導などを行います。

査察調査

査察調査は、国税局査察部(通称「マルサ」)所属の国税査察官が、脱税事件として検察官に告発して刑事訴追を求めることを目的として行われます。
刑事事件としての立件を目的としている点で、申告の誤りの是正等を目的とする税務調査とは目的が異なります。
租税犯罪(以下、査察調査の対象となる租税犯罪を「犯則」といいます。)があった場合は、早期に徹底した調査を行わなければ犯則事実の把握が困難となるため、通常の税務調査とは異なり、国税査察官には任意の質問検査権に加え、裁判所の令状による強制調査が認められています。
具体的には、国税査察官は、脱税の疑いがある納税者(犯則嫌疑者)について、本人や取引先等の関係者に質問し、それらの者が所持する帳簿・書類、物件等を検査し、任意に提出された物件を領置することができます。
また、裁判官が発布する許可状(令状)により住居、工場、事務所等を臨検(五官の作用によって知覚実験することをいいます。)、捜索し、帳簿・書類や各種の物件を差し押さえる、いわゆる強制調査を行う権限(犯則調査権限)が与えられています。
従前は国税犯則取締法を根拠として査察調査が行われてきましたが、平成29年度税制改正により、平成30年4月1日以降、国税犯則調査手続は国税通則法第11章≪犯則事件の調査及び処分≫に編入され、国税犯則取締法は廃止されました。
現在は国税通則法第11章の規定を根拠として査察調査が行われています。

最近の告発事例


国税庁では、以下のような事案を重点事案として積極的に調査を行っています(国税庁「令和5年度 査察の概要」より。)。

消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した
不正受還付事案

告発された事例:
同一の高級腕時計のシリアルナンバーや不正に入手したパスポートの写しを用いて書類を偽造することで、架空の課税仕入れ及び架空の輸出免税売上を計上していた事案。

無申告事案

告発された事例:
アフィリエイト事業により収入を得ていたにもかかわらず、虚偽のコンサルティング契約書を準備するなどして所得を隠匿した上で、法人税の確定申告書を提出しないまま法定納期限を徒過させ、法人税を免れていた事案。

国際事案

告発された事例:
虚偽の株式譲渡契約書を作成して、自己が所有する未公開株式を自らが主宰する海外法人へ譲渡したと装い、未公開株式の譲渡収入の一部を海外法人の収入であるとして、所得税を免れていた事案。

社会的波及効果の高い事案

告発された事例:
脱税請負人が、脱税のために虚偽の経費を計上するスキームを節税とうたって、広く納税者を勧誘し、納税者らが当該スキームを利用して法人税及び消費税を免れていた事案。

査察事件の流れ


査察事件は、以下の流れで進行します。

  1. 国税局査察部門による調査
  2. 査察部門による取調べ
  3. 検察庁への告発
  4. 検察官による捜査
  5. 検察による起訴・不起訴
  6. 刑事裁判

それぞれのステップについて解説します。

国税局査察部門による調査

査察調査では、国税査察官が数十名体制で連携して、本人の自宅、事務所、家族の家、顧問税理士の事務所などの関係各所に一斉に臨場します。
通常の税務調査では、事前に調査日時の予告があり、国税調査官2、3名が訪問しますが、査察調査では最終的に刑事訴追を目的としていることから、事前の予告なしに、一か所につき4、5人の国税査察官がやってきます(多いときには一か所に10人以上が臨場することもあります。)。
そして、一斉に臨場先の捜索が開始され、関係する書類や物品が押収されます。
国税査察官が臨場すると、調査対象者とその関係者は外部との連絡が禁止され、関係各所全ての調査が終了するまで外部と連絡を取ることができません。
並行して、担当の国税査察官から事実関係についての質問検査を受けることになります。

査察調査と黙秘権

査察調査は最終的に刑事訴追を目的としており、行政調査ではあるものの司法的な性格を有していることから、査察調査においても、自己に刑事責任が及ぶような不利益な事項については黙秘権(憲法38条1項)の保障が及ぶと考えられています(最高裁昭和59年3月27日判決・刑集38巻5号2037頁)。
しかしながら、刑事訴訟法と異なり、国税通則法上、査察調査における黙秘権の告知は規定されておらず、国税査察官は黙秘権の告知をしなくてもよいこととなっています。
また、通常の税務調査では、国税調査官の質問に答えなかったり、嘘をついたりするなど調査を拒否した場合には罰則(国税通則法128条2号)が定められているのとは異なり、査察調査では、質問に答えなかったり、虚偽の答弁をしても罰則はありません。

査察部門による取調べ

一斉調査の後、犯則嫌疑者や関係者に対して査察部の担当者から呼び出しがあります。
呼び出しを受けた犯則嫌疑者や関係者は、国税局で国税査察官による取調べを受けることになります。
取調べでは、犯則事実に関する事実関係の確認や脱税の認識についての聴き取りが行われ、質問てん末書という調書が作成されます。
そして、最後に質問てん末書への署名・押印を求められます。
質問てん末書は告発、起訴の判断の際の資料となったり、刑事裁判での証拠にもなる可能性があるため、署名押印する際は内容をよく確認する必要があります。
そして、質問てん末書に話した内容と異なることが記載されていたり、ことさらに不利な内容になっているような場合は、訂正を求めることができます(国税通則法152条1項本文)。
また、調書への署名・押印を拒否することもできますが、その場合は調書の末尾にその旨を付記すればよいという取扱いになっています(国税通則法152条1項但書き)。

検察庁への告発

告発とは、犯人及び被害者その他の告訴権者以外の者が、捜査機関に対し犯罪事実を申告して、その捜査及び訴追を求めることをいいます(刑事訴訟法239条1項参照)。
そして、国税職員は、間接国税以外の国税に関する犯則事件の調査により犯則があると思料するときは、検察官に告発しなければならないとされています(国税通則法155条)。
査察事件のうち告発される割合は大体70%前後とされています(国税庁「令和5年度 査察の概要」より。)。
なお、間接国税以外の犯則事件については、告発は訴訟条件ではないと考えられています。
したがって、捜査機関は告発を待たずに自ら捜査を行い、公訴を提起することもできますが、実務上は、国税局職員と検察官との連携による協議(告発要否勘案協議会)を経て告発を前置することとされています。

検察官による捜査

国税職員によって告発された事件は、検察庁に受理され、刑事事件として捜査が開始されます。
検察官が在宅のまま被疑者を取り調べることが多いですが、罪証隠滅のおそれがある事件等については、被疑者を逮捕・勾留して取り調べが行われます。

検察による起訴・不起訴

検察官による捜査が終了すると、検察官が被疑者を起訴するか、不起訴とするかを決定します(起訴便宜主義。刑事訴訟法248条)。

刑事裁判

検察官によって起訴された事件は、刑事裁判となります。
刑事裁判の手続きは、一般の刑事事件と同様、以下の流れで進行します。

  1. 冒頭手続:人定質問、起訴状朗読、黙秘権告知、罪状認否
  2. 証拠調べ:検察官の冒頭陳述、証拠調べ請求、証人尋問、被告人質問
  3. 検察官による論告・求刑
  4. 弁護人による意見陳述(弁論)
  5. 被告人最終陳述
  6. 判決言渡し

なお、犯則事件について起訴された場合の有罪率は100%です(初犯の場合は多くが執行猶予付きの判決です。)。

間接国税に関する査察事件


間接国税(申告納税方式によるものを除く。例:課税貨物に課される消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、石油ガス税、石油石炭税等。)については、国税職員から報告又は通報を受けた国税局長又は税務署長は、調査の結果、犯則の心証を得たときは、一定の場合を除き、通告処分を行うこととされています(国税通則法157条1項)。
通告処分とは、国税局長又は税務署長が、罰金に相当する金額等を納付すべきことを犯則者に通告する処分をいいます。
そして、通告を受けた犯則者が罰金相当額等を任意に履行した場合は、公訴を提起されることはありません(国税通則法157条5項)。
他方、通告を受けた犯則者が、通告を受けた日の翌日から20日以内に通告の旨を履行しない場合、国税局長又は税務署長は、検察官に告発しなければならないとされています(国税通則法158条1項)。
なお、間接国税(申告納税方式によるものを除く。)における告発は、訴訟条件であると考えられています。

査察調査の相談は弁護士・税理士のどちらに依頼するべきか

弁護士とは?
査察事件は、通常の税務調査とは異なり、刑事訴追を目的としています。
そして、刑事事件になった場合、被疑者・被告人のために弁護活動を行うことができるのは弁護士だけです。
査察事件の告発率が70%前後という比較的高い割合であることを踏まえれば、査察の一斉調査が入ったら、当日かその翌日など早期に弁護士への依頼を検討したほうがよいでしょう。
弁護士の関与がないまま税理士だけで査察調査対応が行われ、起訴された公判段階で弁護士に相談に来る方もいますが、その段階では不利な質問てん末書がとられてしまっており、有罪率が100%であることから手遅れになることが多いです。
早期に弁護士が関与することで刑事裁判を見据えたアドバイスを受け、不利な調書や証拠の作成を防ぐことができれば、告発を回避することにもつながります。
そして、査察事件対応は、税務でもあり刑事事件(起訴前弁護)でもあるため、税務と刑事弁護の両方に精通した脱税事件に強い弁護士に依頼することが重要です。

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まとめ


この記事では、通常の税務調査と査察調査の違いを整理した上で、査察調査の流れとその対応方法について解説しました。
税務調査と異なり、査察調査は、ある日、突然やってきます。
そして、突然の調査によって外部との連絡を絶たれた状態で査察官から質問されて、準備する間もなく不利な証拠が収集されていきます。
このように、査察調査が入った場合は、最初の臨場時に不利な証拠を収集されているケースが多く、告発や起訴を回避するためには早期の弁護活動が必要になります。
そして、査察事件の難しいところは、税務がわかっていないと適切な弁護方針が立てられないというところにあり、刑事弁護のスキルだけではなく、税務に関しても精通していることが求められます。
そのため、査察調査が入った場合は、早期に税務に精通した弁護士への依頼を検討することをおすすめします。

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