離婚する時、財産分与についての話し合いは重要です。しかし、住宅の資産価値よりも住宅ローンの残額が多いために住宅を売却してもローンを完済できない、いわゆるオーバーローンの状態の場合、その扱いはどうしたらよいのでしょうか。どう話し合いをすすめていけばいいのでしょうか?本記事では、ある元夫婦の実例を参考に解説していきます。
▼この記事でわかること
- オーバーローンとは何か、わかります。
- 離婚した後もオーバーローン状態の住宅に住み続けるための方法がわかります。
- 名義変更する、あるいは賃借人として住み続ける場合のメリットとデメリットがわかります。
▼こんな方におすすめ
- 離婚を考えているが、自宅がオーバーローンの状態の方
- 離婚してからもオーバーローン状態の自宅に住み続けたい方
- 離婚してからも同じ家に住むための選択肢を知りたい方
離婚とオーバーローン
オーバーローンとは?
そもそも、オーバーローンとは何なのでしょうか。
オーバーローンの定義は文脈によって多少の違いがありますが、「離婚」の文脈でいう場合、「住宅の資産価値よりも、住宅ローン残額が多い場合のこと」を指します。
こうしたことは、物件の値段が買った時よりも大幅に下がった場合に起こりがちです。一般に住宅は築年数が上がるごとに価格が下落していきますので、オーバーローンとなることは決して珍しいことではありません。
例えば自宅を買ったときの値段が2500万円だったけれども、市場価値が下がってしまい、1500万円になってしまった、という場合です。
買うときに2000万円のローンを組んで購入したけれども、現在の物件価格は1500万円なので、売却しても500万円のマイナスが出てしまいます。つまり500万円の負債は残ったままなので、住宅を売ってもプラスの「財産」を分ける、ということにはなりません。
以下、とある夫婦の具体的な事例とともに見ていきましょう。
【事例】とあるAさん(女性)の場合:その1
Aさんは、夫と離婚することになりました。 Aさん夫婦の置かれた状況は以下のとおりです。
Aさんは子供の生活環境を変えたくないため、できれば今と同じ家に住み続けたいと考えていますが、オーバーローンとなっている自宅の扱いをどうしたらよいかと悩んでいます。 (つづく) |
オーバーローンと財産分与
そもそもオーバーローンは離婚する際、財産分与の対象になるのでしょうか?
財産分与とは、夫婦が共同で築いた財産(共有財産)を分配することです。したがって、プラスの財産だけではなく、住宅ローン等の借金、いわばマイナスの財産も合わせて財産分与の対象となります。
ただし、共有財産がトータルでマイナスとなってしまう場合に、債務の名義人がマイナスの分担を求めることができるかが問題となります。
オーバーローン状態になっている債務を分割して、妻も負担しなくてはいけないのでしょうか?
結論としては、裁判所はマイナスの財産について、他方当事者に対して負担を求めることを認めていませんので、裁判になった場合には、妻が住宅ローンの残債について負担を求められることはありません。
ただし、財産分与に関する話し合いと一緒に、誰が住むのか、誰がローンを返済するのかなどを合意によって決めることは可能です。
離婚しても自宅に住み続けたい!
上の事例のように、「子供がいるので離婚後もあまり生活環境を変えたくない」「経済的な理由で新しい家を探すのが難しい」といった理由で、離婚後も同じ住宅に住みたいと考えている方も多いと思います。
さきほどのAさんの話の続きを見ていきましょう。
【事例】とあるAさん(女性)の場合:その2
Aさんは、夫と話し合いの結果、引き続き今の住宅に住み続けることになりました。 (つづく) |
離婚後にも同じ家、すなわちオーバーローン状態の住宅に住み続けたい時はどうしたらよいのでしょうか。その場合、大きく分けて2つの選択肢があります。
名義変更して、自分でローンを払い続ける
まず、名義人を夫から妻に変更して、妻がローンを返済しながら住み続けるという方法があります。
メリット
ローンの支払が遅延しないようにコントロールできる
当たり前ですが、ローンの支払いが滞ればさまざまな不便が生じ、最悪家に住み続けられなくなります。
離婚後も、元夫にローンを払ってもらっている状態だと、それが遅延した場合も口頭で頼む以外対策がとれません。
しかし、自分でローンを払うことができればその必要はありません。
また、仮に再就職や再婚で経済的に余裕ができた場合には、ローンをくり上げ返済をすることもできます。
デメリット
名義変更する必要がある
妻を住宅の所有者とする場合、登記名義は夫から妻へ変更する必要があります。
金融機関は基本的にローン返済まで名義変更を認めてくれません。ですので、金融機関と相談して借り換え等を行う必要があり、手続きの手間がかかります。
今後もローンを返済できる程度の収入が必要
この場合、基本的には妻がローンの借り換えをした上で、残りのローンを払っていくことになるので、住宅ローンが組めること、月々のローンを滞りなく払える程度の収入が必要です。離婚前に専業主婦であったり、配偶者控除の範囲内で勤務していたりする方の場合、ハードルが上がる可能性があります。
「賃借人」として住み続ける
一方、賃借人として住み続けるといった選択肢もあります。賃借人とは不動産の持ち主、この場合は名義人の夫に家賃を払って家に住み続けることです。
メリット
安価で住める可能性がある
ローンの一部を家賃として夫に払っていく形であれば、名義人になって返済を続けていくほどの経済的余裕がなくても家に住み続けることができます。
デメリット
いくら家賃を払っても自分の財産にはならない
元夫に定期的に家賃を払い、実質二人でローンを返済したようなものでも名義人は夫であるため、完済後も、住宅の持ち主はに元夫のままです。
意見の衝突が起きやすい
夫にしてみれば自分の家です。夫が再婚等によって「自分の家にいつまでも別れた妻を住まわせる必要があるのだろうか?」という気持ちになる可能性もあります。
また、賃借人として妻が引き続き住み続ける場合、賃料は市場実勢よりも低く設定されることも多くあります。そのため、夫にしてみれば金銭的にも納得が行かない部分があるかもしれません。
夫婦関係が悪化し、すでに別居している状態では、直接話し合うことが難しいケースもあるでしょう。
夫婦間のみでの話し合いが難しければ、弁護士への相談を検討してもいいかもしれません。
賃借人として住み続けることを選択する場合には、財産分与について話し合ってどういう整理をするのか明確にしておくことが重要です。財産分与の話し合いの際に、家賃等についてもしっかり話し合っておくことをおすすめします。
その上で話がまとまったら、契約書を作成することを強くおすすめします。
事例の元夫婦の場合は弁護士に依頼し、財産分与についての整理を明確にしました。その結果、夫と賃貸借契約を結び、そのまま住み続けられることになりました。賃料を支払いますが、相場より安く、離婚後も子供の生活環境を変えずに済みました。
離婚後も私(妻)が自宅に住み続けるということで、夫と合意しました。わざわざ賃貸借契約書を作る必要はないように思うのですが。
口頭による合意だけでは、夫の気が変わったり、夫が再婚したりした場合にトラブルとなる可能性があります。そのため、賃貸借契約書を作成しておくことをおすすめします。
事前に賃貸借契約書を交わしておけば、賃借人としての地位を確立できます。これにより「突然出ていけ」と言われて出ていかなければならない状況を防ぐことができるため、安心して生活できます。
夫から「家賃を安くする分、養育費を減額したい」と言われて困っています。
家賃の金額によっては、養育費の権利者(請求する人)の住む家の住宅ローンを、養育費の義務者(支払う人)が負担している場合は、権利者には住宅費用がかかっておらず、義務者には自分の住む家ではない住宅ローンの負担が発生しますので、この調整が必要になる場合があります。
トラブルを防止するためにはこうした事柄についても離婚協議書等の公正証書として残しておくのも一案です。公正証書を作成しておけば、家賃を安くする代わりに何かを減額する、といったリスクを防止することもできます。離婚の条件全般にかかわるもののため、詳しくは弁護士にご相談されることをおすすめします。
離婚後も名義人を変えず、タダで夫から家を貸してもらっちゃダメなんですか?
現実的なケースでは、財産分与の話し合いもせず、今までと同じように住み続けていくケースもあります。
この場合、法的に言えば「使用貸借」となります。一般に、使用貸借は無償で物件などを貸し付けることを意味し、契約書などを使わず口約束で行われることも多いです。例えば、親名義の土地に子供が家を建てるなども使用賃借に該当します。
しかし、使用賃借には注意すべき点もあります。
- 名義人の夫に「出ていけ」と言われたらすぐに退去する必要がある使用賃借では原則、貸主がいつでも契約を解除できます。ですので、貸主の元夫が出て行けといえばすぐに家を出て行かなくてはいけません。円満離婚であってもいつどのように状況が変わるかわかりません。夫の一声で離婚後の生活基盤が突然崩壊する可能性があります。
- 名義人の夫が亡くなった場合、住み続けられない夫が亡くなってしまった場合も家を出て行かなくてはなりません。それでも家に残りたい場合は夫の相続人、例えば夫の再婚相手や再婚相手との子供と交渉して、住み続けられるようにする必要があります。
使用賃借は無料で住み続けられる、かつ面倒な話し合いをしないで済むこともあり、魅力的に思えるかもしれません。ですが、このように大きなリスクがあることも頭に入れておきましょう。
【事例】とあるAさん(女性)の場合:その3
Aさんは結局、弁護士に頼んで財産分与についての整理を明確にしてもらいました。 (完) |
まとめ
夫婦の間に共有財産がなく、オーバーローンとなっている自宅のみがある場合でも、離婚時には財産分与について事前に話し合う必要はあります。どちらかが離婚後も同じ家に住みたいのであればなおさらです。
オーバーローンの住宅があると、ただでさえ離婚のときの取り決めが複雑になりがちです。夫婦間の話し合いだけでは手に負えないと感じた時は、財産分与の話と一緒に弁護士に相談してみることを考えてもいいでしょう。