【後編】根管内でリーマーが破折!どんな行動をとるべき?責任は?

医療・介護問題

この記事の監修

東京都 / 豊島区
弁護士法人若井綜合法律事務所
事務所HP

歯内療法分野で最も発生しやすい事故である、根管内でのリーマー類の破折。
この記事では【前編】根管内でリーマーが破折!歯科医師がとるべき行動は?責任は?に引き続き、リーマー類を根管内で破折してしまった場合、歯科医師はどのように行動すべきなのか、判例をもとに考えていきます。
若井綜合法律事務所の弁護士であり、現役歯科医師である近藤 健介弁護士に解説していただきました。

▼この記事でわかること

  • 歯内療法の歯科トラブルリスクについて説明します
  • 根管内でのリーマー類の破折についての法律上での扱いについて解説します
  • 判例をもとにリーマー類の破折が歯科医師の過失にあたるのか解説します

▼こんな方におすすめ

  • リーマー類の破折に関するトラブルを防ぎたい歯科医師の方
  • 補綴治療リーマー類の破折に関するトラブルの判例について知りたい方
  • 様々な歯科トラブルへの対策をしたい歯科医院の経営者の方

【判例】根管内でのリーマー類の破折は歯科医師の過失になる?

今回は前編の記事で検討した「リーマー類を根管内で破折した場合、歯科医師の過失が認められるのか」に引き続き、判例を見ながら「根管内でリーマー類を破折した歯科医師が負うべき法律上の義務があるか」を検討したいと思います。
(東京地方裁判所平成10年(ワ)第26484号 損害賠償請求事件 平成13年3月12日)

リーマー類の破折トラブルの概要

本件は、歯科医師Y2がリーマーを破折したわけではなく、前医が患者X2の根管内に留置したリーマーを、Y2が除去せずに根管充填をした、という事案です。

判決の骨子(抜粋)

以上によれば、破損したリーマーを残置した状態で根管充填を行なうことは、将来の根管感染の不安を残した処置であると認められ、当時の歯科医療水準上、相当な治療とはいえないものと認められ、前記判断を覆すに足りる証拠は存しない。
そこで、次に、Y2が、X2に対し、破損したリーマーを残置した状態で根管充填を行うことを説明し、X2の同意を得たかについて検討する。
この点、被告は、破損したリーマーを残したまま、根管充填することについて、X2に説明し、その同意を得たと主張し、証拠(乙1)にも、説明の事実を窺わせるような記載がある。
しかし、異物が根管に残ったまま、根管充填を行うことは、細菌の増殖の危険があり、患歯の予後に重大な影響をもたらすのであるから、その説明においても、現時点で、根管充填することの危険を、患者に対して十分説明した上で、患者からの同意を得なければならない。
(中略)
さらに、本件で、被告は、レントゲンで根尖病巣が見られなかったこと等を根拠に感染等の異常かなかったと判断して、根管充填を行っている。しかし、根管充填の前に根管の内容者(ママ)の細菌学的検査や生化学的検査を行う(甲3)等の慎重な対応をとったと認めるに足りる証(ママ)はない。また、破損したリーマーを残したまま、根管充填することを、X2に十分説明し、その同意を得たこと、他の病院を紹介しようと試みたとの事実を認めるに足りる証拠もない。
d以上によれば、被告には、本歯牙について、破損したリーマーを残したまま根管充填を行った過失があると認めるのが相当である。
(ウ)小括
以上の説示から明らかなとおり、被告には、本歯牙について、残っていたリーマーを除去するか、他の大学病院等を紹介するなどの必要な措置を取るべきであったのに、それを取らないまま、根管充填を行った過失があるという限度で、原告の主張には理由があるが、その余の主張は理由がない。

判旨は「十分な説明をせず、残置されたリーマーを除去せずに根管充填を行った場合、リーマーを除去せず、また除去できる大学病院等を紹介しなかったという限度で過失を認める」としました。
なお根管充填前に「細菌学的検査や生化学的検査を行う」べきだったとする点は小括には出てこないことから、少なくとも過失判断の要件ではないようです。

また判旨は残っていたリーマーを除去しなかったことも過失判断に加えておりますが、本稿の考察からは除外します。

判旨の妥当性は?

裁判

根管充填とは、歯髄腔内の有機質や感染物を除去し、ろうと状に形成された根管内に、根管充填材を緊密に充填することで、感染を防ぐ処置をいいます。
重要なのは根管内を無菌に保ち、細菌が増殖しうる死腔をできるだけなくすことです。
どんなに無菌的に根管充填できても、死腔があれば血行性で感染するとも言われており(アナコレーシス)、緊密な充填が要求されます。

そのため根管内に破折したリーマー等を残置したまま根管充填することは、緊密な充填が不可能という意味で、判旨が「歯科医療水準上、相当な治療とはいえない」と述べたことはやむをえないと言えるでしょう。

予後の責任まで問うべきではない

ただし破折したリーマー類を根管内に残したまま根管充填したことについて、以下の理由から予後の責任まで問うべきではありません。もしこれを認めれば、結果責任を問うことに繋がりかねないからです。

  • 緊密な根管充填を行った場合でも、根尖病巣を形成せず予後が良好なのは、抜髄で95%、感根処で90%、再治療で60%と言われている
  • リーマー類を破折した段階が根管治療初期か、処置がほぼ終わった終期かで根管内の状態が大きく異なる
  • そもそも根管の形態は複雑で、緊密に根管充填できない部分が相当程度ある
  • 日本歯内療法学会でも根管内の金属の存在自体が治療成績に影響しないとしている

この点について、判旨が破折したリーマー類を除去せずに根管充填を行ったことのみで過失とせず、必要な措置を取らずに根管充填した限度で過失を認めるとしたことは、妥当と考えます。

事実上、過失は説明義務違反、転医義務違反のみを認めている

そして判旨は、過失を認める場合として、患者に十分な説明をせず根管充填をし、リーマーを除去できる大学病院等を紹介しなかった場合を挙げ、「その限度で」と述べています。
この判旨の判断は事実上、過失を根管充填前の説明義務違反・転医義務違反「の限度で」認めたものです。
つまり判旨は、破折したリーマー類を除去せずに根管充填を行ったことの過失を判断したというより、その際の説明義務違反、転医義務違反を認めたというべきです。

私見からすれば、本件裁判所ははっきりと「根管充填処置自体に過失はない」と明言したうえで、根管充填前の説明義務、転医義務の問題として過失を認めるべきだったと考えます。
この点において、判旨は再検討されるべきでしょう。

リーマー類を破折した事案への応用

この裁判所の判断は、リーマー類を破折した歯科医師の取るべき行動にそのまま活かかせます。
「リーマー類を破折した場合、歯科医師には原則として過失が認められるべきではない」という私見からすれば、根管内にリーマー類を残置したのが誰であっても、歯科医師がとるべき対応は変わりません。
そのためリーマー類を破折した場合も判例と同様に考え、歯科医師はそれ自体で過失は認められないものの、その後に説明義務及び転医義務を負うというべきです。

結論

私見では、リーマー類の破折は偶発症であり、原則としてそれ自体に過失が認められるべきではないと考えます。
つまり歯科医師は、リーマー類を破折した後、患者が他院でリーマー類の除去に費やした費用や、除去時に生じた合併症の治療費等を支払う義務を負わないと言うべきです。
ただし、以上の結論には一定の留保があるというべきでしょう。

歯科医師は、リーマー類を破折した場合は、破折した事実を速やかに患者に告げ、予後、メリット・デメリット等について、患者が保存療法か除去かを選択できるだけの十分な説明をしなければなりません。
これを怠れば、説明義務違反といえます。

そして患者が除去を選択する場合は、当該歯科医院で除去できる場合は除去し、できない場合は大学病院等、除去が可能と思われる診療機関を紹介する義務があるというべきです。
これを怠れば、転医義務違反が認められるべきです。

以上が「根管内でリーマー類を破折した歯科医師が負うべき法律上の義務」と考えます。
そして、これらを患者に十分理解してもらうために、歯内療法処置にあたり、あらかじめリーマー類の破折がありうることを患者に周知しておくべきでしょう。

業界に精通した弁護士として、今後の歯科医療のため尽力


歯科医師は、リーマー類を破折した場合、患者に説明しないままにしてしまうことがあります。
これは、リーマー類を破折したことでどこまで責任を問われるかわからないことに起因する部分が多いと思います。

しかし、リーマー類の破折は偶発症として一定の割合で生じうるのであり、むしろ患者のより良い予後のため、「攻めた」治療をすれば破折が生じやすいのですから、歯科医師はまったく気に病む必要はありません。

歯科医師は、速やかに患者に説明して選択肢を提示し、最善の処置を行うべきです。
そして、そのように対応した歯科医師には法的責任が問われるべきではありません。

私は、リーマー類を破折した場合の対応と、責任の範囲を歯科医師が正しく理解すれば、歯科医師は委縮することなく根管治療を行うことができ、患者の予後の向上につながると考えています。
歯科医師が患者にリーマー類を破折したことの説明さえためらう状態は不適切です。
今後も微力ながら、医療紛争を通じて是正していきたいと思います。

またリーマー類の破折といった歯科医療の専門知識が必要なトラブルを解決するには、業界を熟知した弁護士と顧問契約し、いち早く対策を講じることが大切です。
歯科医院の経営者さまは弁護士へのご依頼をご検討ください。

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